大穴の中
ここまでは音声を外へも聞こえるようにしていた。
オフにしてから、ラウトに繋ぐ。
「ラウトはどうする?」
『待っている。お前とレナになにかあれば、俺の加護が勝手に発動するだろうし。しかし、俺と同じ状態になっている者など本当にいるのか?』
「それも確認してくるよ。助けられそうなら助けるとして、三号機の登録者っていう可能性あるのかな?」
『……なくはないだろう。先に言っておくが、本当に三号機の登録者だとしたらジェラルドは連れて行った方がいい』
「あ、うーん。わかった」
よくわからないが、ラウトがそう言うのならそうしよう。
ジェラルド——地尖はついてきて、と改めて指示して少女を向き直る。
「では案内してもらおうか。ええと、名前は?」
なんとなく偉いところの娘さんなんだろうな、と思ったが——。
「スヴィア」
という答えに納得もした。
「ヒューバート様、スヴィアさんというと……」
「うん、ハニュレオの聖女と同じ名前だな」
スヴィアと名乗った少女は、なんの迷いもなく結晶化した大地に入っていく。
まさかと思ったが、トニスのおっさんの報告にあったハニュレオの聖女スヴィアご本人らしい。
ジェラルドの地尖を連れて、その少女の後ろをついていく。
歩幅が違いすぎるので「乗る?」と、聞いて手のひらの上に乗せて案内してもらうと、なるほどかなりでかい穴が空いている。
その大穴の中を覗き込むと、深い。
「え? こ、ここに入ったの? 君」
『前はこんなに深くなかった』
「ふ、ふーん」
手のひらの上にいたスヴィアがそう答えて、穴の中を指差す。
はぁ、と溜息が出た。
「ジェラルドはここで待機してくれ」
『え、でも』
「イノセント・ゼロには飛行機能があるから大丈夫。むしろ練習になる」
『そうだね!』
強めに同意されてしまった。
一応目が覚めてから乗る練習はしているんだが、相変わらずギア・フィーネの操縦が難しい。
操縦の仕方はデータとして頭の中にダウンロードされているのだが、じゃあ上手く操縦できるかっていうと——そんなことはないのだ!
こればかりは体の慣れ!
反射神経!
動体視力!
剣の鍛練もそこそこで、防御力魔法ばかり上げてきている俺は操縦になれるしかない!
アニメみたいに乗ってすぐチートなんてるやはり夢だったのだ!
ロボットもまた練習あるのみ!
精進あるのみなのだ!
「……行ってくる」
『行ってらっしゃい〜』
「ヒューバート様、頑張りましょう!」
「はい」
特に飛行は難しい。
補助機能があるのにも関わらずガタガタしてしまう。
ジェラルドとレナに応援されながら、ふわりと穴の中へと降りていく。
幸い横の壁にぶつかるのを気にしないで済むぐらいには広い。
何十メートルあるんだ、横幅。
二十メートルぐらい? もっとありそう?
「お」
底は思ったよりも早く到着した。
イノセント・ゼロが十八メートルくらいだから、縦穴は五十メートルぐらいの深さかな?
「着地成功!」
「はい! とても静かな着地でした! ヒューバート様、着地の腕が上がっています!」
「えへへー!」
レナ、めちゃくちゃ褒めて伸ばしてくれるので鼻の下も伸びていないかちょっと不安。
でも、まあ、できることが増えるのは普通に嬉しいよな。
「——ん!」
そしてイノセント・ゼロのモニターに反応。
飛行と着地に集中してて気づかなかった。
……はい、こういうところが未熟なんですね、知ってまーす。
精進しまーす。
「ヒューバート様、あれは……」
「う、うん。ちょっと予想外だな」
灰色の戦闘機が、結晶化した岩盤に埋まっている。
その上にラウトの時のように、結晶の柱があり、中に人がいた。
金髪の成人男性。
パイロットスーツで、ヘルメットも被っている。
光の加減でかろうじて金髪だとわかるぐらいな。
「ねえ、この人を助けられないの? ワタシじゃ上に連れて行けないのよ」
スヴィアが地面に降りて、結晶の中の男を指差す。
その救護精神はレナと同じか。
聖女の本能的なものなのか。
『わかったよ、危ないから下がってて』
外にいるスヴィアへ向けてそう言って、機体に近づく。
灰色の戦闘機は、イノセント・ゼロの表記によると『二号機』。
ギア・フィーネシリーズ、二号機『ディプライブ』。
“奪う者”を冠る機体であり、アスメジスア基国とカネス・ヴィナティキ帝国二強であった世界の均衡を崩し、世界に戦乱を広げるきっかけとなったギア・フィーネ。
高速可変型で、ギア・フィーネの中で唯一戦闘機に変形する。
ギアが上がるとスピードも上がり、空気中の水分と光を操り、幻影を見せるようになるらしい。
ギア・フィーネシリーズで扱いがもっとも難しいと言われる。
ラウトの機体とは真逆のスピード特化で、攻撃力は多分ギア・フィーネシリーズ中最弱。
だが、だからこそ五号機とは決着がつかなかった。
登録者はミシアの軍人、シズフ・エフォロン。
強化ノーティスという強化人間で、薬物により延命していたらしい。
だから、その、どうしよう?
ナルミさんに聞いたんだけど、ラウトは二号機に父親を殺されているらしいのだ。
それ以外にも、二号機とは何度も戦って引き分けている、ある意味怨敵中の怨敵。
小ネタ
ナルミ「ヒューバートはホンットパイロットの才能がないねー。軍に入りたての訓練生や初めてサルヴェイションに乗ったディアスでももう少しまともに操縦できるよ?」
ヒューバート「う、うるさいなぁ! 操縦方法知ってるのと実際動かすのは勝手が違うんだよっ!」
ナルミ「こりゃーパイロット適性ランキング修正が必要かなー」
ラウト「アべルトだって初めて乗った時は海に落ちたし、突然転んだし、明後日の方向に走り出すし、三号機に抱き着いたし、俺の機体の盾に顔面強打していたし、散々意味のわからない操作をしていたから初心者はそんなものだろう」
ナルミ・ヒューバート「「……………………」」
四号機は規格外なことばかりする。byラウト