一年後の世界(1)
「……もうすぐ一年かぁ」
ミドレ公国に行って、ラウトと離別して間もなく一年が経つ。
俺は15歳になり、ラウトが言っていた“約束の日”までわずかとなっていた。
あの日、あれから数時間後、魔法で瓦礫をどかしてもらい俺とレナ、リセーラ殿が助け出されたあとは地獄みたいに忙しかった。
俺とレナは怪我もしていたし、ランディも本調子ではなかったので、トニスのおっさんと護衛騎士たちに頼んで一度ルオートニスに帰国することにしたのだ。
食糧支援の件もあるし、大公はハルオンの処分を約束して送り出してくれた。
そこからが特に大変で、ジェラルドに地尖で行ったり来たりしてもらい、ミドレ公国の石晶巨兵製作を手伝ってもらいながら食糧支援の物資を運んでもらう。
輸送係というか、ミドレのことはほぼジェラルドに一任してしまった形になってしまった。マジごめん。
けれど、俺は俺でやることがあったのだ。
まず、怪我を治してもらってからデュラハンに会いに行った。
ラウトのことを話したら、それはそれは残念そうにしていたけれど……ラウトが記憶を取り戻すきっかけが、デュラハンがラウトを庇った出来事だったことを話すとなんとも苦しそうな顔をされる。
まあ、無理もないだろうけど。
良かれと思って庇ったのではないだろう。
体が勝手に動いて、庇ってしまったのだ。
前世の有名探偵アニメで「人が人を助けるのに理由はいらない」とは、よく言ったものである。
そう、仕方ない。
助けたくて助けたのではない。
気づいたら助けていたのだ。
そんなデュラハンの作った村は、現在ルオートニスの南に移動し、そこに降り立った。
すでに土の大地に戻し、彼らをルオートニスにで受け入れることにしたのだ。
デュラハンは元々軍医——医者だったらしく、王都に招いて多くの人の治療を行ってもらえることになった。
と、同時に、本格的に俺の師匠として剣や魔法だけでなく、勉強なども教えてくれる。
なんでもできすぎて、すごすぎない?
ただ、ラウトが呼んでいた名前——ディアス・ロスという名前は、もう名乗ることはないだろうと言っていた。
それは千年前に、死んだ者の名だから。
でも、もしも。
もしもラウトがデュラハンを、助けるために“結晶病”という力を手に入れたのだとしたら……結晶病は、本来人を救うものだったのではないだろうか。
戦争で世界中が疲弊し、たくさんの命が失われていた時代。
ラウトはデュラハン——ディアス・ロスという人を、助けたかった。
だから、首が取れても胴が取れてもまたくっつく、結晶病で繋ぎ目を作って、今もこうして生きているのではないだろうか。
あの日、ラウトが結晶を発生させてランディの毒を取り除いてくれたのは……それが本来の使い方だからなのではないか?
——騎士になりたいと言っていたのだ。
本来のラウトはきっと、“守る側”の人間。
デュラハンの言う通り、全部が全部ラウトが悪いわけではないはずだ。
もうすぐ一年。
あの日から一年。
……ラウトがルオートニス王国を滅ぼしにくる。
ギア・フィーネと戦えるのは、ギア・フィーネだけ。
「完成したか」
「うん。長かったけど、ミドレで開発された魔力炉がだいぶ馴染んできたよ〜。ジーニアスシステムも、ギギとメメのおかげで今のところ問題らしい問題はないし……光炎型はいよいよ量産化できそうだね〜」
ジェラルドに見せてもらった設計図。
現在の光炎をややスリムに簡素化した姿のこれが、人型石晶巨兵、光炎の量産型。
名称は気焔。
世界に希望の灯火を、強く激しく拡めてほしい、という願いを込めてこの名をつけた。
ミドレもかなり土地を取り戻しているが、気焔の製造が軌道に乗れば、より多くの土地が取り戻せる。
ちなみにだが、聖殿は最近王家に従順。
石晶巨兵の存在が止めになったらしく、なんとかなんとかなんとかっていう、すごい長い名前の一番偉い役職が『聖殿長』に戻り、父上の直属に下った。
かつて聖殿派と呼ばれていた一部貴族は、反王家派と名を聖殿の力が高まる前に戻り、爪弾き者のような扱いに落ち着いている。
メリリア妃も母上の出産により完全に立場を失い、北の屋敷に移り住み、平民出身のメイドに世話をされながら生活することになった。
実家に戻すことも検討されたが、アダムス侯爵家が満場一致で「北の屋敷に軟禁で」と意見が合致し、彼女を庇う者はただの一人も現れぬまま現在に至る。
拍子抜けではあるが、姉の婚約者を二十年近く奪い取ろうとしていることを考えても、異様なまでに執念深い性格だ。
あまり警戒を緩めることはしない方がいいだろう。
反王家派もいなくなったわけじゃないしな。
「お待たせしました〜。ヒューバート殿下考案の聖撒水機、五十本できましたよー」
「さすがリーンズ先輩!」








