ジークフリート(2)
「な、仲が良さそうでなによりですね?」
「ジークフリートのところはずっとあんな感じだった。俺も登録者になってからジークフリートに保護してもらったが、和気藹々としていてとても良い環境だったように思う」
「あ、あの中にいたんですか、デュラハンも……!?」
「普段はああだが、ザードは優秀な技術者にして科学者だったからな。口と性格は悪かったが、いつも興味深い話を聞かせてくれたよ。……あと少し甘いものを食べ過ぎだと思う」
それな。
あと地味にデュラハンが三号機の登録者を何度も「口と性格が悪い」って言ってるの突っ込むべき?
「ジークフリートとは?」
そう聞いたのはランディ。
「フリーメカニック『ジークフリート』。『神の手を持つ悪魔』とも呼ばれた、戦時中、軍以外の勢力が戦車や疑似歩兵前身兵器、戦闘機などを修理に出していた“工房”の名前だ。ザードは“ジークフリート”という名で傭兵や海賊などを相手にメカニックとして仕事を請け負っていたのだ」
「! すごい人なんですね」
「ああ、ギア3以下のギア・フィーネは自然修復ができないのだが、そのギア・フィーネすら完璧に直せる唯一無二のメカニックだった。世界最高峰と呼び声高い、素晴らしい技術者だったよ。口と性格は悪かったが」
……よほど口と性格が悪かったんだなぁ。
「フリーの……ということはどこかの国に所属していたわけではないのですが?」
「ああ、だから料金が相場の五倍でな。ぼったくりだと評判で、『仕事は完璧、神のよう。でも料金が悪魔』——それがいつの間にか『神の手を持つ悪魔』と評されるようになったとか」
そういう意味かーーー!
相場の五倍は確かにひでぇな!
「それでも仕事が舞い込むのだから、各国も『ジークフリート』を取り込もうとしていたと聞く。……提示した金額がふざけていて、軍を敵に回していたとも。ただ、軍が敵になったところでザードは最初からギア・フィーネの登録者。世界すべてが初めから敵だった」
なので、ジークフリートことザード・コアブロシアは「は? 喧嘩なら買うが?」とばかりに軍との繋がりは積極的に切ろうとしていた。
反対に、金次第で海賊の船まで修理するジークフリートは忌々しくも、しかしその腕がよかったため他の国に獲られたら困ると各国軍はほどよい距離で接していたという。
まさに実力で世界を黙らせた、文字通り凄腕——神の手を持つ悪魔そのものだったのだろう。
また、同じように『ジークフリートが三号機の登録者ではないか?』という疑念、噂は世界中に流れていたらしい。
しかし軍がどんなに調べても尻尾を出すわけもなく、確証がないからミシアが拠点を襲っても、他の拠点に移って煙に撒いたりしていた。
うわぁ。
「そんなことできるんですか……」
「逃げ隠れには年季が入っていたからな……」
そしてそこまでしなければならないほどに、どこかの国に所属することなく逃げ回るギア・フィーネの登録者というのは大変だったのだ。
三号機の登録者、ザード・コアブロシアは考え方も独特で、自身が疑似人格と知らない頃からギア・フィーネのことを調べていた。
好奇心がもっとも大きかったようだが、ギア・フィーネを調べ始めたきっかけは一号機の最初の登録者。
彼女は幼い頃に登録者になり、毒を投与されて『凄惨の一時間』を起こして町を壊滅させた。
その後、追撃を逃れて同じく幼い頃に登録者となり疑似人格を植えつけられたばかりのザードと出会い、保護されたという。
まだ幼い二人の子どもが国からも軍かもら逃れて生きていくには、『ザード・コアブロシア』という存在しない人間が、狡猾に、強かに、正体を隠して仕事をしていくしかなかった。
想像しただけで、誰の庇護もない状態で住む場所もないまま生きていくのは過酷だっただろう。
想像に難しくない。
彼は一命を取り留めたが、後遺症に苦しむ彼女を“ギア・フィーネから救う”ために登録者を解除する方法を調べ始めた。
それが始まり。
結局彼女は毒の後遺症と『凄惨の一時間』がトラウマとなり、心を壊して一号機でまた暴走状態となった。
それをザードと三号機が、殺害した。
彼女を救うにはそれしかなかったという。
幼馴染の女の子。
それも苦楽を共にしてきた彼女を、救いたかった彼女を、その手で。
話を聞いただけで吐きそうなほどつらい。
そんな彼だからこそ、四号機と四号機の登録者を保護したあとは彼らを庇護し続けたし、デュラハン——ディアス・ロスが一号機の新たな登録者になったあとも手を差し伸べたのだろう。
確かに口と性格は悪いかもしれないし、先程の様子を見るに相当な偏食だが、人間的にはとてもすごい人だと思う。
心から尊敬する。
「口と性格は本当に悪かった」
「それはもう、わかりました……すっごく……」
「あの、今の映像もう一度見せてもらえませんか?」
「「え?」」
そう言い出したのはレナだ。
今の芋煮や肉じゃがが、レナも気になったのだろうか?
俺も帰ったら魚醤から作れないか試してみようと思う。
少なくとも魚醤ができるまで一年はかかるから、芋煮や肉じゃがが食べられるのは来年……。
「今の歌、覚えたいんです!」
「そっちか!」
「そっち……?」
「あ、なんでもありません」
そういえばレナの本来の目的はそっちでしたね。
失礼しました。
小ネタ
一号機の登録者
初代→多分作れるけど体調が悪くて大体作れない
二代目→卵を電子レンジに入れて温めるタイプ
デュラハン(ディアス)「食事はシェフが作って使用人が持ってくるもの」
二号機の登録者
シズフ「点滴でいい」
三号機の登録者
ザード「パンにジャムなら塗れる」
四号機の登録者
アベルト「洋食と和食を作るのが得意です」
五号機の登録者
ラウト「食べなくて済むなら食べなくていい。栄養ならサプリで摂れる」
ヒューバート「だいぶダメですね! 特に二号機の人とラウト! ラウト、サプリはご飯じゃない!」
デュラハン「点滴はないよな」
レナ「デュラハンさんも結構ひどいですよ」
デュラハン「え?」