終末革命
「ヒューバート殿下! 本当にそろそろ帰らないと、明日の職務に影響が——」
「悪い、ランディ! すぐ終わる!」
「で、殿下ぁー!?」
レナを呼びに行き、ジェラルドに光炎を任せ、俺は地尖に乗り込んだ。
今思いついたことを検証するのなら、機動力が高い方がいい。
「レナ、そこで歌ってくれ!」
『えぇ?』
村の中にいるレナにそう言って、地尖と光炎を村の外へ出す。
困惑するレナだが、俺の頼みをきちんと聞いて『聖女の魔法』を使ってくれる。
俺の、予想が——正しければ……!
『ヒューバート、急にどうしたの?』
「ジェラルドとギギは計測を!」
『りょ、りょうか〜い』
『は、はいー!』
ふわり、と空気が澄む。
レナの歌声が響き始めたのだ。
石晶巨兵の中だというのに、レナの歌声はいやにくっきり鮮明に聴こえる。
まるで、共鳴し合うかのように——。
『な、なにこれ! 石晶巨兵が!』
『ひええぇ!? 光ってますよ!? なんですかこれ! こんな反応、今までにありませんよーーー!?』
やっぱり!
石晶巨兵はいわば“人工聖女”。
本物の聖女であるレナが歌えば、共鳴する!
光り始めた石晶巨兵二体が佇む場所が、同じような光を放ち始めた。
そこから光の鱗が剥がれるようにゆっくりと、しかし確実に土の大地が広がっていく。
「馬鹿な!」
「マジかぁ!」
「わあー!」
「なんと!」
俺が地尖で歩いてみる。
その脚の底が触れたところも、光の鱗が剥がれていった。
間違いない。
石晶巨兵と聖女の歌声が共鳴すれば、『聖女の魔法』が伝達して結晶化した大地の結晶病も治療できる!
『ヒューバート! ヒューバート! これ! これ! 成功! ヒューバートの石晶巨兵計画! 成功! 結晶化した大地が!』
興奮気味にジェラルドが報告してきた。
ギギの……悲鳴? みたいなのも聴こえるけどとりあえず無視しよう。
「ああ、成功だ! ジェラルドとリーンズ先輩がたくさん試行錯誤して作ってくれたおかげだよ!」
『っ、っ……! ち、ちがうよ、全部、全部ヒューバートが……ヒューバートが始めたからだよ。ぼくを助けてくれたり、提案して、企画して、素材集めも、予算も……ヒューバートが……ヒューバート……よ、よかった、お、おめでとう……やったね……よかったね……! ぼくたちの三年間……本当に、これで、報われた……!』
「うん……!」
……でも冷静に考えて三年でなんとかなってしまったのヤバくね?
結晶化がいつから始まったのかは未だわからないが、少なくとも世界の七割八割が侵食され、幾つの国が呑み込まれたのか。
世界がここまで滅びに瀕している状態で、それを改善しようとして動き出したのが三年前。
……三年でなんとかなってんのヤバくね?
これまでの人類マジなにしてたん?ってならん?
「ギギ、撮影は?」
『ばばば、ばっちりでございますー!』
「よし、一度村に戻ろう。レナたちを乗せて王都に帰還後、父上に報告する!」
『了解!』
村に戻ると、大歓声で迎えられた。
初対面の村の人たちも、みんな俺とジェラルドのことを褒めてくれた。
リーンズ先輩は「本当にこんなことが……」と茫然自失状態。
パティとランディはボロ泣きしていた。
「ヒューバート様……おめでとうございます!」
「レナのおかげだよ。レナ、ありがとう!」
俺も興奮していたけど、レナも感極まっていたんだろう。
思わず抱き合って、俺はちょっと泣いた。
いや、本当マジでレナのおかげじゃん。
レナあっての成果だ。
嬉しい、ありがとう、もう、ほんと、生まれてきてくれてありがとうございます!
「ヒューバート」
「デュラハンさん! 俺、見つけました! 結晶化した大地を土の大地に戻す方法!」
「ああ、見ていた。まさかこんなに早く見つけてしまうとは……」
「俺の力じゃないです。石晶巨兵をずっと改良してくれていたジェラルドやリーンズ先輩、手伝ってくれたギギも……そしてなにより、やっぱりレナのおかげです」
「ヒューバート様……そんなこと! ヒューバート様が始めなければ誰も到達できませんでした!」
「いや、レナが——」
「ヒューバート様がすごいんです!」
か、頑な〜〜〜〜!
「お前たちの成果だ。これから忙しくなるぞ。頑張りなさい」
「は、はい!」
「急いで帰りなさい。サルヴェイション!」
デュラハンがサルヴェイションを見上げる。
すると、サルヴェイションの左のメインカメラが青く輝く。
その左目から全体へ、光の線が走る。
「優先警護対象にヒューバートを追加する! 引き続き銃火器の使用は禁ずるが、レナと共にヒューバートも護れ!」
「デュラハンさんっ」
俺も!?
ありがたいけど、そんな、えぇ?
俺、悪役王子なのに!?
「またいつでもおいで」
「……あ、ありがとうございます! 絶対、また、来ます! 聞きたいことが、まだたくさんあるので!」
「ああ」
小ネタ
パティ「びぃやああああぁ」
ジェラルド「姉さん、泣きすぎ!」
ランディ「うおおおおおおおお、ヒューバートでんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
ラウト「ランディ、泣き方が怖い」
泣き止ませるのが大変だった。