絵をもらった
何日か後、朝教室に入ると先に登校していたヨウコが手招きをした。
近づくと厚手の紙の真ん中に人気漫画のキャラクターがペンで描かれているものを差し出された。
「わたし、描いたんだ。いくらでも描けるよ。そんなに難しいことじゃないもん」
教室中にヨウコのはっきりした声が通った。ミヅキに言うというよりクラスのみんなに聞かせる声のボリュームだった。クラスの女子が集まってきた。
「えー、見せてー。すごーい」
しばらく女子の集団に褒められた後、ヨウコは
「これはミヅキに描いたものだから」
とみんなの前でミヅキに手渡した。
「…ありがとう」
絵が欲しいわけじゃなくて、描くのを見るのが好きなんだけどな…と思いつつ、描かれた紙を受け取った。
その日、休憩時間になってもミオは自由帳を広げなかった。ミヅキも描かないのかと訊きにくい気分だった。かといって、ヨウコの描いた絵を見るかとも言えなかった。
朝のやりとりはミオも聞いていたはずだった。休憩時間ごとにミヅキがミオが絵を描くのを眺めているのは今やクラスのみんなが知ってた。ミヅキとミオの周辺はなんとなくいつもと違った空気だった。
教室の中でヨウコの周りだけが楽し気にしていた。