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従う者(2)

 

「…………っ」

「ランディ?」


 と、こんな感じで俺は日々楽しく異世界のお勉強をしている。

 だが法律関係はさすがに色々こ難しくて理解できんわ。

 なにか面白くなるコツないかなぁ、と声をかけたのに、ランディの顔は蒼白。


「ど、どうした?」

「殿下は、まだ、8歳でいらっしゃるのに……これほど多種多様な分野の本を読まれて、その上剣や魔法の稽古も真面目になさっていて……」


 ガクン、と膝をつくランディ。

 うわぁお〜〜〜!

 お、俺、人間が『膝から崩れ落ちる』ってリアルで初めて見たぁ!


「ランディ、どうしたんだ! ほんとに!」

「……自分は……自分は……なんの才能もないのに……」

「!」


 ああ、メリリア妃がランディをそんなふうに罵っていたよな。

 兄たちも騎士団や文官や法官と、文武に優れてる。

 席を立って入り口の側に座り込み、手をつくランディに近づく。

 目線を合わせるようにしゃがみ込むが、その表情は——俺が前世と今世合わせても見たことのないものだった。

 多分、これが人間の絶望した顔、なんだろう。

 俺が思っていたよりも、ランディは自分が周りに言われるように「無能」で、悩んでたんだろうか。


「……ランディ、お前は無能ではないよ」

「!? ど、どうして、わ、私がそう呼ばれているのを、知っておられたのですか!?」

「うん」

「……殿下のお耳にも入っていたんですね……」

「いや、だから聞けよ」

「あうっ」


 やだもう、聞く耳なさそう。

 なので耳を掴んでひっぱり上向かせる。

 人の話を、聞けるように。


「お前は無能ではないよー!」

「ううう!」


 大声で、耳穴に直接打ち込む。

 うるさくてごめんね!

 でも俺、お前みたいな顔してる奴との接し方がわからねーの!

 ちょっとおふざけしてるみたいになっちゃうのは、許して!

 まだラノベとか漫画みたいに、かっこよく諭すとか恥ずかしくて無理なの!


「っ、殿下、慰めていただかなくとも結構です。自分は……なにをしても兄たちに勝てない!」

「いや、俺だって別にべんきょー好きなわけじゃないし、どっちかっていうとめっちゃ嫌いだし、剣も得意じゃないし魔法も苦手だし、ジェラルドには逆立ちして勝てないもんばっかりだけど」

「え、で、ですが!」

「そうだよ。……でも頑張ってるよ。おれは……“王子様”だから」

「え……?」


 なんと言えば伝わるだろうか、と考えた時、とりあえず自分下げが一番しっくりくる。

 ランディのネガティヴ思考はよくわかるし、なんの才能もない無能、という割に傷ついてるってことはそんな自分から脱却したいって言ってるようなものではないか。

 それは俺もわかる。

 俺も、最近一つ決めたことがあるから。

 そうだな、味方を増やすために、俺の目的を話しておいた方がいいだろう。


「おれの父上はこの国の王様なんだけど」

「へ? あ、はい」

「おれは父上みたいな王様になりたいと最近思った。父上はこの国が結晶化した大地(クリステルエリア)に呑まれて滅んでも、その“せきにん”を一身に背負うカクゴをお持ちだ。でも、諦めずに“おれ”に繋ごうともがいていらっしゃる。……おれは大きくなったら、そんな王になりたい」


 多分自分で言ってても“覚悟が足りてない”と思う。

 父の俺を見詰める眼差しは、息子に同じ道を背負わせる後悔の色が強かった。

 自身が歩んできた道が、それほどに険しかったのだろう。

 そんな道を息子()に背負わせることへの罪悪感。

 しかし、それを込み込みで、覚悟していた目。

 決して楽な道ではなく、つらい道。

 聖殿の圧力もあるから、余計なんだろうなぁ。

 王家がより力を失ってしまったことへの懺悔に近い、父の表情。

 でもいいんだ、わかってる。

 そうなっても俺は、父の頑張りを否定しない。

 前世で電動キックボードにぶつかって飛ばされて車に撥ねられた俺が言うんだから間違いない。

 人生、自分じゃどうしようもできないことは、ある!

 それは自分の能力とか関係ない。

 しょうがないのだ。

 でも、自分でなんとかできるところはある。


「……殿下は、すでに……王になられる覚悟が……?」

「まあ、ジッサイどうなるかはまだわからないけどな。今の王家のげんじょーを思うと、レオナルドに王位をつがせるのは酷というものだと思う。最悪のことが起きた場合、レオナルドが“最後の王”になってしまうだろう? そんなのかわいそうじゃないか」

「っ!」


 これも本音。

 母親があんな気性で、外にもあまり出ず、人と交流もしないでさらにこの聖殿に屈しかけてる状態で王位に就くとかしんどすぎるだろ。

 誰がどう見ても傀儡のできあがりじゃん。


「ランディは兄たちに比べられるのがつらいんだろう?」

「……、……はい」

「おれはメリリア義母様が、レオナルドにもランディみたいなことを言っていたら嫌だしかわいそうだと思う」

「そ、それは……」


 あ、この様子だと言ってそう。

 やっぱ一度会って話しておきたいな、レオナルドとは。


「ランディ、だから」


 手を掴む。

 俺を見上げるランディ。


「おれは父上に比べて、ほんとにまだまだミジュクモノだから、ランディも無能なんじゃない。おまえもミジュクモノなんだ」

「っ!?」

「当たり前だろ、子どもなんだからさ。でもおれはもっと頑張るぞ。父上みたいな王になるから。ランディはどういう大人になりたいんだ?」

「……え、じ、じ、じぶん……? 自分は……」


 しばらくの沈黙。

 でも、俺はその間ずっとランディを見ていた。

 ランディの瞳が段々と、色々な可能性を頭に思い浮かべて表情が変わっていくのが面白かった。

 まるで付き物が落ちていくみたいに——。


「自分は……兄さんたちみたいになりたいです。剣も魔法も勉強も……全部できる無能なんて呼ばれない……なんでもできる大人に」

「じゃあ、それを目指してがんばろう。一緒にがんばろう!」

「…………っ、はい……!」


 ジェラルド、味方が一人、できたぞ!


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