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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
第3章 記憶と想い
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葛藤

 あれから、自分が少しは成長したと思っていた。―――でも、結果はああなった。今度は嘘なんかではなく、力で押さえつけた。


 幸いだったのは、目撃者が茉梨奈さんだけということだろう。この人が言いふらすような人でないのは考えるまでもない。


「俺を悪くないと言いましたけど、そんなことないですよ。…あの時も、今回も、いくらでも上手くやれたはずなんですよ」

「…完璧な人間なんて、いるはずないでしょう」


 たしかに、そんな人間はいないのだろう。でも、それでは駄目だと知っているから…。


 ―――べつに周りから好かれたいとか思っているわけじゃない。ただ、また倖楓の傍にいれたらと思った。


 そんな俺に警告をするような出来事が起こった。まるで「忘れることなんて許さない」と言われているように思えた。


「それでもですよ。…結局、どこまで行っても俺は、あの頃と変わらず無価値なままだと痛感させられました」


 俺は、もう自嘲して笑うことすら出来ていない。


「そんな風に、自分を卑下するのはやめなさい」


 茉梨奈さんが真っ直ぐに俺を見つめる。


 この人と目を合わせるのは苦手だ。俺の心を全て見透かされるように感じてしまうから。


 何も言えずにいる俺に、茉梨奈さんが言葉を重ねる。


「そういうのはね、あなたを大切に想っている人達を侮辱する行為よ。…その1人に私もいるということを忘れないで」


 こんなに熱を込めて話す茉梨奈さんを初めて見る。同時に、俺が大切だと思える人達の顔が思い浮かぶ。


「…すみません」


 ただ、「自分が良くないことをした」ということしか理解しないままに俺は謝罪した。


 それでも、やっぱりまだ自分への評価は変わらない…。


「いいわ。まだ自分の価値が無いと思うなら、また生徒会に入りなさい」

「え?」


 思いもよらない勧誘に驚いた。いや、実際に中学の時は茉梨奈さんに勧誘されたが、高校でもされるとは思っていなかった。


「そんなこと考えられなくなるくらい、こき使ってあげるから」

「えっと…」


 急にそう言われて、「わかりました」とはすぐに答えられない。そうでなくても、今は考えることが多すぎて頭がパンクしそうだった。


「9月の選任までに考えておいて」


 9月には生徒会選挙がある。うちの高校は生徒会長を選挙で決め、他の役員は会長が選任する決まりだ。


 茉梨奈さんは生徒会長になる気のようだ。今は副会長を務めているし、会長に当選するのは間違いないだろう。


 どうやら本気の勧誘らしい。


「…考えておきます」

「そう」


 俺の答えに満足したのか、茉梨奈さんはいつもの調子に戻ってカップに口をつけた。






 もうすっかり日も暮れていた。


 俺は茉梨奈さんを改札まで送ってからマンションへ帰った。


 ドアを開けて家に入り、


「ただいま」


 1人暮らしだというのに、未だに帰宅の言葉が抜けない。


 ドアを閉めたところで違和感に気付く、部屋の奥からいい匂いが漂っていた。―――原因はすぐにキッチンから現れる。


「遅い!」


 エプロンを着けた倖楓が、怒った顔をキッチンから覗かせた。


 一瞬、どうして倖楓がここにいるのかと疑問に思ったが、自分で夕飯の準備を頼んだことをすっかり忘れていた。


「…あ、ごめん」


 目を背けてしまった。―――今、倖楓を目にするのは少し辛かった。


 すると、すぐに間隔の短い足音がしたかと思ったら、俺の手が握られた。倖楓の手がすごく温かく感じる。


「心配だった…」


 倖楓の顔を見なくても、暗い表情をしているであろうことがわかった。


 それもそうだ。呼び出しの場を目の前で見ていたのに、それから全く連絡が無かったら気になるに決まっている。これは全面的に俺が悪い。


 俺は、これ以上心配させないように笑顔を作る。


「サチ、本当にごめん。…でも、大したことじゃなかったから」


 自分がちゃんと笑顔を作れているかわからない。とにかく悟られたくなくて精一杯だ。


 ―――突然、倖楓が俺の胸に勢いよく抱き着いた。俺の背中に回された手は、強くブレザーの背を握っている。


 言葉が出ない。「こうしてちゃいけない」と思う自分と、「こうしていたい」と思う自分がぶつかっている。


 今度は倖楓の表情を見ようとしたが、額を俺の胸につけていて見えない。―――この子は今、何を想っているのだろう。今の俺にはそれすらも聞けない。


「…まる」


 倖楓が何かを呟いたようだったが、聞き取れなかった。


「何て言ったの?」


 倖楓は顔を上げることなく、


「…()()()


 とだけ言う。


 いきなりのことで、俺には何のことかさっぱりわからない。一体、何が()()()というのだろうか。


 理解出来ずにいると、倖楓が顔を上げて俺の顔を見る。


 少し泣きそうな表情で、

「私、今日()()()!」


 と宣言してきた。


 やっと「とまる」を理解出来た俺は慌てて、


「いや、サチ…」


 ハッキリと拒否も出来ず、名前だけを呼ぶ。


 それだけでも俺が乗り気じゃないのが伝わったのか、今度は頬を俺の胸につけた状態で、


「いやっ!泊まるの!」


 さっきよりも腕の締め付けが強くなる。


 どうしたものかと俺が考えていると、倖楓の体が少し震えているのがわかった。それに気付いたら、許す以外に選択肢が無いように思えてしまう。―――しかし、俺の頭に今日の出来事がよぎる。


 ―――今の俺が、その選択を取れるような状態ではないと理解する。


 俺は、倖楓の頭に手を添えて、


「…ごめん、今日はダメだ」


 倖楓の締め付けがさらに強まる。


「…私が泊まるの、嫌?」


 絞り出したようなその声に、心までも締め付けられる。


「違う、サチが悪いとかじゃないよ。ただ…俺の問題でさ…」


 倖楓は動かず、何も言わない。俺はただジッと倖楓を待つ。


 何秒経ったのかもわからないくらい待つと、


「…わかった。今日はやめる」


 なんとか納得してくれたようだ。


 倖楓の気分を変えるためにも、俺は次にやる事を倖楓に提案する。


「夕飯、まだ出来てないんだよね?俺も手伝うから、キッチンに戻ろうか」


 また倖楓は動かない。さらに時間が必要かと思ったら、


「…あと5分」


 答えは早かったが、現状を5分キープしなければならなくなった。


 さすがに、これまで断れないと諦めて待つ。


 お互いに何か言うこともなく、静かな空間。しかし、俺の頭の中は騒がしかった。


 ―――倖楓と保健室で交わした約束を破りたくはない。でも、やっぱり自分が倖楓の傍にいて良いとも思えない。


 そんな葛藤がずっと続いている。


 俺は、自分がどうするべきなのか、わからなくなってしまった。

明日も同じ時間帯で更新がありますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自己憐憫に浸るだけの自虐系ナルシスト主人公かぁ、、、 [一言] 悲劇のヒロイン気取りで自分が悪いって責める主人公のせいでまわりを不幸にする、、、罪深いw
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