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出立の朝(2)

 

「大丈夫ですよ、レオナルド。心配してくれてありがとう。ですがね、あなたのお母様はあなたが思っているよりも、今立場が危ういのですよ」

「え? そうなのですか? トドメを刺しますか?」

「……メリリア様はレオナルドになにをしたらこんなに恨まれてしまうのかしら?」

「レオナルドが初恋を捧げた侍女の顔に傷をつけ、辞めさせてしまったそうなのです」


 コソコソと話かけてきた母上に、さっくり事情を話す。

 その相手、マリヤは本日から俺と共にレナの侍女として仕事を再開。

 当分の間は、社会復帰のリハビリがてら、彼女自身で治療費を貯めさせようと思う。

 そう言うと母上も「なるほど、石鹸や消毒液など、医療現場で役立つものを作ったあなたの側ならば働く気にもなるでしょうね」と納得してくれた。


「でも実際今のメリリア様には力はないのよ。だから大丈夫」

「そうなのですか? ほ、本当に?」

「ええ。……あなたの“影”となった男が、色々教えてくれたのよ。三年前の毒殺未遂事件や、あなたが遺物を見つけた時のことなど。他にも色々ね」

「!」


 思わずトニスのおっさんの方を見てしまう。

 にやり、と意味深に笑われる。

 な、なるほど〜。

 あのおっさん、メリリア妃が俺を暗殺しようとしていた依頼内容、父上と母上に話しちゃったね?

 いいのかよ〜、失敗した依頼の話とかしても。

 もう暗殺者辞めたから、いいのか?


「ランディの実家、アダムス侯爵家も彼女を見限ったし、聖殿もかなりの貴族が離れているわ。ヒューバート、あなたは直接的ではないにせよ、聖殿の力をかなり削ぎ落としたのですよ」

「え、あ……そ、それにしては、先日も雑な暗殺をされかかりましたが」

「それだけ余裕がないのです。羊の返り血が失敗した相手を殺そうと思う暗殺者は、いないそうですから」

「!」


 トニスのおっさんが失敗した相手を殺すなんて無理、って感じに思われてんのか俺!

 っていうかおっさんどんだけヤバいんだ。

 いやー、まあ確かにトニスのおっさんよりヤバい暗殺者は、今のところコモードル伯爵ぐらいだな。

 もちろんヤバいの意味は違うけど。


「近く、貴族の大革命が起こります。聖殿に与していた貴族は大半が粛清対象となるでしょう」

「え、あ」


 それここで言って大丈夫!?

 と、思って周りを見回したけど、俺を見送りに来ている城の者は王家派のみ。

 それに、ここから話が漏れたとしてさらに(ふるい)にかけられることになるのか。

 これからも聖殿に与するか。

 それとも王家に(かしず)くか。

 見上げた母がニコリと微笑む。

 優雅に、しかし恐ろしく。


「王家がこれほど力を取り戻せたのも、あなたの力あってこそ。無事にお帰りなさいね、ヒューバート」

「は、はい、母上」

「できればわたくしが出産する前に帰ってきてくれると心強いわ」

「あ、は、はい! もちろん!」


 母上の妊娠は、王家がそれだけ力を取り戻した証明でもあるのか。

 ぎゅう、と抱き締められると、照れ臭いけどちょっと嬉しい。


「男の子でも女の子でも……楽しみです」

「わたくしもよ」

「大丈夫です、兄上! 兄上の留守中は僕がお継母様をお守りしますから!」

「まあ! なんて頼もしいのかしら! ……レオナルドはこのままわたくしの養子に入れてしまいましょうか、ねぇ」

「はわわ」

「……ではよろしく頼みます」


 母と異母弟が仲良しってこれはこれで存外複雑だなぁ!


「気をつけてね」

「ヒューバート、母から聞いたか? できるだけ手短にな!」

「ふふ、はい!」


 ランディとレナと話していた父上が俺の方に来て母上の方を抱く。

 だけでなく、マントを母上の体にかけてやる。

 うーん、紳士。

 俺はランディとレナ、ラウトと合流し、メメを肩に乗せて振り返り手を振った。

 長距離移動となるから、レナにはサルヴェイションの操縦席よりも光炎(コウエン)の背負うに馬車の中の方が安全だと思ったんだが俺の近くがいいそうで。


石晶巨兵(クォーツドール)が増えたら街道を作りたいな」

「まあ、素敵です!」


 晶魔獣の馬に乗ったトニスのおっさんに案内され、王都を出る。

 しばらく帰れないけれど、すぐに帰って来れるはずだ。


 ——西へ。


 少しだけ懐かしい。

 ラウトが結晶に閉じ込められていたのは、西の国境沿い。

 あの大きな穴は、見えなくなっている。

 結界があっても、侵食は止まらない。

 髪の伸びる速さとはいえ、数年で数センチに及ぶ。

 結界は晶魔獣の侵入と、侵食の遅延にしか効果はないのだ。

 それでも、きっと残していくジェラルドとリーンズ先輩が必ず石晶巨兵(クォーツドール)をより大地を取り戻すのに向いた姿にしてくれるだろう。

 俺はまず、この事実を他の国に伝えなければ。

 各国が石晶巨兵(クォーツドール)を使い、大地の治療を行えば、いつかきっと、復興の兆しが見えてくるはずだ。

 一歩、一歩。

 結晶化した大地(クリステルエリア)へと踏み入る。

 今更ながら、サルヴェイションは——ギア・フィーネはどうして結晶化しないのだろう?

 石晶巨兵(クォーツドール)ではないはずなのに。


「……」

「ヒューバート様?」

「あ、いや……ギア・フィーネも石晶巨兵(クォーツドール)のように結晶化耐性があるのは、不思議だな、と思って」

「そういえばそうですね。それに、ラウトも……」

「あ、ああ」


 デュラハンも長い間結晶化した大地(クリステルエリア)を彷徨っていた、と言っていた。

 ギア・フィーネと登録者も、結晶化耐性がある?

 どうして?


「まあ、考えても仕方ない。ミドレから帰ってから考えよう」

「そうですね! 頑張りましょう!」


小ネタ


ディルレッド「行ってしまったなぁ」

ヒュリー「ええ。でも本当に立派になって。トンビが鷹を産んだ感じかしら」

レオナルド「なにを仰るのですか! 父上もお継母様も素晴らしい人なのですから、そんな言い方しないでください! 僕の母などあのクソアバズレなんですよ! お継母様はもっと自信を持ってください!」

ヒュリー「……いったいどこでそんな言葉を覚えたのですか」

レオナルド「え? あのクソババァが」

ヒュリー「なるほど。レオナルド、いいですか? クソババァやアバズレやクソなどの言葉はよい言葉ではないから今後使ってはいけませんよ」

レオナルド「え! あ、はい!」

ディルレッド(本当、子は親の背中を見て育つのな……パパも気をつけよう……)

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