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覚醒(3)

 

「ヒューバート・ルオートニス、レナ・ヘムズリー。お前たちには感謝している。世界が滅びる直前に、わざわざ起こしてくれたことに。お陰で世界が滅びる瞬間に、立ちあえる!」


 心の底から嬉しいと言うかのように、妖艶に笑う。

 これがあのラウトなのか?

 いや、デュラハンの態度を思い返せば、これこそが元来のラウトなのだろうけれど。


「……そんなことはさせない」


 悲しい。苦しい。

 なんだか、今までで一番心がしんどい。

 デュラハンの言葉がひどく重く感じる。

 ラウトがすべて悪いとは思わない——そう言っていたデュラハンは、こんな気持ちだったんだろうな。

 複雑で、複雑すぎて苦しい。


石晶巨兵(クォーツドール)で、必ず結晶化した大地(クリステルエリア)を克服する」


 ランディを床に寝せて、立ち上がってラウトと向き合う。

 騎士になりたいと——人を守る人間になりたいと言っていた昨夜のラウトとはなにもかもが違う。

 もちろん、ラウトの言いたいことはわかる。

『千年前の人々か、命を懸けて戦い守った世界』……まさしくその通りだと思う。

 その世界の末路が今のこの形だとしたら、千年前に未来のために戦った人々はさぞやがっかりすることだろう。

 けれど、俺は死にたくないから諦めたくない。

 今世では、親孝行もしたいし。


「そうです! わたしたちがそんなことはさせません。必ず結晶化した大地(クリステルエリア)は治療します! 滅ぼしたりなんてさせません!」

「レナ」


 俺の隣に立つレナが、困惑と悲しみに表情を歪ませながら叫んだ。

 この状況で、俺の隣に立ってくれる人。

 心強い。


「ああ、俺もヒューバート王子の理念に賛成だ」

「! 大公閣下!」

「ハルオンのことは——本当に申し訳がない。処遇はルオートニス王国の法にて裁いてくれればいい。無論、それで許されることではないだろう。俺と我が国にできることであればなんでもしよう」

「……閣下……」


 俺の肩に手を置いて、本当に悲しそうに微笑む大公。

 息子の間抜けぶりが、よほど堪えているらしい。

 きもちはとても、わかるけれど。


「無駄なあがきだろうが、そこまで言うのなら一年ばかり待ってやろう」

「え?」

「この時代の“歌い手”レナ・ヘムズリー。お前が本当に“歌い手”となるのならば、きちんと『歌詞』を手に入れることだな。そして、なんでもかんでも同じ『歌』でごまかしていては、結晶病を根絶することなど不可能。せいぜい()()()()を作り出すことだな」

「わ、わたしの、歌……!?」


 レナの、レナ自身の歌?

 なんだ、それは。

 いつもレナが歌うのは、オペラみたいなアカペラ。

 それではなくて?

 どういうことだ?


「詳しい話はディアス・ロスにでも聞けばいい。では、一年後——ルオートニスに結晶病津波を仕掛ける」

「なっ!」

「せいぜいあがけ。まず、この場を生き延びられたら、の話だが」


 そう言い残して、ラウトは消えた。

 [空間移動]か?

 いったいどこへ、と思っていたら、起動音が聞こえた。

 まさか、と見上げたギア・フィーネ五号機のメインカメラが光る。

 すると、左に抱えていた盾がゆっくり形状を変えていく。

 筒状? なにをする気——。


「やばい! 全員上へ! ここを破壊して上から逃げる気だ!」

「は? な、なに? 上へ? 待て待て、この上には我が城が……」

「城ごと破壊する気です! 胸部に超高熱光線が出る仕掛けがあるのです! 百人分の[大火炎光砲]みたいなものです!」

「なっ! っ全員地上へ退避ーーー!!」

「わ、わああああああ!」


 一つの魔法に、大量の人間が携わることを“集団大魔法”とよぶ。

 [大火炎光砲]とは、その集団大魔法の一種。

 その威力は城壁を破壊する。

 たとえ話として[大火炎光砲]の話を持ち出したが、俺の予想は少し違う。

 多分、いや、まず間違いなく[大火炎光砲]よりもヤバい!

 ランディをおっさんが背負い、階段へ向かって駆け出す。

 は、速い速い速い!

 さすが元羊の返り血。

 俺とラナも手を繋ぎ、階段へ向かおうとした。


「リセーラさん、捕まってください!」

「あ、ああ……わたくしのことはどうぞ捨て置いて。こんななんの役にも立たない老婆……ここで死んだ方が……」

「なにをおっしゃっているんですか! わたしがお話ししたいのはリセーラ様! あなたなのですよ!」

「レ、レナ様……」


 レナがリセーラに近づき、手を差し出す。

 その間も、ギア・フィーネは胸部にエネルギーを蓄えていく。

 バリバリと電気を帯びてして光を帯びていく。

 発射まで、多分秒読み!


「急いで!」

「リセーラ様、頑張ってください!」

「はぁ、はぁっ」


 胸部の光が膨らみ、盾だったものが両手で掴める取手となり、胸部に装着される。

 ヤバイヤバイいよいよヤバい!

 周囲からも光が集まっている。

 だめだ、間に合わん!


「大公閣下! あとで掘り出してください! それでハルオン殿下のことは不問とします!」

「なに!? ヒューバート王子! なにを!?」

「レナ、リセーラ殿としゃがめ!」

「はい!」


 すでに天井を越えたところへ避難できていた大公閣下に、そう言い残して俺は杖を階段に届く直前の場所で天井へ向けた。


「[シャドーサンクチュアリ]!」


 漆黒の聖域を展開する。

 すべての隙間が埋まった瞬間、凄まじい振動が周囲に響いてた。

 見なくてよかったな、って、ちょっと思った。



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