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ミドレ公国(5)

 

 ランディがわずかに動揺したのがわかる。

 俺が同意できないと言った大公にも、技術提供したいって言い出さないか不安なんだろう。

 トニスのおっさんに交渉の練習つけてもらわなかったら、そう言ってたかもだよ……。

 けどまあ、おっさんには「細かいことは専門家たちが小難しい文章で長ったらしく決めるので、一番偉いところはざっくり決めりゃいいんですよ」って言ってたし。

 実際そういう細かいところは時間をかけて交渉の専門たちがやってくれるんじゃない?

 その方がいいと思うしね?


「…………ハルオンとリセーラを呼んでこい」

「は、はっ!」


 ハルオン? リセーラ? 誰?


「脅しだな」

「ん?」


 脅し!?

 そんなつもりありませんけど!?


「我が国の状況を見て、そこまでの条件を出してくるとは。ルオートニスは我が国を属国にでもするつもりか?」

「そんなつもりはないな。セドルコ帝国ならば、もっと直接属国となるよう言うだろうが」

「では自治をこのまま許すと?」

「そもそも貴国を属国として我が国になんの利がある?」


 属国にするってことは、色々面倒見なきゃいけないってことでしょ?

 無理無理、うちの国もそんな余裕ないよ。

 あと二、三年もしたらリーンズ先輩が改良した野菜や穀物の種やら苗やら球根が出回るし、俺考案の縦長建物が建築ラッシュになると思うけど。

 その建物内で食糧生産しても、やっぱり安定して流通するようになるのは三、四年後だと思うし。

 あ、待てよ。

 大地を戻しながらだと、畑を広げられるようになるからもう少し回収は早いかな?

 どちらにしてもミドレ支援しながらはきついって。


「…………」

「……?」


 めっちゃ睨み下ろされてるんだけど、本当になに?


「……ルオートニスの王子殿下、わたくしはミドレ公国大公妃セシリアと申します。発言をお許しいただけるかしら?」

「もちろん。どうぞ」


 というか、さっきから大公も大公妃も目の前に佇んだまま座る気配がない。

 大公妃も俺の前にくると、美しいカーテシーを披露してまた姿勢を戻す。

 ……え、これ俺が座って、って言うべき?

 俺お客の立場なのに?

 そういうマナーは習ってない、っていうかタイミングを思い切り逃してるんですよね。


「我が国は元々ルオートニス王国の当時の王が、王弟に命じて西方諸国への牽制としてこの地に立国した国です。まして、わたくしどもはもう滅びを待つばかり。石晶巨兵(クォーツドール)なるものは、わたくしどもにとって命そのものに近い」


 まあ、それはそうでしょうね。

 あと、それはどこも同じです。

 ここに限った話ではない。


「はっきりと申し上げて、わたくしどもは殿下よりも立場が下です」

「だからただ施せと?」

「っ! ……そうは、申しておりません。ただ、我が国にはもう、国そのものを捧げる以外、お返しするものがないのです」

「俺は石晶巨兵(クォーツドール)の共同開発も条件に入れているが?」

「「…………」」


 偉い人たちが雁首揃えて話を聞いていなかったのだろうか?

 意外と察しが悪いというか……あ、もしかして。


「もういいわかった」

「! お、お待ちくださ——!」

「おっさん、ラウトを呼んできてくれ。まず食事だ。腹が減って思考が上手く回っていない者では話にならない」

「あー、なるほどね。了解ですよ」

「なっ!? き、貴様どこから……!」


 おっさんは隠密魔法が使えるので基本姿が見えません。

 突然現れたように見えるでしょうな。

 しかし、俺も気を張りすぎたんだろう。

 立ち上がって大公と大公妃に頭を下げる。


「まずは食事を。ただいま食糧をお持ちします。配慮が足らず申し訳ありませんでした。返事は急いではいません。威圧する言い方と態度をお詫びします」

「っ……ほ、施しを与えるというのか?」

「ひとまず友好の証としてお受け取りください。我が国の聖女も間もなく戻るかと思います。勝手に町を回って治療をさせていただいておりますが、そちらは我が聖女たっての希望。どうぞお目溢しください」

「は!?」


 あ、やっぱり騎士団長さん大公に伝え忘れてたな?

 めっちゃ睨まれて焦ってる。


「食事のあとは食糧支援の話もしましょう。と、言っても我が国もそれほど豊かなわけではないので、まずは小麦や野菜などが中心になるかと思いますが」

「…ま、待て、我が国には返せるものはないと、今申したはず」

「今すぐ返せとは言いません。俺がほしいのは平和と技術。せめて我が父と、俺が生きている間、次の世代まで我が国の民が日々を穏やかに暮らせればいいのですから」

「……っ」


 未来のことはさすがに知らん。

 まあ、もしこのまま物語通りにはならず、無事にレナと結婚して子どもが産まれたら……孫の代ぐらいまでは見守れたらと思うけれど。

 そ、その前にレナとの仲をもう少し進展させたいような?

 そ、そうだよな、もう14……いや、もうすぐ15だし?

 ちゅ、ちゅうーーー……ぐらいは……。


「……感謝する……」

「!」


 その時、初めて大公が俺に頭を下げた。

 (やつ)れているな、顔色が悪いな、とは思ったが……やはり王侯貴族も食事が摂れないほど困窮状態だったか。

 もうすでに、畑も見当たらなくなっていた。

 まさか人肉に手は出していない、と思いたい。


小ネタ


ラウト「わんわん!」

レナ「わあ、本当です! 可愛いですね! 飼い犬ですか?」

市民「はい。でももう他に食べるものがないので……」

ラウト&レナ「「え」」

パティ「よ! よろしければこちらをお食べください! サンドイッチです!」

市民「ま、まあ! よろしいんですか! ありがとうございます!」


すでに嫌な予感を感じ取っている町回診組。

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