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降ってきた善意

筆が乗ったというのでしょうか?長くなってしまいましたが、あるかもしれないのもう1回更新です。

深夜テンションの流れで書ききったので誤字脱字があったらすみません。(一応確認はしました)

※さっそく誤字してました。まだあったらすみません。大人しく年越し前まで寝ます。

また後で読み返して修正する可能性もあります。

「あー、帰りたい」


 学校へ向かいながら真逆のことを言っている。


 朝の改札前で起こった誤解を解くのにかなりのカロリーを消費した。教室に着いた時にはミイラになってしまいそうだ。実際、誤解自体はすぐに解けていたのだ。しかし、あんな状況を2人が楽しまないはずがなかった。「照れるな」だの「朝から胸焼けが」だの好き勝手言いまくって、2人が飽きるまでにそこそこの時間がかかったのだ。勘弁してほしい。倖楓なんて途中から顔を覆って何も言えなくなっていた。倖楓からも文句を言ってほしかったが、さすがにこの2人のペースに、いきなりついて行けというのも酷な話だと思う。


()()()()、学校がもう目の前なんだからそんなこと言わないの」

「そうだぞ。()()()()

「そうよ。ゆ、ゆー(ㇷㇷッ)、くん(ブㇷッ)」


 真面目な顔をして注意する倖楓と便乗する2人。おい槙野、やるならせめてちゃんとやれ。俺がスベってるみたいだろ。


 倖楓が誤解を解く時に、何度も俺の事をゆーくんと言って話すので誤魔化せなくなってしまった。本当に決め事の意味が欠片もない。一刻も早く呼び方を矯正しなきゃいけないと強く思う。


 それにしても入学式の日から明らかに2人が俺で遊ぶことが増えた。今まではこんなにハイペースではなかったのだから、やっぱり高校に入ってからいろんな運気が悪い。お祓いにでも行こうか真剣に悩む俺。いや、そもそも2人がもっと自重すればいいだけだ。これはやり返さなければ気が済まない。俺は滅多な事では使わない奥の手を使うことにした。


「そういえば明希。一昨日楽しそうに話してた他のクラスの女子とはどうなったんだ?」

「はっ!?悠斗!?」


 ものすごく動揺している。信じられないものを見たような顔をしている。


「へぇー。明希、楽しそうだったんだ」


 笑顔だ。ただ1人に向けられた満面の笑み。なんだかデジャブだ、俺が身震いしてしまった。


「いや、そんなことない!ただの世間話っていうか!中学どこだったとか聞かれただけだから!」


 ものすごい早口で明希が説明をしている。同時に距離も少しずつ取っている。流石はバスケ少年、見事なポジション取りだなと感心する。しかし、相手もバスケ少女であることを忘れてはいけない。槙野がすぐに距離をつめて明希のネクタイを掴む。午前8時頃、容疑者確保。手際の早さに俺は敬礼で賞賛を送る。


「それで?他には?どんな楽しいことしてたの?」

「香菜、話せばわかる!あとその言い方は語弊がある!悠斗!お前からも何か言ってくれ!おい!こっち向け!」

「今、私が話をしてるんだけど?そんなこともわからないの?」

「す、すみません」


 周りの生徒が明希と槙野に注目している。キマッた。そう、俺が求めていた日常はここにあった!目立つべき奴らが目立って俺は傍から見て過ごす!これぞ理想郷!ラピュ〇は本当にあったんだ!明希、達者でな。お前のことは忘れない。俺は先程までと同じ人間とは思えない足取りの軽さで2人の数歩先を行く。


「もう、いくら仲良しでもダメだと思うよ?」


 倖楓が小走りで追いついて俺の真横に並ぶ。


「あれは伝統芸と同じようなものだと思ってればいいよ。なんなら応援してあげた方が盛り上がっていいと思う」

「もうっ」


 倖楓が呆れた声を出していた。実際、いろいろハッキリさせない明希が悪い。まあ、あいつなりにいろいろ考えがあるみたいだから本人には言わない。それにもう一歩踏み込まない槙野も悪い。あいつは肝心なところで奥手だ。迷惑しているわけではないけど、さっさとくっつけと中学の頃からずっと思っている。もう高校生だしさすがに今年こそは進展することを願う。校舎も見えてきたことだし、そろそろ後ろの伝統芸も止めてやろう。


「ほら、そろそろ学校着くぞ」


「ん゛ん゛っ?…そうね、とりあえずこのくらいにしておく」


 鬼のような槙野の反応に思わず怯む。一方、明希の顔はさっきまでと比べてやつれて見える。高校に上がって伝統芸のレベルも跳ね上がったのかもしれない。奥の手の使いどころは要注意だ。


「私、槙野さんと仲良く出来そうな気がする!」

「え!?あー、それならよかった…のか?」

「うん!」


 一体どこを見ていたのか疑問だが、仲良く出来ると言うのだからそれでいいのだと思う。無理やり納得しながら教室へ向かった。






 時間は進み、4時間目が終わった。しっかりとした授業があったわけではないが、さすがに朝から疲労がものすごがった俺はもうクタクタになっていた。そんなわけで、本当に待ちに待った昼休みだった。クラスメイトが各々動き始めていた。すでに倖楓の周りには人が集まっている。俺も明希を誘ってどこかで食べようと、バッグからコンビニで買った物が入っているビニール袋を取り出して席を立つ。


「よし、行くか」


 そう思って明希の席へ向かってみると、明希の周りにも男女数人が集まっていた。おー、流石だなと思わず感心してしまった。まあ、せっかく新しい環境になって人間関係も新しく構築出来る機会なのだから、わざわざ最初の昼休みを昔からの仲の人間と固まることもないだろうと納得する。


 そんな俺の視線に気が付いたのかこっちを見て、謝るように表情を少し変える。俺は気にしてないと軽く手を上げてそれに応えた。


 ふと槙野の方を見てみると近くの席の女子数人と集まっていた。こっちも流石だ。


 槙野を誘うつもりは元々なかったので、これからどうするか考える。自分が完全にクラスメイトとの関係構築に出遅れている自覚が俺にはあった。理由を考えれば当たり前のことだ。女子が俺を誘う理由なんて1つもないし、男子なんて倖楓の爆弾発言から目の敵にされているのだからこうなる事なんて最初からわかっていた。しかし俺は全く悲観していない。これは強がりでもなんでもなく本心だ。改めて言うが俺は他人を信頼していない。だから、そいつらに合わせて外面良く切り替えたまま昼食をとるというのはストレスでしかない。もちろん、理想通りのスタートを切れていたのなら関係構築のために数回は我慢する。しかし今回は盛大にスタート前からこけているので諦めている。そのうち授業内などで嫌でも関わる時があるだろうし、その時までは自分から動かなくてもいいだろうと考えていた。残念ながら俺の求める平穏な日常はまだまだ先になりそうだ。―――まあ、あの時と比べたら信頼できる友人が2人もいるのだから、全然マシどころか比べるまでもない。そう考えて自嘲気味に笑う。


 さて、こうなれば俺が取る行動は1つ。「人があまりいない所へ行き、1人で食べる」だ。そうと決まれば早く動くに限る。俺は教室を出て、当てもなく歩き始めた。


 歩きながら俺は考える。当たり前なことだが校舎内はどこも人が多くて騒がしい。もちろん探せば人が近づかない教室などもあるだろうが鍵が開いてる保障はないし、1年生が行かないような場所で上級生に出くわすというのも避けたかった。


 何の気なしに、たまたま窓の外を見て気が付く。そうだ、こんなに天気が良いのだから外で食べればいい。窓から良い場所は無いかと見回すと、もう終わりかけの桜の樹の周辺にベンチがあった。見た所、人も座っていない。これ以上の好条件な場所はないだろうと即決した。


 下駄箱でローファーを確保して見つけた場所へ向かう。外はまだ4月のはじめということもあって少しひんやりしているが、日差しのお陰でそれも気にならなかった。


 目的の場所に着いた。所謂、中庭であろう場所の周りは校舎で囲まれている。しかし、窓から特に視線を感じはしない。その上、昼休み初日から気分転換に外で食べようなんて人もいないのだろう。他に誰もおらず、落ち着いて食べられそうだ。


 俺は桜を囲むように設置してあるベンチの1つに腰を下ろす。


 やっと一息つけた。思えば今日は朝から騒がしかったからこの静けさに涙が出そうになる。静かといっても校舎内の生徒の喧噪が聞こえてくるが、煩わしいと感じることのない絶妙な環境で、日差しの温かさと相まって油断したら眠ってしまいそうになる。


 そんなわけにはいかないので、俺はコンビニのビニール袋から昼食を取りだす。まずはおにぎりからと思い、開け口に手をかけてあることに気が付く。そう、飲み物を持ってくるのを忘れたのだ。桜が終わりかけとはいえ、ロケーションは完璧。なのにここにきて致命的なミス。近くの自販機で買ってくるかと悩むが一度落ち着けてしまった腰を上げたくない。かといっておにぎりをゼリー飲料で流し込むというのは味的に組み合わせが悪い。おにぎりは飲み物なしで食べきるしかないかと諦めようとしたその時――――。


「はい♪」


 背後から、もう聞き慣れはじめた声と一緒にお茶のペットボトルが目の前に吊り下げられた。驚いて見上げると、そこには倖楓の笑顔があった。


「なんで…?」


 いろいろな疑問が出て、曖昧な質問をしてしまった。


「えっとね、他の人のお誘いは全部断ってきました!ゆーくんを追いかけてみたら窓から中庭にいるのが見えたの。それで飲み物持ってなさそうに見えたからここに来る途中で買ってきました!」


 曖昧な言葉だったのに、倖楓は聞きたかったことすべてに答えてみせた。次の瞬間には言いたい事がいろいろ出来たが、目の前に降ってきた善意に俺は何も言うことが出来なかった。


「一緒に食べよ?」


 俺の後ろにいた倖楓が前に回り込んで、少しドヤ顔で言う。圧倒されっぱなしでそろそろキャパオーバーだった。


「だめ?」


 倖楓が不安そうに聞いてくる。さっきまでの勢いはどこへ行ってしまったのか、思わず笑ってしまう。


「ははっ」

「ゆーくん?」


 仕方がない、降参だ。


「いいよ。お茶ありがとう」

「どういたしまして♪」


 俺はベンチのスペースを半分開けて倖楓に譲る。倖楓が膝の上で弁当箱を開いて食べ始める。


「ゆーくんそれで足りるの?ダイエット中の女子みたいだよ?」

「ちょっと食欲が無かったんだよ」

「えー、育ち盛りなんだから食べないとダメだよ。はい、からあげ」


 箸で掴んだそれを俺に差し出してくる。見覚えのある光景、「あーん」だ。またこれか。しかし今日はもう抵抗する気力が残ってない。呼び方すらも指摘するのが面倒だ。大人しく従うことにしてからあげを食べる。


「おー、ゆーくんが素直だ」

「今日はもう疲れたんだよ」

「今日みたいに盛りだくさんの内容を毎日かー」


 さらっと恐ろしいことを言う。ほんとに過労死するぞ。俺をどうしたいんだ。


 そんな会話をしながらお互いに昼食を食べ終える。一応まだ時間は残っているので食休みに終わりかけの桜を見ながら話す。


「あ、そういえばね。ゆーくんにお願いがあるの」

「俺の無理でない範囲でなら」

「それなら大丈夫、朝出来なかったことをしたいの」


 何かあっただろうか?思い返してみるが出てこない。


「久木君と槙野さんに謝りたいって話だったでしょ?」

「あ、そういえば」


 誤解を解くのと2人の悪ふざけが原因ですっかり本来の目的を果たせていなかった。つまり、もう一度その機会を作ってほしいということだろうと俺は理解する。


「じゃあ、今日の放課後でいい?2人には今からメッセージするから確実とは言えないけど」

「うん、お願い」


 このやりとりから放課後の約束が確定するまで、そう時間はかからなかった。






 しかし、この時の俺はまだ忘れていた。まさか、それよりも前に一大事なことが待っていようとは―――――――。


次回予告:シリアスにはまだ早い。


そもそもこの作品にシリアスはほぼ無いです。

次回更新はすぐだと思います。このご時世で特別予定もないですから。

ということで今度こそ、良いお年を。

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