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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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悠斗と倖楓

 俺はいつものように鍵を開け、いつものように玄関へ入る。

 すると、そこには見慣れた靴が揃えて脱いであった。


「やっぱりな……」


 ホッと一安心する。

 自信はあったが、不安が無いわけではなかったからだ。


 自分の靴も隣に並べてそのままリビングへ。ソファにも見慣れたバッグが置いてある。

 その先にある寝室のドアが、少しだけ開いたままになっている。そのままドアへ近づき、ドアノブへ手を伸ばす。

 なんて声をかけようか少し迷って、この場所に相応しい言葉を選ぶ。


「ただいま、倖楓(さちか)


 ドアを開いて見えたのは、枕を抱えてベッドの上でうずくまった倖楓だった。俺が声をかけるのと同時に、肩をビクッと震わせる。

 そして、数秒の沈黙――。


「……どうして」


 枕で顔を覆ったままの倖楓のくぐもった声が聞こえる。

 きっと、この“どうして”には色々な意味が含まれている。


「んー。どこにいるか考えた時に、俺の部屋しか思いつかなかったからかな」


 もちろん学校やバイト先、いろいろな所へ出かけたりもしたけれど、二人で一番一緒に過ごしたのはここだ。俺と倖楓の時間が、たくさん詰まっている。


「あとは――、倖楓の傍にいたいから」


 母さんに頼む程だ。来て欲しくなかったのかもしれない。

 それでも、俺はもう間違った選択はしない。


「……ダメだよ」


 震えた倖楓の声。


「どうして?」


 俺の問いに、倖楓は顔を上げる。


「私といたら、ゆーくんに辛いことばっかり起こる!」


 ――ずっと、泣いていたのだろう。赤くなった目から、涙が流れ続けている。


「そんなことない」

「あるよ! 私がゆーくんの傍にいる資格なんて……」

「――それなら、どうしてここにいるんだよ」


 本当に一人になりたいのなら、ここじゃなくていいはずだ。自分の部屋でも良かったはずなのに。

 それなのに、この場所を倖楓は選んだ。チェーンをかけてしまえば、誰も入ることが出来ないのに、それをしなかった――。


「本当は、待っててくれたんだろ?」

「……そんなこと」


 本人は無意識だったのかもしれない。

 しかし、俺に言われても強く否定することが出来ないように見えた。


 俺はベッドに近づき、倖楓の隣に座る。それでも倖楓は拒絶の反応を示したりしない。


「いいんだよ、資格なんて」

「……どうして?」


 どうしようもなく簡単で、些細で、単純で。

 ――でも、一番大切なこと。


「――倖楓のことが好きだから」


 こんな明快な答えを、気持ちを伝えるのに、とても遠回りをしてしまったと思う。

 でも、その道の長さが無駄だったとは思わない。


「……私……ずっと、ゆーくんに好きって言えなかった……」


 ようやく、倖楓が抱えていた気持ちを吐露しはじめた。


「態度とか行動には出せても、心のどこかで資格がないって。だから“好き”って言葉がどうしても出てこなかったの」


 初めて聞く、倖楓の気持ち。

 それはとても俺とよく似ていて――。


「俺もだよ。ずっと倖楓が好きだった。でも、そんな自分を許せなかった」


 それこそ、俺には資格がないと思っていた。


「でもさ、こんな自分でもいいのかもしれないって思わせてくれる人がたくさんいて、変われたんだ。……って、似たようなこと昨日も言ったっけ」

「……うん」

「それに気付けたのは倖楓がいたからで、俺は倖楓にたくさんのものを貰ったんだよ」


 いつの間にか枕を手放していた倖楓の手に、俺の手を重ねる。


「だから、俺の我が儘を許してくれるなら、ずっと傍にいてほしい――いや、いさせてほしい」


 倖楓の瞳から、また大粒の涙が落ちる。


「二人で幸も不幸も分け合って、一緒に歩いていきたいんだ」

「……私で……いいの?」

「倖楓がいいんだよ。ていうか、倖楓じゃないとダメだ」


 俺の伝えたいことは全て伝えることが出来た。

 それは倖楓にもわかったのか、袖で両目を拭う。

 それから顔を上げると、赤くなった目尻のまま悪戯っぽく笑う。


「ゆーくん、なんだかプロポーズみたいだよ?」


 言われて見ればそんな風に取れなくもなかった気がする。

 しかし、言いたいことを言えた清々しさからか、あまり気にならなかった。


「まあ、それでいいや」

「……え!?」


 我ながら投げやりな気もするが、全部本音だったのだから仕方がない。

 とはいえ、まだ結婚なんて出来る年齢じゃない。


「予約な、予約」


 いつになるかはわからないけど、そんな未来を迎えたい。

 しかし、口だけというのも格好がつかないか……。

 ふと、俺の頭に妙案が浮かぶ。ベッドから下りた俺は、近くの棚の引き出しを開く。


「ゆーくん?」


 不思議そうな倖楓の声を背に、俺は目的の物を手に振り返る。


「それ、なに?」


 倖楓の目には、小さな箱が映っている。


「本当は来月の誕生日に渡そうと思ってたんだけど」


 俺はそう言って倖楓に手渡す。

 それを受け取った倖楓は、そっと箱を開いた。


「これ――」


 ゴールデンウィークに二人で出かけた時、倖楓が見ていたネックレスだ。

 あの時は「なんでもない」なんて言っていたが、さすがに欲しがっているのはバレバレだった。


「誕生日はまた別のもの用意するからさ。今はこれで許してほしい」


 ネックレスを眺める倖楓が嬉しそうな顔で「つけていい?」と尋ねるので「もちろん」と返した。

 左手が使えれば俺がつけてあげられたのだが仕方ない。いつか、別の機会でしてあげようと思う。


「……どうかな?」


 倖楓が小首を傾げながら尋ねてくる。


「似合ってるよ」

「ほんと?」

「ほんと」

「かわいい?」

「……かわいい」

「好き?」

「…………好きだよ」


 段々と遊ばれているような気がしてきたが、今日だけは許そうと我慢する。

 満足そうに頷いた倖楓は、俺の首に手を回す。


「ありがとう。私も大好きだよ、()()


 突然の名前呼びに驚く暇もなく、倖楓と唇が重なる――。

 以前の触れるだけではない、お互いの気持ちを確かめ合う長いキス。

 そしてゆっくりと唇を話すと、おでこ同士を合わせる。


「もう離さないからね?」

「首に手を回されたままっていうのは、さすがに困るかなぁ」

「もうっ! わかってるくせに!」


 もちろんわかっているが、こういう方が俺たちらしい。

 ……まあ、今日くらいは違くてもいいか。


「大丈夫だよ、倖楓。俺も離したりしないから」

「……うん」


 そしてもう一度、唇が近づき――――、


 ――――ポケットのスマホがそれを阻止した。


 倖楓がとても不満そうにしている。

 朝の反省を活かしてマナーモードを解除したら、さっそく不都合が生じるとは……。


 でも、これこそ俺たちらしいかもしれない。

 どちらからともなく、笑い出した。


「たぶん槙野(まきの)からだ。ものすごく怒ってるだろうから、覚悟した方がいいぞ」

「……幸も不幸も一緒、なんだよね?」

「それはそれ、これはこれ」

「えー! ズルいよ!」


 いつものようにじゃれ合って。

 でも、たしかに今までとは違って。


 俺と倖楓は二人で歩いて行く――。

次回、エピローグとなります。

明日更新ですので、よろしくお願いします。

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