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ミドレ公国(2)

 

「レナ、『聖女の魔法』を頼む」

「え、ここからですか?」

「多分その方がいい。見せながらの方が話が早いだろう。開けるよ」

「はい!」

「ランディはそのまま前進してくれ!」

『了解しました!』


 光炎(コウエン)を先行させ、サルヴェイションのハッチを開けた。

 レナがハッチに立ち、高所の強風に顔を顰めたので俺は魔法でレナの周りに風避けの[ブラックシールド]を作る。

 振り返って微笑むレナの天使っぷりよ……。


「〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪」


『聖女の魔法』——歌声が始まると、光炎(コウエン)が共鳴して光り、輝き出す。

 前回の実験で歩きながらでも治療は可能だから、光炎(コウエン)が歩いた場所が足跡の形で土の大地になる。

 なんだかその光景が、少しだけいいな、と思った。

 ミドレ公国が近づくと、城壁に人間が確認できるようになる。

 城壁まで数メートルのところで一度立ち止まり、光炎(コウエン)にその場に止まってもらい、ミドレ王都を囲う道のりを土の大地に戻していく。

 少しずつ広がる土の大地。

 城壁の上がかなりの人数になってきた。


「ここからでも泣いてる奴がいるのがわかるな……」


 さて、偉いやつは出てくるかな?

 もう少し近づきつつ、城壁の周りを添うようにゆっくりと歩く。

 城壁の周りの結晶化が光の鱗になり、剥がれて空に消えていくのを、城壁の上を多くの兵がついてくる。

 そうして、扉が見えた。

 ああ、ここがこの町の——王都への入り口か。


「だいたい十五キロほど、だな」

『アスメジスア基国の軍事主要都市の名残りだろうか』

「アスメジスア基国の軍事主要都市ってこんな感じなんだ?」

『軍事施設が町を囲っている。一種の人質だった』

「お、おおう……」


 なるほど、民間人を攻撃してはならない、っていう人道的な国際ルール上、迂闊に軍事施設を攻撃すると民間人都市まで攻撃されちゃうって感じね。

 た、たち悪〜。


『入場を求めている』

「おお、本当だ。扉が開いていくな」


 一部が結晶化していた城壁が治癒されると、巨大な鉄門が上へ上がっていく。

 サルヴェイションより高い城壁は、だいたい三十メートルぐらいあるのだろうか。

 余裕で入れるな。


『殿下、入ってこいと言っているようですが』

「詳しい話を聞きたいんだろうな。レナ、一度戻ってきてくれ」

「はい」

「ランディ、先行してくれ。向こうの指示に従う」

『了解しました!』

「ラウトとおっさんとフォーディたちはそのまま待機。状況を見てランディから指示を」

『了解〜』


 あ、ちなみにフォーディたちは護衛騎士だ。

 さすがに最低でも三人は連れて行けと言われてしまったので。

 馬に乗った騎士が先行し、俺たちを城へと誘導する。

 大通りを歩きながら進むのだが、多くの騎士が馬に乗って事前に平民を脇へと追いやっているのが見えた。

 しかし、かなり人は少ない。


「…………レナ、やっぱり表へでて、歌ってくれないか?」

「え? はい、わかりました?」

「広範囲の結晶病治療を」

「あ! はい! 了解しました! お任せください!」


 いきなりガン、とやる気が高まっておられません?

 一度閉じたハッチを開き、レナが風に煽られないよう[ブラックシールド]を取り出しつつ、もう一度『聖女の魔法』を使ってもらう。

 そういえば、俺は成長してからレナが『聖女の魔法』で治療を行うところを始めて見た。

 報告書で、村一つを簡単に覆うほどの治癒魔法を使うと聞いていたから頼んだのだが——。


「〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪」


 治癒の魔法は、レナを中心に円形に広がり続ける。

 なるほど、確かに、村一つは余裕で呑み込むだろう。

 光が降り注ぎ、家の中にいるだろう結晶病患者はその光の輪の中に入ったら瞬く間に治癒される。

 これを奇跡と呼ばずしてどうする。

 多くの、人生を諦めた人たちが、窓を開けてレナを見上げていた。

 手を組んで祈る人もいる。

 ここから届かない人たちも、頼めば治療させてもらえるだろうか?

 でも、それをするのは俺じゃなくて——俺の目の前で歌を紡ぐ14歳の女の子だ。

 そう、まだ、たったの14歳の。

 俺が前世で読んだ『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』の、聖女レナ・ヘムズリー。

 母国ルオートニスだけではなく、君は、この国の『救国聖女』にもなったのだろう。


「…………」


 俺、なんか、レナと本当に、いいのかな、結婚して。

 俺よりも、やっぱりデュラハンの方が相応しいんじゃない?

 あらゆる方面デュラハンには勝てる気しないし、レナだって、こんなにすごい女の子が、俺なんかと将来結婚して王妃になる?

 あの狭い国の、王妃に?

 本当にそれでいいのかな?

 レナにはもっと、相応しい世界が、あるんじゃ……。


『ヒューバート殿下』

「あ、お、おう? なんだ、ランディ」

光炎(コウエン)が、また光っているんですが』

「え?」


 確かに、レナが使える魔法は『聖女の魔法』はひとつだけ。

 というか、『聖女の魔法』と呼ばれる歌はこれだけだ。

 だから、大地と同じように、治癒魔法であるそれを歌えば——光炎(コウエン)は光るのだけど……。


「範囲が……さらに広がっている……!」

『レナ・ヘムズリーのエネルギー効果の拡大を確認』

「! それって、大地だけじゃなく人の結晶病治療にも効果あるってことか! ……マジかよ」


 石晶巨兵(クォーツドール)

 俺が思っていたより、世界救うかも。


小ネタ


ラウト「ミドレこれだけ?」

トニス「そうよ。今まで歩いてきた大地も元はミドレの土地でしたけど、もう完全に呑まれちゃってるのよ」

ラウト「ふーん。どうでもいいけどー、もう僕つまんなーい。お兄ちゃんとお姉ちゃんに会いたーい。座りっぱなしでお尻も痛いし〜」

トニス「わかるわ〜、おじさん腰が痛ーい」

ラウト「それはおじさんだからだよ」

トニス「やめてよその真顔の直球」

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