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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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前日の寄り道

「失礼しました」


 クラス委員の仕事として、戸締まりを終えた教室の鍵を職員室に戻し終えた俺は、ゆっくりと引き戸を閉める。


 文化祭前の最後の準備が終わり、いよいよ明日に本番を迎える。


 正直、はじめはそれほど乗り気じゃなかったというのが本音だ。

 クラス委員という立場上、率先して動かないといけないことは目に見えていたし、それに伴ってクラスメイトと関わることが増えるのが、何よりも俺の気持ちを億劫にさせていた。


 中学の頃も文化祭はあったが、規模は小さいし、代表のような立場でもなかったから必要最低限の関わりで済んでいた。

 ――いや、文化祭だけじゃない。他の行事も、日々の学校生活全てを最低限の関わりで済むようにしていた。そうすれば、誰かの気に留まることが無いだろうから。

 俺の思惑通り、あまり印象は強くないが悪い印象も無い奴として三年間を終えられた。まあ、一部例外が三名程いたけれど。


 とにかく、そんな人間が急にクラスメイトと関わる頻度が増えるというのは、不安でしかなかった。何かを指示したりする立場っていうのは、多少なりとも不況を買いやすいだろうから。


 ――でも、俺の不安なんて杞憂だった。今更気にしても仕方が無い程、クラスメイトが俺への印象を強く持っていたからだ。

 たしかに以前、明希(はるき)槙野(まきの)に周りからの印象について聞かされたことがあったが、それを初めて実感した。

 ほとんどのクラスメイトが協力的だったし、接し方もフレンドリーだった。

 一番意外だったのが、同じクラス委員の倖楓(さちか)でなく、俺を頼ってくる人の方が多かったことだ。

 最初は、倖楓よりも呼びつけやすかったりするからだろうと思っていたのだが、一緒に作業する中で「一回ちゃんと話してみたかった」と言われることが度々あった。

 その相手に何か特別なことをした覚えもない俺からしたら不思議で仕方がなかったが、理由を聞いてみると、明希や槙野、そして倖楓と話している様子を見ていたのだと言う。


 そう、俺は気付かないうちに素の自分を見られていたのだ。

 中学の頃の自分なら、それもコントロール出来ていただろう。実際、高校に入学したばかりの時は、倖楓達と話す時でも周囲を気にしていた。

 それがいつの間にか、自然と忘れてしまっていた。いや、忘れさせられていたと言うのがきっと正しい。


 俺は、倖楓に変えられたのだろう。たぶん、小学生の頃の自分に戻ったのとは違う。

 経験したことを忘れたわけじゃないし、他人のことを信用しきれないのも変わっていない。ただ、そんな生き方は寂しいと気付かされたような気がしている。

 だから、この二週間は今までに無いくらい充実した日々だったように思う。

 それがもう本番を残すのみとなってしまったのだから、少しだけ名残惜しくも感じている。


 職員室を出てすぐの廊下の窓から暮色に染まる景色を眺めながら、そんな今日までを思い返す。

 ふと、あの子に会いたくなっている自分に気付いて笑ってしまう。


「何か面白いことでもあったの?」


 突然声をかけられ、驚きの反動で俺は真横に跳ぶ。

 そこには、可笑しそうに笑う倖楓が立っていた。

 俺の考えていることがバレたのかと思ったが、驚いた反応が面白かったのだろうとすぐに気付いた。


「脅かすなよな……」

「廊下でボーッとしてる方が悪いと思うけどなー」

「……ていうか、校門で待ってていいって言ったのに」


 何も言い返せないと話を変えたことに気付いているのだろう。倖楓は仕方ないなぁといった表情だ。


「どうせ待ってるなら、どこでも一緒でしょ? それならそれなら近くの方がいいもん」

「さようでございますか。それじゃあ、行くか」

「うん」


 倖楓の言い分に俺は笑いつつ、二人で昇降口を目指して歩き出した。




 校門が見えてくると、人影が二つある。


「あ、来た来た」

「お疲れさん」


 待ちかねた様子の槙野と、それを宥めていたであろう明希がこっちに手を振っている。

 文化祭の前日ともなるとさすがにスポーツ系の部活は軒並み休みになっていて、明希と槙野の二人も、今日は最後まで準備を手伝ってくれていた。


 俺は待たせたことを謝り、続けて提案する。


「どっか寄ってく?」

「賛成! お腹空いちゃった」


 食い気味に反応する槙野。食い意地は相変わらずだ。

 そんな食欲お化けはさておき、改めて倖楓と明希に眼で聞き直したが、反対意見は出なかった。


「どこにする? やっぱ、いつものファミレスかハンバーガーになるか?」


 明希の確認に、俺は首を横に振る。


「いや、今日は別のとこにしよう」


 すると、倖楓はそれだけで俺がどこに行こうとしているのか見当がついたらしい。


「ゆーくん、もしかして?」

「まあ、たまにはお客さんとして行くのも悪くないかなって」


 俺と倖楓だけにしかわからない会話をしていることにじれったくなったのか、槙野が答えを急かしてくる。


「結局、どこなのよ?」

「まあまあ、悠斗がおすすめの店を提案するなんて珍しいし、着くまでのお楽しみにしてもいいんじゃないか?」

「それは……まあ、そうかもだけど……」


 流石は明希。槙野の扱いがプロだ。


「絶対、香奈ちゃんも満足の味だから、大船に乗ったつもりでいいよ!」


 何故か倖楓の方が言い出した俺よりもドヤ顔をしているが、俺と同じくらい見知った店なのだから仕方が無いだろう。


「二人がそこまで言うなら、聞かないで着いて行くわよ」

「元から俺は異議無し!」


 なんだか明希と槙野のハードルがかなり上がったような気がしなくもないが、それでも問題ないと思えるのは身内贔屓かもしれない。


「じゃあ、行こうか」


 こうして、俺たちは目的地へ向けて出発したのだった。

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