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観賞用イケメン

 

「お前が殺した者を愛していた者が、お前の愛する者を殺しても——同じことが言えるのか?」

「…………」


 ゾッとするような問いかけだ。

 でも、彼らの時代は本当にそういう時代だった。

 世界が、憎しみを煽られて終末へと加速した時代。


「戦いとは、殺し合いとはそういうものだ。覚悟がない者が武器など持つものではない。こんなはずではなかった、など、邪悪な者の酒の肴になるだけなのだから」

「……うっ」


 あまりにも淡々と詰められて、スヴィアがすっかり戦意喪失した。

 まあ、あれはつらい。

 俺もあんなふうに詰められたら落ち込む自信がある。

 ……ただ、多分俺はスヴィアのようにはならない。

 口先だけでも、俺は石晶巨兵(クォーツドール)を戦争に悪用されたら悪用した国と違う。

 人の命を奪えるのか、と言われたら、極力奪いたくはないけどそれ以外に道がないなら引き金を引く。

 俺には今、他者の命を容易に奪える“力”がある。

 この力に溺れることなく、この先も命を尊んでいきたいと思うけれど、俺はきっと大丈夫。

 隣にレナがいてくれるから。


「……」

「!」


 立ち上がった二号機の登録者が、ヘルメットに手をかける。

 両手で持ち上げ、外した瞬間どこにあの量がしまってあったのかってくらいに髪がはらはら広がって落ちた。

 背中の中ほどまである金の髪は外側に盛大に跳ね散らかしているのに、それが一種のファッションの如くお似合いなモデル風の男。

 軍人と聞いていたが、強化の影響でいくつかの病を発症していると聞いている。

 その分筋肉がつきづらかったのかもしれない。

 ちょっとパッと見、前線で戦う軍人には見えない。

 白磁の肌は確かに少し病弱に見える。

 切長い、透き通るようなスカイブルーの瞳。

 はい、ディアス級のイケメンですね。

 しかしディアスと違って、美術品みたいで無機質な印象を受ける。

 ラウトも綺麗で整ってるが、ラウトよりもそういう印象を受けるのはラウトがすぐに感情的になるからだろうか。

 なるほど、この人さては観賞用だな?


「シズフ・エフォロンだ」

「あ、ヒューバート・ルオートニスです」

「先程聞いた」


 あ、ハイ。

 さーせん。


「千年経っていると言っていたが、つまり俺以外の登録者は死んでいるということか?」

「あ、いえ、あの、ディアスが……一号機の登録者は、結晶病で生き返って……? 千年生きてきていて、あと……五号機の登録者のラウトが一緒に来て、まし、て」


 どうしよう。

 二号機はミシア——共和主義連合国軍という、ディアスとラウトが所属していたアスメジスア基国と敵対関係の組織所属と聞いている。

 なんかこう、誰に対しても大らかなディアスはともかく、誰に対しても攻撃的なラウトの話をしても大丈夫なものだろうか。

 あと薬漬けにされてたとか怖い話聞いてるんですけど、その()()現代には存在しないよね?

 突然凶暴化したりしない!?


「ラウト」

「え、あ、は、はい」

「ラウト・セレンテージと、ディアス・ロス」

「は、はい」

「アベルト・ザグレブとザード・コアブロシアは死んだのか?」


 ……なんでフルネームで呼ぶんだろう。

 そういえばラウトもディアスも割とフルネーム呼びするよな。

 千年前の流行り?

 似た名前が多かったの?

 わからんけど、被るような名前ではないような?

 まあ、いいか?


「アベルト・ザグレブさん、は、亡くなってると聞いてます。えっとお嫁さんの故郷に行って、教師として働きながら生涯王配として女王を支えて、たくさんの人に看取られて」

「…………」


 その時、一瞬だけ表情が変わる。

 目が細くなり、とても、とても穏やかな——。


「そうか。幸せに過ごしたのだな」

「あ……は、はい。そう聞いています。子沢山だったって」

「それはなによりだ。いつか彼の子孫にも会えるのだろうか」

「そ、それは……うーん?」

「難しいか」

「あ、でも、ザードっていう人の子孫? いや、身内の子孫って言ってたっけ? とにかく子孫なら地上で一緒にいますよ。俺の乳母兄弟なんです」

「ザード・コアブロシアの」

「は、はい」


 あ、やば。

 ザードって人は性格と口が最悪に悪いらしいから、もしかして嫌われて——!?


「あの殺しても死なないような男も、所詮は人だったということか」


 い、言われ方ァ……。


「ラウト・セレンテージが近くにいるのか」

「え、あ、はい。そうですね。でも、あの、もう世界は戦争とかしてないので」

「そうか」

「ラウトも、あのー……二号機の、機体だけは一度破壊させろって言ってるくらいで、別にシズフさんと戦いたいわけではないと思うので」


 なんとか、なんとか穏便に済ませていただけないでしょうか!

 レナも俺の隣でコクコクと頷いてくれる。

 そう、あの、本当にもう!

 世界戦争は終わってましてですね。

 なんなら国がもう違うんですよ!


「ヒューバート・ルオートニス」

「は、はい」


 俺までフルネーム呼び!?

 そういう文化が千年前にはあったのかな!?


「ラウトを許せ。あれは情に深い」

「へ?」


 多分それは、はい、そんな気はしてます?

 え? 突然なに?

 ラウトと敵対関係だったんじゃないの?

 頭にはてなマーク浮かべまくっていると、シズフさんの右目が突然光る。

 え、待って、目が光っ……!?


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