食事会(1)
「ごほん! ……紹介しよう、我が国の聖女にして我が婚約者、レナ・ヘムズリー嬢だ」
「初めまして」
レナも上手にカーテシーで挨拶する。
ドレスではなく聖女の制服だから神々しいな。
婚約者、の部分を強めにしておいたから、これでお察しいただけると助かる。
「聖女が婚約者とは……」
「可愛らしい方ね。側室は娶られる予定がありませんの?」
おおおぉう!
大公妃ドストレートにぶっ込んでくるな!?
「今のところ予定はないですね。先程も申し上げた通り、我が国もそれほど豊かというわけではないので」
そちらのお嬢さんを側室に嫁がせようとしても、うちの国もそんな余裕ないよ!
娘さんの嫁ぎ先は裕福じゃないから幸せにしてやれないよ!
っていうアピール。
いや、これだけじゃちょっと弱いかもしれない。
「それになにより、俺はレナ以外の女性を妻に迎える気はありません」
と、レナの肩を抱き寄せて仲良しアピールも追加しておこう。
ちょっとドキドキするけど、レナも嬉しそうに顔を赤らめてくれた。
これだけキッパリ否定しておけば大丈夫だろう。
ね? ね!?
「そうですか。ではヒューバート王子にはご兄弟はおられませんの?」
諦めねぇなぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!?
さすがに俺より下だと姉さん女房すぎるよ!?
「弟がおりますが、弟は初恋の女性と結婚することしか頭にない様子。他の女性には目もくれないでしょうね」
レオナルド、お兄ちゃんちゃんと釘刺しておくからな。
頑張るんだぞ。
……マリヤを連れてこなくて正解だったな。
「ご兄弟揃って一途なんですのね。素敵ですわ。おほほほほ……お姉様や妹さんはおられませんの?」
マジで諦めねぇなぁぁぁぁぁ!?
「そうですね、今はおりません」
生まれてくる子が妹かもしれないけど、それはまだわからない。
前世の医療技術ならわかっただろうけど。
あれ? 性別って妊娠何周目にわかるんだ?
まあ、どっちみちこの世界じゃわからないけど。
「ちなみに、お父様はご健在、なのですわよね?」
「……父も母を寵愛しておりますので」
「そう。素敵なご家族ね」
「そ、そろそろ食事にいたしませんか?」
「あら、ごめんなさい」
息子がダメだからって父上にまで声をかけようとは恐ろし〜!
席につくと、早速食事が運ばれてくる。
顔色の悪い使用人が多いな。
早く食べ終わって、彼らが食べられるようにした方がいい。
ちょっと急ぎ目で食おう。
うん、スープうっめ。
「……」
その時、チラリと大公たちの方を見てみる。
一口目を口に運んだ大公が、だんだんじわじわと涙を滲ませてきた。
それには少し、本当に少しだけギョッとしてしまう。
目頭を抑えて、ごまかしてたけど——。
国のトップである大公が、食事も満足に摂れないほど困窮状態だったとは。
「本当にギリギリだったようだな」
「はい。間に合ってよかったですね」
レナが小声で同意してくれる。
うん、本当に。
「食事中だが——」
最初のスープが終わり、サラダが出てくると大公が切り出す。
食事とはやはり偉大だ。
険しかった大公の表情が、スープ一杯で驚くほど穏やかに変わった。
「先程は私も失礼な態度を取った」
「いえ」
「食糧の方、ありがたく受け取らせていただこう。引いては食糧支援を頼みたい。報酬はそちらの望むもので構わない」
「父上!?」
おお?
かなり譲歩してきたな。
というか、国のトップが言うにはかなり……危ないような。
息子のハルオンが驚いてるじゃん。
「今我が国に差し出せるものは金銀財宝、芸術品や武具の類のみ。それでよければいくら持っていってもらってもいい。金は食べることができないからな」
「そういうものもいりませんね」
「ではなになら食糧と交換してもらえるだろうか」
「困窮具合はそのお言葉で察してあまりあります。そうですね、俺が今ほしいのは結晶魔石でしょうか」
「結晶魔石?」
まぁね、ワン○ースでも金で腹は膨れないって某大海賊が言ってたもんね。
大公はきっとそんな心境なんだろう。
……あのストーリー泣いたよね。
いや、それは今どうでもいい。
「とはいえ結晶魔石は石晶巨兵にも大量に使うので——ほしいのは人手でしょうか」
「人手か」
「それもまずは食糧支援を行なったあと、人々の心身が健康になり、ある程度働くことができるようになってからが好ましい。なので、お礼は我が国が困った時に、少しずつお返しいただければいいです。国同士のつき合いは、末長い方がいいでしょう?」
「……確かに。長いつき合いになるのだ、今すぐ解決してしまう必要もない、か」
ふっ、と……その時初めて大公が笑った。
サラダも終わるとようやくメイン。
持ってきたのは鳥の肉。
うぉ、美味そう〜。
「あと、こちらとしては不可侵条約と和平条約を早めに締結したい」
「それは同意する。いや、願ってもないことだ。むしろこちらに利しかない。本当にそんなことでいいのか?」
「逆に言うとミドレ公国には早めに国として立ち直ってほしい。隣国セドルコ帝国が最近きな臭い」
「!」
小ネタ
ラウト「お兄ちゃん〜、食糧いっぱい置いてきたよ〜」
ヒューバート「そっかぁ、たくさん持ってきてくれて、たくさん置いてきてくれてありがとうな〜」
ラウト「もっと撫で撫でしてぇ〜」
ヒューバート「よしよーし、よしよーし」
ラウト「もっとぉ〜」
ヒューバート「よしよしよしよし〜、ラウトはいい子だな〜」
ミドレ騎士「「「…………」」」
ヒューバート(……ミドレの騎士たちの視線がめちゃくちゃ痛いんだけど、ラウトなんかしたのか?)
※[空間倉庫]というめちゃくちゃな魔法を使ってきました。