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覚醒(1)

 

「ランディ、ランディ、大丈夫だ、すぐに解毒するから!」

「オレの[耐性共有]魔法でヒューバート王子の毒耐性をランディの坊主にも共有しましょう。少しは時間稼ぎになります」

「頼む!」


 そんな魔法あんの!

 超便利じゃん!

 って、感心してる場合じゃない。

 息が上がり、変な脂汗が噴き出したランディの白くなっていく顔を見てどんどん自分の鼓動も速くなっていくのを感じた。

 これが、俺は……毎度みんなに味わわせていた気持ちか。

 生きた心地がしない。

 マジでごめん、ごめん。


「ランディっ」

「で、殿下……お怪我……」

「俺のことなどいい!」

「そうは、いきません……殿下を必ず……守ると……約束……」

「ランディ、俺は大丈夫だ! 怪我もしていない! いいから……絶対大丈夫だから……」

「レナお嬢様はそのまま[解毒]の魔法を続けてください。ラウトの坊や、突っ立ってないで、水を——」


 げほ、とランディが紫の血を口の端から出す。

 なんだ、これ、なんで、ああ、リーンズ先輩がいたら毒の種類を特定できたのかな。

 なんでリーンズ先輩を連れてこなかったんだ、俺。

 どうしよう、どうしよう、ランディが死んだら……いやだ、どうしたら……!


「紫の血! アポカリプフラワーの血液毒か!」

「アポ……? おっさん、解毒薬は!?」

「ちょい待ち、すぐに調合しますが、いくつか材料が足りません。ラウト坊、ちょっと、聞いてます? 薬草をいくつか出してほしいんですけどー! [空間倉庫]にありましたよね!? 聞いてる!?」

「ラウト!?」


 おっさんがラウトを何度も呼んでいる。

 俺も早くランディを治療したい。

 見上げた先に佇むラウトの、その表情に俺は息を呑む。

 無表情。

 いや、どこか……まるで、ラウトとは別人のような——。


 ——『どうか、もう二度と、あの子を戦いの場に連れて行かないでほしい』


 デュラハンの声が頭に響く。


 ——『純白と金の重装備騎士型の機体だ。それがラウトのギア・フィーネ』


 俺の背後にある『守護神の御神体』は白と金の重装備型の、騎士のような機体。

 その風体から、おそらくまず間違いなくギア・フィーネシリーズ。


 ——『ラウトには絶対に見せないでほしい』


 ああ、それは本当にごめん、デュラハン。

 手遅れだ。

 でも、ラウトは知ってるような知らないようなと曖昧なことを言ってたから、大丈夫だと思っていた。

 だから多分、ラウトのあの表情は……()()()()()()だと思う。

 状況から考えて……“誰かが誰かを、庇う”……?


「ラウト」


 声をかける。

 反応はない。


「ラ、ラウト! 頼む、薬草の荷物を!」


 ランディが死んでしまう。

 叫ぶと、ようやくラウトは一歩、二歩とこちらに近づいてきた。

 でも——。


「ラウト……?」


 手を伸ばしてきた。

 [空間倉庫]から物を取り出す動作ではない。

 ランディの体に触れるか触れないかのところで手の平を少し、窪める。


「は……?」

「えっ」

「なっ!?」


 結晶化、した。

 ランディの、矢が刺さった左肩よりやや胸寄りの部分。

 紫色の(もや)のようなものが結晶化の中に溜まっていき、ラウトは結晶が紫色に染まったら結晶ごと取り外した。

 息が、詰まる。

 結晶を、()()()

 そして立ち上がると、ミドレの騎士たちが連れてきた狙撃者の方へとそれを——。


「返す」

「えっ、がっ! ぎゃああああああああっ!」


 顔面に向けて叩きつけた。

 狙撃者の顔が紫色に変わり、口から紫の血を垂らして倒れる。

 え? なに? 殺し……殺した?


「な、なっ! なん……!」

「かはっ!」

「ラ、ランディ! っ、レナ! 治癒を!」

「あ、は、はい!」


 毒状態が消えた。

 今[治癒]すれば出血も少なめで助かる!

 レナに頼むと、すぐに[治癒]魔法を始めてくれた。

 しかし、今度はトニスのおっさんが立ち上がってナイフを取り出し、ラウトへ臨戦態勢を向ける。

 ちょっと、待って、待って……!


「おっさ……!」

「ラウト・セレンテージだな? ギア・フィーネシリーズ、五号機登録者パイロット」

「ほう、さすがディアス・ロスの狗だな。俺の詳細は聞いていたか」

「ラ、ウト……?」


 口調が。

 それに表情も。

 無表情というか、すべてを蔑むような表情。

 なんだこれ、こんな……こんなに、変わるものなのか? 人間が、こんな、一瞬で?


「一応ね。最悪アンタからこの甘ちゃん王子たちを逃せ、と言われている。オレが勝てる相手じゃないって言われた時はちょっとびっくりしちゃった」

「そうだな。特に今は俺の機体の目の前だ。皆殺しにするのは容易いな」


 首を傾げ、見上げたのはやはり“御神体”。

 ギ——ギア・フィーネシリーズ、五号機……ブレイクナイトゼロ……!


「おっどろいたわー。どうして突然記憶が戻ったの?」

「忌々しいが、そこの騎士が王子を庇ったところを見て思い出した。……最後に見たのと同じ光景で、不愉快極まりない。だがまあ、今気分がいい。お前の時間稼ぎにも付き合ってやろう」

「へえ?」


 おっさんの時間稼ぎ?

 ああ、ランディの怪我の治療か。

 レナは『聖女の魔法』以外、あまり得意ではないから時間がかかる。

 特に今回は貫通効果の付与された矢だった。

 傷が深い。



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