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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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スタートライン

 急遽、夕食の人数が増えてしまったわけだが、元々の献立がシチューだったので食材の問題は無かった。


「んー! やっぱり、さっちゃんの料理は美味しいわね!」

「市販のルーで作っただけだよー」


 倖楓(さちか)は口ではそう言っているが、照れた表情が隠せていない。自分で大したことじゃないと思っていても、姉に褒められるのは嬉しいらしい。


 その様子を微笑ましく思いながら食事を続けていると、姉が突然「あ」と何か思い出したような声を発した。今度は何の話だろうかと、俺と倖楓は姉の顔を見る。


「そういえば、もうすぐ文化祭よね?何するか決まってるの?」


 俺と倖楓の通う彩天(さいてん)高校の文化祭は十一月第二週の土日に開催されるのが通例だ。卒業生である姉だからこそ、こっちから言わなくてもわかることだった。


「あー、アフタヌーンティーがテーマの喫茶店」

「それって、メイド喫茶ってことでしょ?」


 首を傾げる姉に、苦笑いした倖楓が代わりに答える。


「ゆーくん、頑なにそう呼ばないようにしてるの」

「なにそれ?」

「なんかね、安直だと思われたくないんだって」


 基本的に、出店内容が他クラスと被った場合は抽選で決まる。そのため、プレゼンなどの必要が無いので心象は関係ないのだが、書類提出時に生徒会長に見られると思ったら小細工でもいいからと呼び方を取り繕ったのだ。


 理由を聞いた姉は呆れ顔で首を横に振ったが、特に何も言わなかった。いや、顔は「バカね」とうるさいくらい主張していたが。


 気を取り直し、姉が詳しく話を聞いてきた。


「もうそれが最終決定なの?」

「うん。抽選でバッチリ引き当てたんだー!」


 言い方からわかるように、激戦の抽選会でくじを引いたのは倖楓だった。見事に引き当てた右手を得意げな顔でガッツポーズしている。


「じゃあ、さっちゃんのメイド服姿が見られるわけだ。悠斗、ちゃんと目に焼き付けときなさいね」

「へいへい」


 生返事をする俺に、倖楓が追撃の一手を加える。


「ゆーくん、メイドフェチだったの? それなら早く言ってくれればよかったのにー」

「誰もそう言ってないよな?」

「え、もしかしてナース服? はっ! あえてのチャイナ!?」

「待て待て、そもそもなんでコスプレ前提なんだよ」

「やっぱり、たまには刺激がないとマンネリになっちゃうかなって……」

「ならねーよ!」


 ツッコみに息切れをしていると、食器にスプーンの落ちる音が鳴った。


「あんた達、いつの間にそこまで進んでたの……?」


 まさに開いた口がふさがらないと言った様子の姉。

 とんでもない勘違いに、俺はシチューを吹きそうになり咳き込む。


「進んでないから!サチが紛らわしい言い方しただけだ!」

「私はただ服の話してただけだもん」


 白々しい口調と顔でシチューを口に運んでいる倖楓にまたツッコみ、夕飯の時間は過ぎていった。




 食休みに三人でテレビを横目に談笑していると、話題は再び文化祭についての話になった。


「そういえば、姉ちゃんは文化祭来るの? 来るならチケット用意するけど」


 うちの文化祭は招待者のみが入場出来るようになっている。とは言っても、招待出来る人数に制限はあっても、招待する相手自体に特別な制限はないので閉鎖的というわけでもないのだが。


「んー、丁度予定があって行けないのよね。また来年かな」

「そっか。父さんと母さんはどうするかな」

「仕事で忙しいみたいなこと言ってた気がするから、たぶん誘わなくて

 大丈夫よ」


 となると、他に誘える相手といえばバイト先の甲斐夫妻だが、土日は店が営業しているから難しいだろう。残るはレンくらいだが、気軽に誘える距離ではないので断られると思われる。


「じゃあ、今回は誘う人いないか」

「私もいないや」

「サチの親も仕事?」

「うん。私が誘える人ってほとんどゆーくんと一緒だから」


 俺も倖楓も招待する人がいないということは、案内したりする時間が必要無いということだ。つまり、二日あるうちの自由時間をフルに使えるわけだ。

 それは俺の考えていることを実行するのに好都合だった。


「あー……サチ?」

「ん?」

「えっと、その……」

「どうしたの?」


 頭では決心がついているのに、いざ口にしようとすると出てこない。

 これはただの前段階なのだから、サクッとクリア出来ないとこの先なんて絶対に無理だ。

 なるべく緊張していることを悟られないように、鼻から大きく深呼吸をする。


「文化祭……、一緒に回らないか?」


 ようやく言えたことに安堵したかったが、むしろ口にしてからの方が緊張感を増した。

 倖楓は固まったまま瞬きを数回繰り返し、ようやく口を開いてくれた。


「え、えっと、どっちの日?」

「出来れば、両方」

「他にも誰か誘うとか……?」

「いや。誘ってないし、誘う予定もない……。ダメかな……?」

「ダメじゃないです! あ、あれだよ? やっぱなしとか、そっちの方が絶対ダメだからね!?」


 俺の両肩をガッチリと掴む倖楓の圧が凄い。


「言わない言わない」


 誘った側がこんなに念押しされることに苦笑しつつ、俺は首を横に振る。


「そ、そっか。えへへ」


 照れたように笑う倖楓に、こっちまで恥ずかしくなってくる。

 すると、先にいたたまれなくなったのは倖楓の方だったらしい。


「わ、私、洗い物しちゃうね! ゆーくんはゆっくりしててね!」


 俺の返事も聞かず、一目散にキッチンへ行ってしまった。


 何はともあれ、なんとか倖楓と文化祭を回る約束は出来たわけだ。

 しかし、まだスタートライン。ここで燃え尽きていられない。


 気合いを入れ直していると、向かいに座る姉が頬杖をつきながらこっちを見ていることに気が付いた。


「なに……?」

「いーや。やっとか、と思っただけよ」


 その顔は笑っているが、いつものようにおちょくっているわけでも呆れているわけでもないように見える。


「ま、がんばんなさい」


 恐らく普通にエールを送られたのだろうが、こんなに素直に励まされるとそれはそれでやりづらい。

 だが、心配をかけていたのも事実だ。俺も素直に受け取るべきだろう。


「ありがとう。がんばります」


 約二週間後――それが俺にとっての決戦の日となった。

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