ルピナス(1)
あと2話更新あります。
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翌日、俺は早起きをして外出の準備をしていた。これからバイト初日を迎える。そんな俺は気怠かった。バイトが面倒くさいとかではなく、単純に眠気のせいだ。元々の朝の弱さもあるが、単純に寝不足。昨日の夜は早めにベッドに入ったのだがなかなか寝付けなかった。
「眠い」
そんな独り言が出てしまうほどだ。俺は仕度を終えたので、ソファに座って今日の同行者がやってくるのを待つ。その間少し目を瞑って少しでもこの眠気を取ろうとする。と思った矢先に玄関のドアが開く音がする。思ったより早く来たみたいだ。
「悠斗―、準備できてるー?」
姉ちゃんが玄関からリビングに聞こえるように声をかけてくる。普通に入ってくればいいのに。
「起きてる。すぐ行くの?」
「行くー、だから出ておいでー」
そう言ってまた玄関のドアが開閉された音がする。俺は立ちあがって外へ出た。
「ふぁー」
姉ちゃんが大きく欠伸をした。朝は強い人なので珍しい。
「寝不足?」
「そう。さっちゃんがなかなか寝かせてくれなくて」
「何してたの…」
所謂、ガールズトークに花が咲いてしまったというやつだろうかと考える。すると姉ちゃんが悪夢を思い出すように語り出す。
「さっちゃんの説教が深夜3時くらいまで続いたのよ。わかったって言っても同じ話を何回もされて、悠斗との約束に支障が出るって説得してやっと寝かせてもらえたの…」
悪夢そのものだった。さすがに同情してしまう。倖楓を本気で怒らせるのはダメだなと戒めとして心に刻んだ。
「あんたも眠そうじゃない?」
「俺が元々朝弱いの知ってるでしょ」
俺はそういうことにしておいた。
2人揃って眠い目を擦りながら歩いて、やがて目的地にたどり着いた。今日からバイトをする洋食屋だ。店名には『ルピナス』と書いてある。そういえばどういう意味だろう。
「じゃあ入るわよ」
「うん」
ドアを開けるとドアベルの軽やかな音が鳴った。うるさくなくて心地のいい音だ。店内に入ると、カウンター席に座る女性がこっちを見て声を掛けてくる。
「あ!明日香ちゃんと悠斗くん、待ってたよー!洋ちゃーん、来たよー!」
とても元気な人だ。厨房にいる人を呼ぶ。すると奥から調理服を着た男の人が出てくる。まさにシェフって感じの格好だ。
「聞こえてるよ、海晴。いらっしゃい…はおかしいか。よろしくね」
この2人が、洋食屋『ルピナス』を切り盛りしている甲斐夫妻。俺は3月に事前に会って挨拶をしている。料理担当の旦那さんの甲斐洋介さんと、その他全てをこなす完璧な奥さんの海晴さん。2人ともまだ20代と若く、海晴さんなんて3年の先輩だと言われても疑わないくらい若く見える。洋介さんは少し強面で目力が強くてこちらが委縮してしまいそうになるが根は優しく、声色もやわらかいのですぐに慣れた。むしろこれくらい濃い顔の方がカッコよくて俺は憧れる。実際にそう言ったら海晴さんが大興奮で洋介さんの良いところを長時間語ってくれた。
俺と姉ちゃんは2人並んで挨拶を返す。
「洋介さん、海晴さん!ご無沙汰してます!弟をよろしくお願いします」
「お久しぶりです、今日からよろしくお願いします」
「もう、2人ともそう硬くならないでいいのに!」
「海晴はもう少し親しき仲にも礼儀ありを重んじた方が良いよ」
こんな風に海晴さんがアクセルで、洋介さんがブレーキのように役割が分かれている。2人揃ってこそなのだなと思う。
「それじゃあ開店準備するから2人とも早く着替えてきて!」
「海晴はこう言ってるけど慌てなくていいからね」
「はい、ありがとうございます」
「悠斗、こっちだよ」
俺は姉ちゃんに連れられて裏にある従業員用の部屋に行く。部屋と言ってもそこまで広いわけでもなく、本当に荷物を置いて着替えるだけのスペースしかない。男女で部屋が分かれてるので別々に着替えてから扉の前で合流する。それからまた店に戻った。
「んー!やっぱり良い!悠斗くん似合ってる!」
「あ、ありがとうございます」
俺は上にシャツ、下は黒のスラックスを着て、靴は学校用のローファーを履いている。
「あとはやっぱりこれ!着けて!」
渡されたのは腰に巻くサロンエプロンと呼ばれる物だ。言われた通りに腰に巻いてみる。なんか洋食屋のウェイターというより喫茶店の店員みたいだ。これは海晴さんの趣味らしい。
「完璧!明日香ちゃんのウェイトレス姿も良いけど、男の子のウェイター姿もまた別で良い!」
「おい、海晴。悠斗くんが引いてるから。でも、俺も良く似合ってると思うよ」
「悠斗、あんたそういうの似合うのね。新発見だわ」
そういう姉ちゃんも髪をポニーテールにしたウェイトレス姿だ。やっぱり年季が違うからだろうか着慣れている感がすごい。ちなみに制服の男女の違いはスラックスかスカートかの差だけだ。一通り堪能したのか、海晴さんが話を進める。
「それじゃあ、開店準備の説明からね。基本的には椅子を揃えたり、掃除をしたり、レジのチェックをしたりいろいろあるけど、今日は明日香ちゃんがいるから大丈夫そうかな?」
「任せてください、海晴さん!」
これが、今日姉ちゃんが一緒に来た最大の理由だ。姉ちゃんは3月でここのバイトを辞めてしまったが、今日だけは俺の指導役として復帰することになった。この店は他にバイトを雇っていない。経営が苦しいからとかではなく、単純に海晴さんが超人的な仕事の早さで人手を必要としていないのだ。それなのになぜ姉ちゃんや俺を雇ってくれるのかというと、ただ気に入ったからということらしい。姉ちゃんが彩天に通っていた頃、たまたまこの店に入って食事してから何度か通っていると海晴さんに勧誘されたらしい。俺は完全に姉のおこぼれを貰っているだけだ。
「それじゃあ始めるよ、悠斗」
「うん、よろしくお願いします先輩」
それからは真面目に仕事の説明を受けつつ準備をする。開店時間まではあっという間だった。
前編でした。
最近1話あたりの文量が増えてたのですが、これくらい短くして数話にわける方がいいのかと悩んでいます。難しいですね。
このあとすぐ続きを更新します。




