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番外編 三神

 

「おい貴様! どうやって三号機に超長距離狙撃をさせた!」

「わぉ、久しぶりに会って第一声が恫喝だなんて怖いねぇ。君が精神退行してカワイイ坊ちゃんだった時に会いたかったな〜」

「質問に答えろ」


 場所は騎士団の訓練場。

 そこに佇む三機のギア・フィーネ。

 完全に手狭になりつつあるので、近々ギア・フィーネは研究塔に収容されることになる。

 が、しかし。

 その訓練場には現在ルオートニスの守護神に認定されたラウト・セレンテージと、ヒューバート王子、レナ・ヘムズリーを、英雄と大聖女に導いたもう一人の守護神ディアス・ロスの他にもう一人。

 研究塔から現れた未知の不死者、ナルミが笑顔でその二神をで迎えていた。

 正直騎士たちはディアス以外、恐怖の対象である。

 ラウトは騎士団に時折遊びに来て、剣を学んでいたことがあった。

 当時はまだ少年の姿で、性格も明るく素直だったので弟や我が子のように接する騎士が多かったものである。

 が、ギア・フィーネの登録者として記憶を取りもしたラウトは別人。

 青年の姿になり、性格も苛烈で尊大。

 あんなに明るくて素直な良い子が、どうやったらこうなる?というくらい別人。

 ディアスとは違った意味で美しい造形のラウトが凄むと、怖すぎて泣いてしまいそうになる。

 騎士たちの視線にそんな哀愁を感じて、ディアスが複雑な気持ちになりつつラウトを「まぁまぁ」と宥めるが聞く耳を持ってもらえない。

 そんな気はしていた。


「なんということはない。エアーフリートの回線は知っていたから、アクセスしてみたんだよ。ギア・フィーネたちには拒絶されていたけどね」

「エアーフリートの位置を知っているのか?」

「エアーフリートの位置は知っているけど、三号機の位置はいまいちわからないな。四号機はルレーン国にあったけど」

「……」


 ナルミが怪しい笑みを浮かべたまま、小首を傾げてラウトを見上げる。

 機嫌の悪そうな顔に、まるで動じた様子もない。


「ナルミは大戦のあとのことを知っているのか?」

「そりゃあ、オレはシズフに助けてもらってエアーフリートにしばらく世話になったからね。知ってるよ。すごい大変だった。ンフフフフ、知りたい?」

「「うっ」」


 にやり、と笑うナルミに、口元を引き攣らせるラウトとディアス。

 もう誰が見ても恩を売られたら最後——みたいな顔である。

 騎士たちからすれば、守護神二神をあんな表情にさせるナルミは一番敵に回してはいけないのでは?と思ってしまう。

 概ね正しいのが悲しいところか。


「世界に結晶病が現れ、人々が突然結晶化して崩れ落ちる事案が増えて、その症状にまさかの歌い手の歌が有効だったことからリリファやラミレスは大忙し。二人ともその力で女王と女帝に君臨。アベルトはリリファと結婚して五人も子どもをもうけたよ。ギア・フィーネの登録者としてボロボロになった各国を取りまとめ、リリファ——もといルレーン国とカネス・ヴィナティキ帝国は共同で戦争終結を宣言してアスメジスア基国とも平和条約を取りつけた。まあ、アスメジスア基国も歌い手が来てくれないと結晶病が大変だったから仕方ないね」

「……それは、伯父上が?」

「そうだね。あの戦争で生き延びたアスメジスア基国の将はロニー・ベル・ロスただ一人。他はみんな五号機が殺しちゃったもんね。あ、君の元上司のガーディラ・マーベックを殺したのは三号機だっけ」

「っ」


 ギロリと、殺意のこもった翡翠色の瞳が睨みつける。

 それをものともせず、舌を出して笑うナルミ。

 結局、アスメジスア基国は治める者がロニーしかおらず、全都市を一度統合。

 戦後処理を終わらせる頃には、彼は八十代になっており貴族内で君主選挙を行い、次期国王を選出後引退。

 穏やかな余生を送ったという。

 それを聞いてディアスが安堵した表情になった。

 故郷と、身内のその後を聞けて一つ区切りがついたのだろう。

 もちろん妹や弟のその後も知りたいだろうが、ナルミはそこまで知らない。


「ちなみに三号機の登録者は戦後三号機とエアーフリートを隠して、本当に忽然と消えたよ。四号機の登録者はルレーン国でリリファを支えながら、教師になった。平和を教えてこちらも幸せな人生を送ったみたいだね。その前にワタシは眠りについたから、最期は知らないけれど」

「……教師……」

「アベルトには似合いだな」

「ボクもそう思うね。子どもに囲まれて楽しそうだったのは見ましたよ」


 さぞや大変だっただろう。

 しかしそれで諦めるような男ではない。

 三号機の登録者はらしいといえば実にらしい。

 ナルミにさえ痕跡を辿らせないとはさすがである。


「…………」


 そして、ラウトにとってアベルトのその後はなんとも——実に感慨深い。

 あの男が子どもという未来に囲まれて穏やかに、女王の伴侶として苦労は当然多かっただろうが、それでも幸せな人生を送ったというのは。

 他の誰よりもあの強情でお人好しな男の幸せを、自分が願っていたことに気づいて自分で自分に少し驚いたが。


「……へえ? 憎悪の権化とまで呼ばれたキミも、そんな表情(かお)するんだね?」

「姦しい。黙れ女狐」

「しかし、ということはヒューバートが次に向かうハニュレオにはエアーフリートがある可能性が高いのか」


 ディアスが空を見上げながら口にしたそれに、ラウトとナルミが地味に嫌そうな表情をする。

 エアーフリートがあるということは、三号機があるということだ。

 ハニュレオの近くに。

 かつてカネス・ヴィナティキ帝国であったところに。


「少なくとも二号機もその辺りにあると思うよ」

「「…………」」


 三人の表情がますます曇る。

 ナルミだけはへっ、と嫌味な笑みを浮かべるけれど。


(((ついていくの、嫌だな……)))


裏設定


三号機の登録者ザードには戸籍上、姉がいました。

彼女はラウトの直属の上司でありメイゼアの当時の都市長、ガーディラ・マーベックの恋人であり副官という立場。

アスメジスア基国が反王家の反乱に混乱する中、ラウトを反王家に奪われることになったガーディラは立場を失い、三号機鹵獲という絶望的な任務を遂行することで責任を取るよう追い詰められます。

隊長機を持つガーディラであっても三号機との戦いは一方的なもので終わりますが、危険を顧みず真っ先に遺体を回収に現れた女性を自身の姉であると認識したザードは、記憶と人格の齟齬に勘づき、「俺は擬似人格だったのか」と自覚します。

同時に守るべき主人格の姉のかけがえのない人を手にかけたことを知り、二重の衝撃と苦しみを抱えることになりました。

ザードの姉はこの時妊娠しており、その子孫がジェラルドとパティのミラー家です。

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