桃から産まれた桃一族
本当はゲスい桃太郎。
そして案外ネット小説っぽい物語。
ゲスさを回避してコメディに。
そう改変してたら、なぜかこうなりました。
むかしむかしある所に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ柴刈りに。
あ、柴刈りは芝草を刈るのではなくて、薪拾いや藪こぎや枝打ちなど、山の手入れを示す言葉だそうな。
~~~ 中略 ~~~
川から引き揚げた桃を、お爺さんとお婆さんが食べたら、ふぁんたじぃな事態がおきました。
ふたりが謎の光を発して、それがおさまるとそこには、出産適齢期の若い男女が現れたのです。
そのふたりとは勿論お爺さんとお婆さんで、こいつらはお互いの状況を知るやいなや、若さと情熱を迸らせて子作りを始めてしまいました。
この展開は現代に改変される前の、原典と言うか古典と言うかのパターンだそうな。
余計な話としては、なぜ桃の実を食べたらそうなるの? の答え……になるのでしょうか?
桃は「長寿と繁栄を」ではなく、長寿と子孫繁栄の象徴とも言われていて、それを食べて不思議な力を得たならば、まぁそうなるな。
と理解できるでしょう。
結論。 とある宇宙人達は、桃よりの使者Xだったんだよ。
な……なんだってーー!?
~~~~~~
宇宙や怪奇現象的な冗談はさておき、お爺さんとお婆さんが若返ってから、早くも20年が経っています。
この間にお爺さんとお婆さんは子孫繁栄の力を遺憾無く発揮して、5人の子供をこさえました。
…………え、鬼はまだか? 焦りすぎですよ、落ち着いて下さい。
……若返ったのに、なぜまだお爺さんとお婆さん呼び? ここからは主にその子供達が主役です。 区別のためにお爺さんとお婆さん呼びを便宜的に継続します。
まず女の子が産まれました。
名前は桃花。 お爺さんによって桃花子と名付けられそうになったのを、お婆さんが素晴らしい阻止力で止めてくれました。
それ以降は全部男の子達。
お婆さんは男の子をそれほど大切にしていないのか、お爺さんが付けた名前を拒否しませんでした。
名をばそれぞれ、桃太郎・桃次郎・桃三郎・桃四郎となむいいける。
それはもう適当な名付けです。
桃四郎なぞ“とうしろう”と格好よく付けるのかと思いきや“ももしろう”です。 桃次郎ととても似た名前ですので、聞き間違えがよく起きてしまいます。
この子供達とお爺さんお婆さんは、楽しく年月を重ねていました。
お爺さんとお婆さん、特大ハッスル。
【特報】元老人が、ここまでヤれるほどに若返る【怪奇】
そもそも若返ってから二十年経っても、二十代に見える若々しさを維持しています。
なにこの化け物夫婦。
そしてこの産まれた子供達も化け物でした。
いわゆるチート転生者。
一人一人がチーレム無双をやれるほどの、化け物一族。
古いゲームで、四人の若者が二代目桃太郎を目指す双六ゲームなんて、目じゃない強さです。
しかし長女の桃花が良い仕事をして、個別に暴れないよう育つ前に〆ました。
弟四人を〆られる姉こそ最強か? と言ってはいけません。 それを耳にした途端、しばらく面倒臭い女の子になってしまうので。
弟たちはみんなしてベタな転生者らしい動きや発想・価値観を持っていたので、こいつら全員転生者だと。
母代わりと言っていいほど甲斐甲斐しく世話をしていた桃花には、一目瞭然でした。
〆た理由は、古典の桃太郎には鬼が悪さをする描写が無いと前世のどこかで見聞きしていたので。
鬼のいる地を襲撃しないよう止めたのです。
悪さをしていない者へ襲いかかったら、ただの押し込み強盗。 鬼よりも鬼の所業はよくありません。
それでは桃太郎一族として産まれた意義が喪われる……。
悲嘆に暮れる桃太郎達に、光をくれたのも、また桃花でした。
――――まだ転生者のお約束、知識チートや技術チートがあるじゃない。 桃太郎なんて室町時代とか、下手したらそれより古い時代が舞台なのよ?
これには太郎達もにっこりです。
子供達で得意分野を話し合ったら、
桃花は製紙技術・製本技術、それと画才や文才。
太郎は元農業従事者で農業知識。
次郎は元やり手の営業。 自らの商店を立ち上げる。
三郎は元天才料理人で、世界各国様々な料理知識を持った創作料理人。
四郎は元中小技術者。 知識幅は恐ろしいまでに広く、会社から便利に使われていた。
それぞれ秀でている部分に被るものがいませんでした。
と言うか、このテの転生者は前世の知識を不思議といつまでも忘れませんよね。
肉体は丸々替わったのに記憶をしっかり引き継いでいるのは、魂へ前世の記憶や知識が刻み込まれているからかも知れません。
それを利用して、各自有機的に連携を始めます。
太郎の知識で作られた、桃太郎の時代では飛び抜けた品質の野菜を使って三郎が料理。
レシピや野菜そのものを、四郎が作った時代錯誤な荷車等を使い次郎が商売。
次郎が各地で見つけてきた種苗は太郎へ、そして食材は三郎が料理。 四郎は全員をもの作り方面で補助。
困ったことがあれば「こんなことも有ろうかと」と言い放つ四郎の目はとても爛々として、それはまるで狂気の技術者だったそうな。
今世の弟達が仲良く協力して、汗を流す様子に長女で長子である桃花は優しく微笑んでいました。
微笑むだけでなく桃花は桃花で国の紙業界にて、次郎を通じて支配を狙う。 桃太郎の時代には無い紙の使い方で、世間の話題をさらいます。
それだけでなく、時代を先取りした絵草紙や御伽草子の使い方で、驚きを世に与えました。
それにまだ無電の簡易的なガリ版印刷しか出来ていませんが、その内活版印刷も始めたいし、極端な話として死ぬまでにオフセット印刷まで到達させたい野望を抱いています。
ガリ版・活版・オフセット印刷の解説は長くなりすぎますので、割愛です。 申し訳ありません。
ここではとりあえず昔から現代までに、普及した・していた印刷法とだけ覚えて下さればかまいません。
時代のニーズを見抜いた大胆な商業展開と常に時代の先を行く技術力で、まるで鬼みたいなチート行為により桃一族の商売は急速に拡大、地位を築き上げました。
太郎は少しずつ周囲へ農業知識を分け与え自然の神の分身とあがめられ、
次郎は革新的な商売手法で商いの神と同一視され、
三郎は数々の食材や料理知識で食の神に持ち上げられ、
四郎は余人では理解できない技術を定期的に公開し続けて鬼才を越え鬼神とまで呼ばれ、
桃花は四人を暖かく見守り育て導いた者として菩薩様と讃えられましたが、一人だけ別かよと不貞腐れました。
特に太郎に対して過剰と思われるかもしれませんが、この頃の農業は知識の無さも相まって、安定して作物が作れません。
それをある程度安定化させて、その上増産までしてしまう知識をくれた太郎なんて、本当の神様も同然なのです。
一方の、お爺さんとお婆さんはまだ情熱が冷めていません。
五人を産んでからしばらく子宝に恵まれていませんが、いつ恵まれるか時間の問題だと思うほど熱々です。
お話はこのまま、めでたしめでたしになる訳もなく、桃から産まれた一族へ反感を持つものが表れるのも当然の事なのでした。
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ある日、鬼……みたいに強面なオニいさん達を引き連れた、胡散臭い男が桃一族の家へやってきました。
どうやら桃太郎に出てくる鬼は彼らの様です。
彼は、
「お宅の桃次郎様がならず者達に襲われて、大怪我を負い商品も無くし大損したお金を臨時で補填する目的で、貸し付けたお金の取り立てに参りました」
と言ってきました。
どうやら金貸し屋みたいです。
しかも半端な金貸しでは無いようです。
安定しない作物生産により、地域一帯が不作時に一時しのぎとして借金。
法外とも言える金利で暴利を貪り、返しきれない債務者を量産して逆らえないように縛り付け、それで事業拡大してきた悪辣なヤリ手。
金貸しの言葉にはあからさまな嘘が混じっています。
次郎をならず者が襲ったのは本当ですが、簡単に撃退しましたし、商品も無くしていません。
だがその襲撃はこの訪問とほぼ同時なので、ここにいる者では次郎の状況など分かりません。
しかし次郎はチート能力者。 危機に陥るなんて想像できないので、ほぼバレバレです。
この策略こそ桃一族を良く思わない者達による、強い反発。
一人勝ちが許せない妬みたっぷりの人間が、膨らみに膨らませた負の感情をもて余した結果です。
それで何とかしてくれと、寄合がこの悪辣な金貸しへ頼み込んだのが、経緯でした。
頼みを請けたついでに、この難癖でお金を掠め取れれば尚よしと、とても意地汚い嫌がらせです。
当人は掠め取るどころか、そのまま強請って集って搾り取れるだけ搾り取りたいと思う、金の亡者ではありますが。
そして太郎発信の農作物安定生産技術が完全に普及してしまうと、金貸しのやり口が封じられてしまうので、それも防ぎたい思惑だってあります。
すわ一族の危機か。
とはなりませんでした。
「いくらだ」
「払って頂けるのですか?」
野良仕事を終えてやって来た桃太郎が、迫る男へ言葉を放ちました。
刀では無く、鍬を担いで現れた泥だらけの長男が。
ここで発言権を持っていると思えないながらも、お金をくれそうだと半笑いの表情なんてしつつ言葉の意味を見極めようとする男へ、詰め寄ります。
「お前ら金貸し屋そのものを店の者もまとめて買い取るのに、いくら欲しいんだ?」
桃太郎は姉弟の中で一番堅実に育ち、金庫番でもありました。
それが買収すると宣言したのです。
桃太郎が鬼(より怖い金貸し)の金を巻き上げる以外の行動となった事に、一同二度びっくり。
金貸し側は、前述と債権を含めると総資産がとんでもない規模になる金貸し屋より、金を持っていると言う自信に。
一族側は、金庫番が金を放出する宣言と、前述の実力で排除をしないことに。
その中でも姉の桃花は更に加えて、金貸しへ詰め寄った桃太郎の胆力に感動したのか、顔が上気していました。
…………こう書くと、桃一族はだいぶ脳筋です。 身体能力が有りすぎて、力で大抵の物事をどうにかしてきた弊害でしょうか?
それとこの後金貸し屋を買収できるだけの金子を、どっさり持ってきた桃太郎の身体能力に腰を抜かしながらも、喜んで傘下へ入りますとコメツキバッタの様に頭を振る男が見られたと言う。
それからは鬼(みたいな形相をした者)達も桃一族の傘下へ入り、圧倒的な知識や技術力や人材の豊富さを背景に躍進し続けます。
あの悪辣な金貸しも、金貸し屋より儲かる一族の下で適正金利の概念を知り、受ける恨みを最小限にしながら、より多く長く金を搾り取れる手法を模索しながら楽しくやっています。
時折搾り方がやり過ぎで問題のある仕組みだと一族から判断され、叱られて是正をさせられたりしていますが。
こうして日ノ本の国で表に裏に「桃一族ここに在り」とばかりに君臨し続け、影響を与え続けたそうな。
一連の騒動が収まってしばらく。
桃花は自室にて薄く薄く嗤った。
彼女は真の計画を、家族に隠していた。
彼女は一族で築いた販路を、伝手を密かに個人で使い、独自の人脈を着々と作っていた。
彼女が本当に得意としていた分野は、漫画。 自力で印刷・製本・出版まで出来ないかと、蓄えていた知識を披露しただけ。
彼女が計画している事柄には、印刷・製本技術が普及していないと困るから、披露しただけ。
彼女は目を血走らせ、薄気味の悪い顔をして微笑む。
己が欲望を満たせる筋道が、確立しかけているこの状況に。
「仲間を増やすだけじゃない。 武士の世では、衆道の考えが普及する。 前世よりも、勢力が大きくなる。 定着させて、廃れる流れを止められれば…………腐腐腐腐腐腐」
桃花は望み請い願う。 場所によっては日陰者とされかねない自身の趣味が、世で堂々と花開く瞬間を。