表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/386

番外編 ラウト・セレンテージ(2)

 

 精神不安定な子どもだったラウトを、何度も診察していた名門ロス家の異端児、ディアス・ロスが一号機の登録者になったと知ったあとも、ずっと。

 こんな自分に——憎しみに凝り固まった自分に、普通の人間相手のように優しくしてくれた人間は、なぜか自分よりも先に死んでいく。


(だから今更止めることなんてできない)


 もうやめよう。

 大丈夫だから。

 そんな甘言で惑わしてくる、すべてを包み込むような蒼天のような男。

 邂逅の度に戦いながらも手を差し伸べてくる。

 そう思うのなら、どうか。


(もう、殺してくれればいいのに。お前が。お前の手で殺されるのなら……俺は)


 ラウト・セレンテージが戦争の具現化ならば、きっと彼は平和の具現化。

 だから本当に、彼になら。


(俺はもう、この場所(憎しみ)から動けない)


 大和(タイワ)に近い場所で、四号機と最後に戦った。

 多分これが最後。

 すでにミシアは『クイーン』によりカネス・ヴィナティキ帝国領に落ちており、大和(タイワ)とレネエルも陥落間近。

 四号機はカネス・ヴィナティキ帝国と同盟を組んだベイギルートを阻むために、五号機と戦った。

 見事に敗北して、ブレイクナイトゼロは破壊される。

 咄嗟に脱出したが、登録者を殺しておきたいアスメジスア基国アトバテントスの軍勢が放ったミサイルが目の前に迫った。


(死ぬのなら、あいつの手で死にたかったな)


 死に方を選ぶ自由があると思うなんて、ずいぶんといいご身分だな、とも思う。

 自分が今まで殺してきた人々は、母のように突然、どうして殺されなければならなかったのかわからなかっただろう。

 自分が今まで戦ってきた人々は、父のように死を覚悟して、けれど死にたくなんてなかっただろう。

 贅沢なことは、言えないんだろうけれど。


「ラウト!」


 意識が虚だったが、それでも一号機が自分に覆い被さり、目の前でディアス・ロスがバラバラになって死ぬのを見た。

 それだけははっきり覚えていて、むしろそれ以外はぼんやりとしている。

 本当に——この世界は優しいやつから死んでいく。

 こんな憎しみに凝り固まった自分なんぞに優しく接してくれるような、そんな優しい人間が。


「……………………っ!!」


 あの瞬間、すっかり憎み疲れ果てて形を潜めていた憎悪が、再び強烈に燃え広がったのを覚えている。

 人を救うこと。

 敵も味方もなく、怪我をした者がいれば手当てをし、病を患った者がいれば治療薬をいちから開発するような——そんなお人好しで、根っからの善人が死ぬ。

 自分のような憎悪に凝り固まって、視野の狭くなった極悪人を庇って、代わりに死ぬ。

 そんな世界が、正しいはずがないだろう。

 努力した者は報われて、優しい人間は幸せにならなければ。

 そういう世界が、正しい世界でなければいけないはずだろう。

 それが許されないのなら、こんな世界は——人間など、滅んでしまえばいい。


 体から溢れ出した“憎しみ”が、世界を覆っていく。

 亀裂のように、海も川も山も関係なく呑み込んでいく。

 世界を包む、結晶化の病。

 無垢で、優しく、願いと信じる心がなければ防ぐことのできない強力な呪い。

 千年かけて惑星全土を蝕む、超自然エネルギー“魔力”。

 人の心が、具現化する世界。

 ゆっくりと、確実に。

 努力し、人に優しい人間が報われる世界。

 それと同時に——それ以上に——世界の滅びを強く望む。


 純白の騎士が空へと飛び上がる。

 ミドレ公国の中心、城を大破させ、太陽の見下ろす真っ青な空へ。

 眩しさに目を細め、今し方破壊した城を見下ろす。

 石晶巨兵(クォーツドール)光炎(コウエン)と、サルヴェイションは未だ動かず。

 パイロットが搭乗していないのだから、動かないのは当たり前。

 盾に仕込まれたビームライフルを構えるが、少し考えて撃つのをやめた。

 ヒューバートとレナは生かしておくつもりだったが、崩落に巻き込んでしまった。

 果たして生き延びているだろうか?


(……生きているだろうな)


 なんとなく、そう思う。

 今の世界は、ラウトが望んだ世界。

 努力し、人に優しい人間が報われる世界。

 同じぐらい、ラウトが見てきた腐った世界であり、滅ぼしても心が微塵も痛まない世界。

 ヒューバートやレナが前者なら、聖殿やハルオンは後者だろう。

 そして、望んだ通りの世界になる——それはつまり、ラウト・セレンテージが人間の枠を超えてしまった証。

 人間をやめてしまった、証明。


「……サルヴェイション——いや、ディアス・ロス……もう、お前だけが俺を殺せるのだろうな……」


 本当は、彼に——四号機の登録者に、殺してほしかった。

 けれど、感じるのだ。

 四号機の登録者はこの世界に生きていない。

 天寿をまっとうし、愛する者たちに見送られて人間として死んだ、と。

 なんて素晴らしいのだろう。

 世界のために命懸けで戦った者が報われた。

 そうあるべきだ。

 たとえ世界の行く末を憂いたまま亡くなっていたとしても、彼にはその資格がある。

 たくさん殺して、憎しみを集めて、それすら飲み干した自分と同じになるべきではない。

 本当ならば、ディアス・ロスも。

 けれど、あの時自分は彼の——ディアスに生きていてほしかったのだ。

 だからディアスは“デュラハン”になってしまった。

 呪いをかけたのは——他ならぬ自分。


「世界の命運を賭けて、殺し合おう。お前をそんなふうにしてしまった責任を取るためにも、俺は手を抜かないぞ、ディアス・ロス」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】

4g5a9fe526wsehtkgbrpk416aw51_vdb_c4_hs_3ekb.jpg
『転生大聖女の強くてニューゲーム ~私だけがレベルカンストしていたので、自由気ままな異世界旅を満喫します~』
詳しくはホームページへ。

ml4i5ot67d3mbxtk41qirpk5j5a_18lu_62_8w_15mn.jpg
『竜の聖女の刻印が現れたので、浮気性の殿下とは婚約破棄させていただきます!』発売中!
詳しくはホームページへ。

gjgmcpjmd12z7ignh8p1f541lwo0_f33_65_8w_12b0.jpg
8ld6cbz5da1l32s3kldlf1cjin4u_40g_65_8w_11p2.jpg
エンジェライト文庫様より電子書籍配信中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ