食事会(2)
ここまで言えば大公も理解してくれたのだろう。
顔つきが先ほどの険しいものに戻る。
でも、質が違う。
頼もしい、王の顔だ。
「セドルコ帝国にも石晶巨兵の技術は提供するつもりだが、あの国は一番最後。そしてあの国が石晶巨兵を俺の望む通り、平和に活用するとは限らない。実を言えばミドレよりさらに西にある、コルテレとソーフトレスも今戦争中という情報がある」
「なんだと!? コルテレとソーフトレスが!? それは誠か!?」
「中立の勢力からの情報だ。こちらでもまだ未確認だが、信憑性は高いと踏んでいる。俺がミドレ公国に真っ先に来たのは、この国がもっとも国土侵食が進んでおり、時間がないとその者たちから聞いたから。そして、ミドレの側の国がそのように戦争をしているという話を聞いたからだ」
大公だけでなく、ミドレ側の人間が皆動揺を隠しきれなくなっていた。
まあ、無理もないよな。
石晶巨兵は、確かに結晶化した大地を治癒する。
土地が戻れば畑を増やし、家畜を増やし、人も増やしていけるだろう。
国は安定と豊かさを取り戻せる。
でも、同時に地続きの隣国との関係も復活するのだ。
そうなった時の立ち回りを、今から考えておかねばならないだろう。
戦争している理由は、まあ、まず間違いなく……食糧と国土。
共倒れするかも知れない覚悟で、相手から奪おうと言うのだ。
どちらが仕掛けたのか知らないけど、人間の本性が出ているよなぁ。
ルオートニスも、他人事ではないんだけど。
「セドルコ帝国が隣にいる我が国としては、西の方に気を取られたくはない。ハニュレオに石晶巨兵の技術を提供後、疲弊しているであろうコルテレとソーフトレスにも石晶巨兵の技術は持ち込むつもりだが、それでも喧嘩を続けているようなら首脳陣をとりあえずぶん殴ってから考えよう」
「石晶巨兵の非武装はそのための条件か。確かに、これほど世界が困窮しても戦争をするような者たちには、必要な条件だろうな。……技術である以上、守られるとも思えんが」
「そうなんですよ」
おわかりいただけました?
「それでも石晶巨兵の技術を戦争をしている者たちへ渡すのか」
「さっきも言ったが俺が救いたいのは弱き無辜の民だ。略奪を選択する者を助けるつもりはない」
そういうやつらには容赦しないよ。
って、ポーズだけでもかっこよく取っておかないとな。
トニスのおっさんに「オタク、子どもだからめちゃくちゃ舐められやすいのよ。キツイくらいでちょうどいいわよ」って言われたし。
ここだろ、キツめの使い所。
「なるほど。先程も申していた——それが貴殿の信条であり理念か」
とりあえず微笑んで肯定しておこう。
それにしても、本当に別人みたいに話がスルスル進むようになった。
やはり食事は偉大だな。
「共同開発というのは?」
「石晶巨兵はまだまだ伸び代がある。武装方面にももちろんだが、俺はそれを望まない。もっと人々の生活の役に立つ方向で、石晶巨兵の可能性を広げ高めたいんだ。現時点で操作性と消費魔力量は問題だな。魔力量の低い者にも、問題なく使えるようにしていきたい。今後土地が戻ってきた時、畑を守るためにも使えたらいいと思う。石晶巨兵と『聖女の魔法』で治癒した大地が、また侵食を受けるかどうかもまだ未確認だ。その辺りの検証もしたい。現時点だと魔樹を素材にしているが、魔樹の成育も課題だ。あれは魔力のある者が育てなければ石晶巨兵に使える魔力量を……」
「ヒューバート様、お食事の手が止まっております」
「あ。……そうだな、失礼した」
やばい、喋りすぎた。
慌ててにこり、と笑ってごまかす。
レナ、止めてくれてありがとう。
でもそれがまずかったのだろうか。
天啓の如き発想が俺を貫いた。
「そうだ! スプリンクラー型!」
「ス、スプリンクラー? とは、なんですか?」
「畑に水を撒くものだ! 石晶巨兵の技術を応用したスプリンクラーがあれば畑に設置して食糧生産と同時に定期的な聖女の巡回で結晶化した大地侵食を抑え込める! 一石二鳥!」
リーンズ先輩の着ぐるみ型と言えばいいのか……一花があるんだから、スプリンクラーもありでは?
ただまぁなんかもうそれ石晶巨兵と呼べる代物ではないな。
ただの別の機能があるスプリンクラーだわ。
でもうちの国でも作れないか実験してみよう。
「結晶魔石の魔力を散布できたら魔樹も育てられるんじゃないか? 今のところ魔樹の成育は地面に結晶魔石を植えて魔力抽出機で取り出して与えてるってリーンズ先輩言ってたけど、それを散布できるようになれば他の植物にも応用して色々使えたりしないかな」
「ヒューバート様、今お食事中ですよ」
「あ、そうだったごめん」
帰ったらジェラルドとリーンズ先輩に相談してみよう!
「なるほど……柔軟な発想。しかし……民のため、か……」
「?」
とりあえず食事中、俺の意図はだいたい理解してもらえたらしい。
小ネタ
ラウト「ねーねー、ランディ〜」(小声)
ランディ「なんだ? 殿下の食事中なのだから黙っていろ。トイレか?」(小声)
ラウト「そうじゃなくて〜、向こうの偉い人? がすごい見てくる」
ランディ「……そうだな。なんか気持ち悪いな? 俺の後ろに隠れていろ」
ラウト「はーい」
トニス(本当だ、キッモ。ラウト坊美少年だからねぇ。今度[隠密]魔法教えてあげようかしら)