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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
第4章 それぞれの夏
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悠斗の“特別”

本日最後の更新です。

 レンを送り届けて家が見えてくる頃には、すっかり夜になっていた。

 やっと着いたと思ったその時、家の前に人影が見える。


「サチ、何してんの?」

「そろそろ、ゆーくんが帰って来るかなって思って」

「そっか、ありがと」

「………」


 お礼を言った途端、倖楓が瞬きをして固まる。


「どうした?」

「ゆーくんが素直だったからビックリしちゃって…」


 なんて失礼な理由なんだ。

 俺はそんなにお礼を言わない人間だっただろうか?


「じゃあ、もうお礼言わないからな」

「あー!ごめんごめん!」


 倖楓が慌てたように俺に縋り付く。

 すっかり倖楓もいつも通りだ。


「…その、改めてありがとう」

「私が待ちたかっただけだよ」

「そっちじゃなくて、レンと話す時間を作ってくれたこと」

「…どうだった?」


 笑顔で聞いてくる倖楓。


「うん、いろんなこと話せた」

「それなら良かった!ほら、入ろっ」


 倖楓は俺の手を引っ張って家の中へ連れて行く。


 そのまま2人でリビングへ入ると、家族が揃っていた。


 テーブルには鍋が置いてある。

 具材も並んでいて、生卵と思われる物が置いてあることから、メニューはすき焼きと予想出来た。

 それにしても、夏にすき焼きってどうなんだ?


 俺がそんなことを考えていると、家族に「おかえり」と出迎えられ、すぐに夕飯を食べることになった。


 夏でもやっぱり、美味い物は美味かった。


 食べ終えてからしばらくして、姉ちゃんがリビングを出て行ったかと思ったら、すぐに買い物袋を持って帰ってきた。


「悠斗、さっちゃん、花火買って来たわよ!」

「明日香お姉ちゃん、ほんと!?」

「元気だな…」


 俺と倖楓がいない昼間に買い物に行ったのだろう。

 それにしても、手持ち花火なんて久しぶりだな。


「あー、それならバケツが必要だろう。悠斗、こっちにおいで」


 祖父は反対するわけでもなく、スムーズに準備を手伝ってくれる。

 俺は祖父に連れられ、物置きからバケツを取ってから水を汲み、庭へ出る。

 すると、そこには倖楓だけだった。


「あれ?姉ちゃんは?」

「なんかね、あんた達のために買ってきただけだからって、2階に行っちゃったの」

「なんだそれ…」


 あんなにテンション高かったのに、自分がやるわけじゃないのか。

 まあ、せっかく買って来てもらったのだから、ちゃんと遊ぶのが礼儀だろう。


「じゃあ、やろうか」

「うん!」


 ろうそくに火を点けて設置し、花火を持つ。

 いざ、着火。

 すぐに花火に火が移り、綺麗な色を放つ。


「わー!綺麗!」


 倖楓は両手に1本ずつ持ってはしゃいでいる。

 その光景がとても微笑ましい。


「俺、手持ち花火ってすごい久しぶりだ」

「私も!それこそ小学生以来かも?」

「もしかして、一緒にやったのが最後?」


 小学6年の夏に遊佐家と合同で海に行った時に花火をしたのが、俺の最後の手持ち花火の思い出だった。


「そうそう!ゆーくんも?」

「そうだよ」

「なら、久しぶりに出来たのが、ゆーくんとで良かったぁ」

「…だな」


 俺と倖楓は次々と花火を点けて楽しんだ。

 2袋もあった花火も、気付けは線香花火しか残っていなかった。

 そして、どちらからともなく競争が始まっていた。


「………」

「………」


 お互いに黙って線香花火を見つめる。

 まるで、視線を外したら落ちると思っているかのようだ。

 もちろん視線を外さなくても―――。


「…あ」


 俺の線香花火が先に終わってしまった。


「最後は私の勝ち!」


 特に罰ゲームを用意していたわけではないが、悔しいと思ってしまうあたり、まだまだガキだなと我ながら思う。


 全ての花火を使い切り、バケツに最後の線香花火を入れて片づけを始めようとすると、後ろから倖楓の声が聞こえてきた。


「ゆーくん、ちょっと座らない?」


 振り返ると、倖楓は縁側に座っている。

 ちゃんと火の始末は済んでいるので、特に断る理由も無かった。


 俺は倖楓の隣に腰を下ろす。


「今日は楽しかったね」

「そうだな」


 今日はずっとこの感想を口にしている気がする。


「香蓮ちゃんにね、来年も来てねって言われたんだー」


 それは、遊佐家的にはどうなのだろうか…?


「俺は良いけど、サチの家族は良くないんじゃない?」

「お父さんとお母さんの説得は任せて!」


 それでいいのかと苦笑いをするしかなかった。


「もっと前から一緒に来れてたら良かったのに…」


 残念そうに呟く倖楓。


「それは言ってもしょうがないだろ?」

「それはそうなんだけどね」


 倖楓は子どもっぽく唇を尖らせている。


 俺は、そもそもの疑問を倖楓に聞いてみることにした。


「そもそも、どうして今回は一緒に来ることになったの?」


 よくよく考えたら経緯は聞いていなかった。


「えっとね、私と奈々さんと明日香お姉ちゃんのメッセージグループがあってね」


 何そのグループ、怖い。

 いつの間にそんなのもが出来てたんだ…。


 内心で怯えている俺に気付くこともなく、倖楓は続ける。


「そこで、お盆はどうする予定なのって奈々さんに聞かれて、実家に戻ってからは特に決めてませんって伝えたら、良かったら一緒に来ないかって誘われたんだよね」


 結局、あの母親が事の発端だったわけか…。

 本当に自由人だ。

 呆れを通り越して尊敬してしまう。


「…あのさ、私、邪魔じゃなかった?」


 倖楓が不安そうに、俺の方を少しだけ見ながら聞いて来た。


「お盆の時くらい、離れたかった?」

「そんなことない!」


 自分でも驚くほどに食い気味に否定した。

 俺も驚いているのだから、倖楓も当然驚いて目を見開いていた。


 俺は、レンとの会話を思い出す。

 『ちゃんと“想ってます”って伝えて安心させてあげた方がいいよ?』


「サチ」

「…なに?」


 俺は少し深呼吸して、息を整える。


「その、昨日と今日、俺にはサチが“幼馴染”に拘ってるように見えたんだ」

「それは…、うん」

「どうしてか、聞いてもいい?」


 今度は、倖楓が一呼吸置いた。


「昔からゆーくんと一緒だったっていう証だから。他の誰とも違う、ゆーくんの“特別”だっていう、私の自信みたいなものだから…」


 そうか、だから同じ“幼馴染”のレンが現れて、あんなに張り合っていたのか。

 やっと納得出来た。


 ―――でも、倖楓は()()()をしている。


「それは違う」

「…え?」


 俺の否定の言葉が予想外だったのか、倖楓は戸惑っていた。


「サチ―――。いや、()()


 今度は無意識などではなく、自分の意思で、名前を口にする。

 顔が見れない。

 代わりに、夜空を眺める。


 ―――そして俺は、伝える。


「幼馴染かどうかなんて、正直どうでもいい…」


 たとえ前に進む勇気が無くても…、俺の今を精一杯に口に出す。


「“幼馴染”だから特別なんじゃない」


 これだけは、昔から変わらない。

 ―――いや、変わらなかった、変えられなかった。


「倖楓だから…。倖楓だから“特別”なんだ」


 そして、これからもそれは変わらない。


「他に何人も幼馴染がいたって、倖楓が幼馴染じゃなくなったって、俺の“特別”は倖楓だけだから…」


 今、倖楓はどんな顔をして聞いているのだろう。

 俺の言葉はどれだけ伝わっているのだろう。


「その、それだけでも伝えたかったというか…」


 これだけでも言葉が足りないような気がした。


 すると、俺の手に倖楓の手が重ねられたのがわかった。


「―――ゆーくん」


 倖楓から呼ばれて、空から顔を、倖楓に向け直す。



 ――――そして、自分の唇が()()()()()()



 倖楓の顔が目の前にあり、その瞳は閉じられている。

 俺の手に重ねられている手がかすかに震えていた。

 今、何が起きているのか、理解するのにそう時間はかからなかった。


 ――――触れるだけの、優しいキス。


 それだけでも、倖楓の想いが唇に熱として流れてくるようだった。

 周りの時間が止まったような、でも、自分と倖楓だけはたしかにそこにいて。


 やがて、どちらからともなく、ゆっくりと唇を離す。


 目を開けた倖楓は微笑む。


「もう少し、ゆーくんのペースをゆっくり待つつもりだったんだけど、私が抑えられなくなっちゃった」


 倖楓は、いつものように悪戯っぽく、でもどこか嬉しそうに顔を赤らめながら言う。


「私なりの、ゆーくんへのお礼。…嫌だった?」


 そう言う倖楓の顔に不安さは微塵も感じない。

 むしろ、俺の心の内なんてお見通しだ、と言わんばかりの笑顔だ。

 それがちょっと悔しくて、でも嬉しくもあって―――。


「…嫌じゃ、ない」


 また夜空を見上げ、無愛想な言い方をしてしまう。


「うん、今はそれでいいよ」


 倖楓が俺の肩に頭を乗せてきた。

 その重みが、心地いい。


「ゆーくん」

「ん?」

「嬉しかった。ありがとう」


 夜空に浮かぶ月がいつもより―――、さっきよりも綺麗に見えたのは、きっと気のせいじゃない。

4章はこれで終わりです。

もしかしたらエピローグとして数話あるかもしれません。


ようやく悠斗と倖楓の関係が大きく動きました。

ここからどうなっていくのかを楽しみにしていただけたらと思います。


次回は水曜日更新予定です。

何か変更があった場合は活動報告に書きますので、気になった時は覗いてみてください。

よろしくお願います。

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