一緒なら
それぞれ頼んだ料理を食べながら話していると、話題は文化祭へ移った。
「で、倖楓ちゃんと水本は文化祭どこ回るとか決めてるの?」
「んー、茉梨奈先輩のクラスには行くことにはしてるんだけど、他はあんまり決めてないんだよね。私もゆーくんも行き当たりばったりでもいいかなって思ってるから」
ついこの間ではあるが、事前に文化祭のしおりが配布されたので、どこでどんなことが催されているのかがわかっていた。
もちろん倖楓と二人で目は通したが、タイトルだけで惹かれるような模擬店やイベントなどが無かったため、その時目に入って興味が出れば入ってみるという形にしようとなった。
ちなみに、茉梨奈さんのクラスは茶屋をするらしい。本人が提案したわけではないだろうが、あの人のイメージによく合うテーマだと思う。
「明希達はどうするの?」
明希と槙野も、文化祭は二人で回ることにしているらしい。
「俺と香奈は屋台中心かな。あとは体育館のイベントとか。バスケ部員があんまりいないとこ中心になる予定だな」
二人が付き合っていることは今では周知の事実だが、全員が良い印象を持っているわけではないようだ。なるべく刺激しないようにするのだろう。
「槙野なら二日で屋台制覇しそうだな」
「二日保てばいいけどね」
俺から言い出したことだけど、槙野のその自信はどこからくるんだ……。
「あ、そういえば、二日目は後夜祭でキャンプファイヤーするみたいじゃない? 水本と倖楓ちゃんは残る?」
二日目の開催終了後に、校庭でそれなりの大きさのキャンプファイヤーが催されるらしい。それを囲んでフォークダンスやらをするのが昔からの決まりだそうだ。
卒業生の姉曰く、その周囲で座って話しているだけの生徒も結構多かったという。
「うん。せっかくだから残ってみようってゆーくんと話してたよ」
「へー」
槙野が俺の方をチラッと見てニヤニヤしている。気にしたら負けだ。
俺は無視してパエリアを口に運ぶ。……べつに逃げたわけじゃない。
食事を終えた俺たちは、明希と槙野を見送りに駅前までやって来た。
「じゃあ悠斗、遊佐さん、また明日」
「倖楓ちゃん、明日頑張ろうね。水本もまた明日」
手を振った二人が改札の奥へと人混みに消えていく。
「私たちはどうしよっか? どこか寄ってく?」
「さすがにこれからは遅くなりすぎるって。明日に響いたら困るだろ?」
「それもそうだね。じゃあ、帰ろっか」
倖楓が俺の手を取ると同時に、並んで歩き出した。
駅前の喧噪から遠ざかり、街灯が照らす夜道を二人で歩く。
こうしているのも今では当たり前になりつつある。それが不思議にも思わなくなり始めていた。
「文化祭、楽しみだね」
そう言ってこっちを見る倖楓の表情は優しい。
「だな。やっぱり高校の文化祭だと規模が違うし」
「それもあるけど、私、学校行事でこんなに楽しみなのは初めてなんだ」
「そんなに?」
「ゆーくんと一緒の文化祭は生まれて初めてだもん」
俺の手を握る倖楓の手に、ギュッと力が入った。
倖楓の中学でも、規模はどうあれ、俺と同じように文化祭はあっただろう。
でも、俺の文化祭の思い出に倖楓がいないように、倖楓の思い出にも俺はいない。
それを俺が寂しいと感じるのは、きっと卑怯だ――。
ふと、倖楓が足を止めた。
「ねぇ」
俺も足を止める。
それが、倖楓が止まったからなのか、その声が聞こえたからなのかはわからない。
「楽しみなのは、ゆーくんが“特別”だからだよ?」
倖楓はどこか哀しいような、寂しいような、心配そうな表情をしていた。
きっと、俺の思っていたことが顔に出てしまっていたのだろう。
「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
俺が謝ると、倖楓は空いている方の手も取り、向かい合って両手を握る形になった。
「明日と明後日で、今までの分以上を一緒に楽しもう? そしたら、卒業する頃には昔のことなんてどうでもいいくらい小さいことになってるよ」
いつだったか、倖楓に言われたことを思い出す。
――失くした時間は取り戻せばいい、これから時間はたくさんある。
それこそ、今日までの一日、一秒がそうだった。
だから――、
「一緒なら大丈夫、でしょう?」
また思っていることを言い当てられてしまった。
いや、倖楓も同じことを思ってくれているのだとわかる。
俺の顔が、自然と笑顔になった。
「じゃあ、まずは明日だな」
「うん」
倖楓も笑顔を見せてくれる。
そして、俺たちはまた歩き出す。
空に浮かぶ月が、倖楓に“特別”だと伝えたあの夜よりも綺麗なように見える。
――いよいよ明日、俺の――俺たちにとっての、大事な一日が始まる。




