謝りたくなる実力差
「あっぶねーーー!」
「ひえええっ!」
ラウトの機体のビーム兵器がやべーんだよ。
たまに地上にも飛んでくるのだが、地面が抉れとるんじゃ。
お前ここよその国だからな!?
よその国の大地を抉るんじゃないよ!
「! ジェラルド!」
俺のところを通り過ぎる、幅数メートル規模のビームはラウトの機体のものだろう。
それが地面を抉るように走り、ジェラルドのいる方へ向かった。
やばい、あそこにはスヴィア嬢もいる。
振り返るとすごいスピードで俺の機体を通り過ぎる地尖。
だが、左前足が破損している。
「ジェラルド!」
『大丈夫、避けきれなかっただけ。損傷軽微だよ』
「くっ、すぐに止めてくる!」
言って聞くだろうか、と言う不安はあるが、止めないことには被害は拡大するばかり。
飛び上がって、二機の交戦するところまで一気に行ってみよう、と思った瞬間空に魔法陣が広がる。
あ、あかんやつだこれ。
地面に降りて、地尖の前へ立つ。
「闇の守りよ、我らを守る砦となれ! ダークネスフォルティス!」
機体の操縦技術はイマイチだが、俺の闇魔法はちゃんと上達しているぜ。
なんならギア・フィーネは魔法対応らしく、杖なしでも俺の魔法をギア・フィーネのサイズで再現してくれることがわかっている。
これはラウトが現在進行形でギア・フィーネに搭乗しながら、魔法を使っているのでわかったことだ。
最初は“神鎧ギア・フィーネ”だからなのかと思ったが、ディアスにも俺にもできたのでやはりギア・フィーネならできる、ということらしい。
石晶巨兵にもおそらくは可能だが、あえてそれを阻害する機能を取り付けている。
俺は石晶巨兵を、兵器にはしたくないからだ。
なので、ジェラルドとレナとスヴィア嬢は俺が守る。
じっと動かないで、闇魔法を使うのなら、俺は誰にも負けない!
「っ」
負けないし、全部防いでいるんだが——空に無数に浮かぶ魔法陣から放たれる火球の数が、もはやアルマゲドンでは?って量。
しかも一弾一弾が三メートルぐらいある。でかい。
普通の人間なら三人で打つようなレベルのやつだ。
相変わらず魔力お化けだな、ラウト!
けど、俺の目はそれよりも信じ難いものを見た。
「うっそだろ……! 避けんのかよ、これを! 全部!?」
火球のスピードは時速100キロは超えてると思う。
この大きさでこのスピードで、あの雨みたいに降ってるあの量を、二号機が目にも止まらぬ速さで避けていかのだ。
全弾回避。
嘘だろ、ありえねぇ。
どんな動体視力と反射神経と空間認識能力持ってたらアレを全部避けられるんだよ?
「…………穴から這い上がるだけで褒められててすみません……」
「ヒューバート様!? 急になんで謝るんですか!?」
「あまりにも俺が操縦ポンコツすぎて……」
「よ、よくわかりませんけど、比較してはいけません! ヒューバート様はヒューバート様のペースで頑張ればいいんです! それに、ヒューバート様は今現在こうしてわたしたちを守ってくださってるじゃないですかっ!」
落ちてくる雨水をすべて避ける、なんて芸当、人間にできると思う?
それを目の前でやってのけられたようなもんだぞ?
ギア・フィーネはフルマニュアル操作のはずなのに。
脳みそどうなってるんですかあの人たち。
これがギア・フィーネ同士の戦い。
これが千年前に起こっていた戦争の記憶。
いや、ラウトは“神鎧”になる前だったし、魔法も当時はなかったはずだが、それでも——!
「!?」
炎の雨が止んだ瞬間、二号機が可変して人型になる。
次の瞬間、先ほど目覚めたばかりの二号機が、魔法陣を宙に張り巡らせた。
俺は、夢でも見てるのか?
シズフさんは、さっき目を覚ましたばかりのはずだろ?
魔法を——使える!?
使っている!?
「嘘だろ……なんでもありかよ!?」
規模は小さいが、ラウトが今、まさに使った魔法を完コピして放った。
黄金の光がそれを全部真正面から受けて、二号機に突っ込んでいくのが見える。
まさに真逆!
すべて避けて見せた二号機と、すべて受けてノーダメージで突っ込む五号機。
そんな五号機の突進を苦もなく避けて、後ろに回り込む二号機のスピードに重装備型の五号機はやはりついていけていない。
なるほど、これは確かに決着がつかなそうな相性だ。
二号機では五号機を討つのに力も火力も足らず、五号機は二号機を捕らえられない。
千年前にはなかった“魔法”という新たな手段も通用せず、更にはコピーされてしまう。
この辺は完全にシズフさんの戦闘センスが異常。
ミシアの強化ノーティス——強化人間舐めてましたすみませんでした。
いや、こんなやばいと思わないじゃん、普通!
アニメのラスボス級じゃん!?
ラスボスがラスボスと戦ってる感じしかしないじゃん!?
世界終わるんじゃねーの今日!
『あ……アタシ……こんな、こんな怪物を目覚めさせてしまったの……?』
「!」
ジェラルド、というか地尖の操縦席から、絶望に染まった呟きが聞こえた。
画面を見ると顔を真っ青にして震えるスヴィア嬢の姿。