油断大敵を味わう朝
変な時間に更新してすみません。
俺の波乱の幕開けだった高校の入学式から2日後。今日から本格的に高校生活が始まる。
だがしかし、俺は憂鬱で仕方がない。なにせ新入生代表であり、その容姿でも注目の的である遊佐倖楓との親睦を深めようとしたクラスメイトの誘いを、当人が俺との『約束がある』という理由で全て突っぱねた上、その場を2人で去るという最悪な印象で終わっていたからだ。倖楓とケーキを食べてから帰宅後、そのことに気付いてから休みだった昨日も1日中悩まされていた。ただでさえ俺に向けられる視線が痛かったのに、今日からどうなってしまうのか。
「あー、行きたくない…」
このセリフ、起きてからもう何度目になるだろうか。入学式が終わっただけでこうなる高校生なんて滅多にいないだろう。そう言いつつも、玄関でローファーを履いて出ようとしている俺を誰か褒めて欲しい。ため息をつきながらドアを開ける。今日も天気だけは良い。
「さて、何にしよう」
マンションから出た俺は、コンビニに入っていた。今日は5時間目まであるため、昼休みがある。5時間と言っても、まずは各科目の授業説明などがメインな上、5時間目はホームルームなのでまだ本格的な授業が始まるわけではない。
「これでいいか」
俺が手に取ったのは飲料ゼリーとおにぎり1つ。普段から小食というわけではない。今日は朝から食欲があまりなかった。なんだか胃が急激に弱くなった気がする、特にここ2日くらいで。本当は食費を軽くするために弁当を用意するつもりだったが全くやる気が起きなかったので今日は諦めた。学校には学食や購買があるが、慣れない内に行くのも気が引けたのでコンビニを選択したということだ。
俺は会計を済ませた物をバッグにしまって、駅へ向かう。今日も明希と槙野の2人と待ち合わせをしている。ちなみに俺が倖楓に誘拐(?)された日の夜に2人からメッセージが来ていた。明希は素直に謝っていたが、槙野には「むしろ気を使ったのだから感謝して」と言われてしまった。やはり槙野とは一度しっかり話し合う必要がある気がする。いや、絶対。
そんなことを考えながら歩いていると、突然横から来た人影に左肩を叩かれる。
―――――ダメだ。絶対にそっちを見ちゃいけない。脳内警報が響いている。さすがの俺も、もうわかる。「なぜ俺の通学路にいるのか」など、聞きたいことはあるがこの際それは置いておこう。よし、作戦が必要だ。俺は今、ちょうどイヤホンをして音楽を聴いている。気付かなかったことにして、このまま歩き去ってしまおう。強行突破だ。ガンガンいこうぜ。
「おはよう!…あ、あれ?ちょっと!?」
俺は何も聞こえてない。そうだ、何も聞こえない状態なのだ。音楽万歳、イヤホン万歳。
しかし、そんなのが上手くいくわけがなかった。当たり前だ、バカか俺は。たぶん疲れている。休みがあと1ヶ月は欲しかったな、切実に。
順調に歩いていた俺の左肩が、後ろから何者かに掴まれて足が止まる。あー、振り返りたくない。もう次を許すつもりがないのだろう、ものすごい力と圧を感じる。痛い、どんどん力が強くなっていく。この子、女の子だったよな?何かを感じ取ったのか一層力が入っている。
年貢の納め時か。後ろに振り返ると、そこにはものすごい笑顔の倖楓が立っていた。具体的には、漫画なら怒りマークが顔に多数浮かんでいそうな笑顔だ。まずい、とりあえず気付かなかったフリをしよう。いのちだいじに。
「あ、おはようサチ!こんなところで会うなんて偶然だなー!」
俺はイヤホンを外して、とても愛想良く挨拶をする。我ながら完璧な切り替えだ。こういう時、本当に役に立つ。
「うん。おはよう、ゆーくん。そんなことより私に何か言う事あるよね?」
ダメだった。むしろ今も掴まれている肩の痛みが増した。笑顔は変わらず、目が笑ってない。これじゃあ呼び方の指摘も出来ない。というかこれは有無を言わせないつもりで言ってるな。
「すみませんでした」
俺の白旗、いつか折れるのではないだろうか。
「もう、いくらなんでも無視は一番ひどいと思う」
「だから悪かったって」
さっきまでの怖い笑顔はしてないけど怒りは収まっていないようで、さっきから何度も謝っている。
「ほんとに思ってる?」
「思ってます。もう挨拶をスルーしたりしません」
「約束できる?」
…約束か。一昨日の朝、夢で苦い思いをしてるので胸がチクッと痛む。そんなこと、倖楓にわかるはずもないのに、誤魔化すように俺は笑顔で返事をする。
「するよ」
「…じゃあ許してあげる」
俺の目を少し見た後、彼女が笑ってそう言った。心の内を見ようとするような目に、俺は一瞬焦ってしまった。しかし、特に何かを聞いてくることもなく、気付けば待ち合わせの改札近くまで来ていた。
「俺、ここで待ち合わせしてるから」
「もしかしなくても久木君と槙野さんだよね?一昨日のこと、ちゃんと謝りたいから一緒に待ってもいい?」
そういえば、ケーキ屋でそんなこと言っていた。まだ気にしてたなんて律儀だな。
「この間も言ったけど、一緒に来なかったのは2人だし気にしなくて大丈夫だよ」
「それでもだよ。私が悪いことをしたと思ってるんだから。それにね、ゆーくんの友達だからちゃんとしたいの」
そんな風に言われたら断りきれない。それに、また申し訳なさそうな顔をしている。この顔が俺はとても苦手だ。
「わかった。じゃあ2人にメッセージ送るよ。あと呼び方。気をつけろよ」
俺は小さい子を叱るように苦笑気味に指摘する。今日一度も俺の事を「ユウ」と呼ばないので、一昨日の決め事忘れているのではと思ってしまう。
「ありがとう。大丈夫だよ、人がいっぱいの時は呼ばないから♪」
楽しそうに言うんじゃない。つまり、ずっとわざとか。しかも人が少なかったら場所を選ばず呼ぶつもりらしい。決め事とは。
とりあえず明希と槙野にメッセージを送った。
『一昨日と同じところで待ってる。あと、おまけがいるから。よろしく』
『もしかしなくても遊佐さんだよな?俺たちの事は気にするな、学校には上手いこと説明しとく。楽しんで来いよ』
『あら、おまけの方がメインだなんて。あんた、いつから食玩のお菓子になったの?とりあえず、明日もあんたの席があるようになんとかしてみせるから。ちゃんとエスコートしなさいね』
既読が付くのも早ければ返信もすごく早かった。普段こんなにすぐ返してくることなんて滅多にないのに。というか『待ってる』って書いてあるのに、なんでどこか行くことになってるんだ。思考回路がどうなっているのか調べたい。あと、槙野はお菓子メーカーに謝れ。
『なんで学校行かないことになってんだよ!2人に用事があるって言ってるから、今度はちゃんと来いよ』
『用事?それなら仕方ないな。うまく説明するのは次の機会にしよう。5分後に到着予定』
『なーんだ、明日も席がありそうでよかったわね。遊佐さんに少し待たせるけどごめんねって伝えておいて』
本当にこの2人は息が合いすぎて手が負えない。すぐに着くみたいだし、待ちくたびれる事はないだろう。了承が取れたことを倖楓に伝える。
「2人とも『わかった』ってさ、5分後の電車で来るみたい」
「よかった。謝るつもりなのにおかしいと思うけど、楽しみ」
「まあ、2人揃ったらコンビプレーが厄介だけど良い奴らだよ。そこは保障する」
「さっきも言ったけど、ゆーくんの友達だからそこは心配してないよ」
そんな無条件に信頼して大丈夫なのか?そのうち怪しい教材とか壺とか買わされないか心配になる。
ふと気が付く。なぜだろう、やけに通行人たちがこっちをチラチラ見て行く。理由を考えるが、その答えはすぐに出た。そう、俺の隣にいるのは『遊佐倖楓』なのだ。俺としたことが油断していた。すっかりこの状況に慣れかけていたのだ。まずい、この慣れは絶対にしちゃいけない種類のものだ。
「どうかしたの?」
倖楓が、下を見ながら考えていた俺の顔を覗き込むようにして聞いてくる。突然の顔の近さに驚いて勢いよく頭を上げる。と同時に後頭部に衝撃と激痛が走る。
「う゛っ」
「きゃっ!大丈夫!?」
後ろに壁があるなんてことをすっかり忘れてしまっていた。めちゃくちゃ痛い。平面でよかった、本当に。
「だ、だい、じょう、ぶ」
後頭部を両手で押さえながらなんとか答える。最近(主にここ2日くらい)、不注意での損害が多い。こんなこと今まで全然なかったのに、本当にどうしてしまったのか。
「ご、ごめんね?私が驚かせちゃったから…」
「いや、隣にサチがいるのに考え事してた俺が悪いよ」
まだ引かない痛みに耐えながら自分の責任だと主張する。本当にしっかりしないと、そのうち事故に遭いそうだ。詐欺に引っかかるかも、なんて他人を心配している場合じゃないな。そんなことを考えていると、突然倖楓が後頭部に手を当ててさする。
「やっぱり熱持っちゃってるかな、たんこぶにならないといいんだけど」
「いや、ちょっ」
本当に突然なことで、まともに言葉が出ない俺。すると肝心な時に助けてくれないくせに、こういう時だけタイミングの良い奴らの声が聞こえてきた。
「えっと、やっぱ先に行こうか?」
「なに?用事ってこれを見せるためだったの?」
「ままま、待って!ち、違うの!」
「そうだ!誤解だ!話せばわかる!」
焦ってまともに言えてない倖楓と、後頭部の痛みのせいか状況の悪さのせいなのか、もしくは両方の理由から涙目の俺の切実な叫びが朝の改札前に響いたのだった。
ちなみに、誤解を解くのに使った時間は2人を待った時間よりも長かったとだけ言っておく。
これが年内最後の更新になるか、あと1回更新出来るかどうかなので先にご挨拶を。
この作品を投稿しはじめてまだ3日ですが、私にとってたくさんの方にブックマークや評価をしていただけて大変うれしく思っています。
私はせっかちなところがあるので、チェックをしていても誤字脱字を見逃してしまうことがあるかと思いますが(すでに指摘していただいてます、ありがとうございます)ご容赦を。
来年も少しでも楽しんでいただけるように頑張りたいと思います。
改めて、この作品のことを今後ともよろしくお願いします。
皆様、よいお年を。




