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イノセント・ゼロ

 

 ——『神性領域』。


「レナ、歌って!」

「え! でも!」

「神性領域……ギア5だ! デュラハンを助けるには、それしかないよ!」

「でも……でも……」

「ヒューバート、キミも迷っている時間はないよ」

「え?」


 下から声がかかる。

 風が下から噴き上がり、あまりの強さに顔を腕で覆う。

 降りてきたのは——さっき五号機を殴った深緑と白を基調とした機体。

 よく見ればそれはサルヴェイションによく似ていた。

 ブレイクナイトゼロにも似ている。

 つまり……。


「ギア・フィーネシリーズ四号機、イノセント・ゼロが君を登録者にご所望だよ」

「え!」


 そのまま降り立ち、操縦席のハッチを開くその機体が——ギア・フィーネシリーズ四号機。

 ラウト、と映像の中で今もラウトの身を案じる優しい声を思い出す。

 迎え入れるように俺を真っ直ぐ見据えている、四号機。


「………………」


 でも、でもデュラハンが。

 ラウトを止めたい。助けたい。

 国を守らなければ。俺はルオートニスの王子だから。

 きっとすぐに五号機は持ち直して、また仕掛けてくる。

 止めるにはギア・フィーネしかない。今の俺なら手足が操縦席に届く。乗れる。でも戦えるのか? 相手はギア5。

 サルヴェイションとデュラハンが勝てなかった相手に俺が勝てるわけがない。

 けど、みんなを、守らないと、俺に、できるなら——。

 わかってるのに、足がすくんで、動かない。


「っ! ヒューバート様! 行きますよ!」

「! レナ!?」


 俺の手を掴み、レナが四号機に向かって走り出す。

 ええ!?

 そんな、無理……!


「結晶病はわたしが防ぎます! わたしも一緒に、あなたと戦います! ラウトを止めましょう!」

「レナ……」

「歌います! わたし……歌い手で、あなたの聖女だから!」


 上空に現れる黄金の機体。

 ランスを向けられ、そのまま突進してくる。

 それを、デュラハンとサルヴェイションがオールドミラーで狙い撃って牽制してくれた。

 行けというのか、デュラハン。


「っ! 行くぞ、レナ!」

「はい!」


 なら、俺がやるべきことは一つだけじゃないか。

 迷うまでもない。

 機体に腕を伝って駆け上がり、操縦席に滑り込む。

 見上げたモニターに文字が羅列して、問われているのだと確信した。


「ヒューバート・ルオートニス!」

『————』


 聞いたこともない言語。

 でもそれでもいい。

 今は——!


「深い夜に 瞬く星を 見上げながら あなたを想う あなたのところへ 飛んでいけたら 手のひらを 天井に掲げてみても 蝶になれるわけでは ないけれど ヒラヒラと 舞い上がる 声を聴いただけで 心が 踊る 蒼い空に 包まれて どこまでも 広く高く 羽ばたいて 雲も超えて 届け あなたのもとへ 私の心」


 レナが歌う。

 レナを中心に広がる光の柱。

 それがデュラハンを包み込んだ時、一瞬だけ力が抜けた。

 生きてほしかった、本当に。

 でも、振り払うように見上げる。

 その瞬間、頭の中に入ってくる……これは機体の操縦方法?

 それに——戦い方。


「ラウト!」

『!』


 俺自身の反応速度がついていかない。

 飛び上がってラウトの、五号機に体当たりしていた。

 慌てて体勢を立て直そうとしたが、速すぎて変な方向に曲がる!

 え、これ、やっぱり無理では?

 かっこよく出てきたけど、無理では?


『はぁ!?』


 多分すぐ体勢を戻して追撃がくると思っていたラウトの素っ頓狂な声が聞こえて「ごめん」となる。

 ちょっと大きく振りかぶりすぎましたね、へへっ。

 ……全っ然笑えねーよ、どうするよこれ。


『ヒューバート、このおバカ。冷静になって機体と同調しなさい』

「ナルミさん!?」

『レナ、君は歌を続けるんですよ。ワタシの助力はすぐ必要なくなるでしょうけど、今だけ助けてあげます』

「「あ、ありがとうございます!」」


 ガチめに。


「深い夜に 瞬く星を 見上げながら あなたを想う あなたのところへ 飛んでいけたら 手のひらを 天井に掲げてみても 蝶になれるわけでは ないけれど ヒラヒラと 舞い上がる 声を聴いただけで 心が 踊る 蒼い空に 包まれて どこまでも 広く高く 羽ばたいて 雲も超えて 届け あなたのもとへ 私の心」


 レナの歌声で心が落ち着いてくる。

 同調……同調? 同調ってどうやるの?

 同調……。


『……っ、ふざけた真似を……!』

「ラウト……?」

『アベルト・ザグレブの機体に、お前が! 乗るか! ヒューバート・ルオートニス!』

「っ!」


 五号機の光が強くなる。

 瞬間移動がくる、と思った時、またバランスを崩して地上に落下した。

 え、そんな突然[浮遊]の魔法が切れたみたいに落ちる?


「ヒュ、ヒューバート様ァァァァァア!?」

「ごめん待って慣れてないのごめん本当!」

『バカなの?』


 ナルミさんの声がして、機体のバランスが元に戻る。

 いや、こわ。

 ジェットコースターも目じゃないぐらい怖!


「俺の体の反応速度に、機体の反応速度が合ってない……俺の問題だ。ごめん、レナ」

「い、いえ」

『ギアを上げてご覧よ。キミたちならできる』

「ギアを、って、言われてもねええええっ!」


 どがん、と俺たちがいたところをラウト——五号機のランスが貫く。

 え、待って?

 今の当たってたら死んでる!

 ラウト、本気か?


裏設定


イノセント・ゼロは初期『イノセンス』という名称でした。

四号機の登録者のアベルトが、15歳のラウトと最後に戦った時に相打ち特攻で中破状態になり、その後自己再生した結果機体が進化。

名称をイノセント・ゼロに改めました。

ゼロを加えたのはラウトの機体、ブレイク・ゼロ及びナイト・ゼロを意識したもの。

ザードには「キモい」「もう少し捻れ」と不評でした。

ただそもそもアベルトがラウトを助けたいと強く思うようになったのは、自分を助けてくれたザードがずっと守って救いたいと思っていた一号機の初代登録者の少女を、殺害という形でしか救うことができなかったのを見ていたからです。

登録者を救うことがザードの心もほんの少し慰めるものだと本能的に気づいていたので、アベルトも他の登録者を助けること、手を取り合うことを目標にしていました。

ディアスもその思いに救われた一人です。

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