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回想終了。
そんなこんなで先の口論へと至る。
いやまあ確かに向こうの言い方に棘があったと言えばそうだけれども、なにも殺さなくても…
「いやマジなんでいきなり殺すんですか!?私トラウマになりそうなんですけど!?」
「え、大丈夫?あぁー…見苦しいものを見せたね、そこは申し訳ない」
「そう思ってるんならこの後どうすればいいのかわかりますよね?」
「うんうん、君の記憶をいじってトラウマを回避すればいいんだろう?ついでに僕にベタ惚れになるように上書きすれば完璧だね!」
「1ミリもあってない!!!」
すれ違いどころのレベルじゃねーぞこれ!
「そういう洗脳みたいな誤魔化しじゃなくて、私が求めているのはもっと根本的な解決なんですよ」
「根本的…例えば?」
「とりあえず今八つ裂きにあった人を生き返らせるとか」
「どう考えてもいらないでしょそれ」
「いやいやいやいや」
おかしいな、この神日本語が通じないぞ?
「いきなり僕たちがイチャイチャしてるところにアポなしで押しかけておいて、挙句君のことを馬鹿にしたアレがどう考えても悪い」
「イチャイチャはしてないと思いますが…まあ向こうも若干棘のある方というか、物言いに問題点はありましたけど、でも殺すほどではないと思いますよ?」
「君は優しいね、流石は僕が惚れただけの
「そういうのいらないんで。というか、こんなに頼んでるのにダメなんですか?」
「いくら君の頼みでも、出来ることと出来ないことがあるよ?流石の僕でも」
「えぇー…?」
世界を一瞬で滅ぼしたり元に戻したりできるのに、人ひとり生き返らせるのはできないってどう考えてもおかしくない?
「というかさっきからずっとアレの話ばっかりしてるけどさぁ、あまり僕の前で僕以外の男の話しないでくれる?妬いちゃうよ?」
「一方的に殺しておいてアレって…」
いくらなんでも言い方がひどすぎる。いやあの男も大概だったけどね?
「君のお願いは出来るだけ聞いてあげたいのは本心なんだけど、アレはちょっと無理。それにそもそもアレはほっといても大丈夫だよ、持ち場に帰っただけだから」
「…家?」
「そうそう、正確には家というより職場と言った方が近いかもしれないな。僕たちの感覚で言うなら持ち場とか、担当って言っても差し支えないよ」
「???」
なんの話をしてるんだこの男?
私が話についていけないでいるのを見て、彼は必要だと判断したのか説明を始めた。
「僕がこの世界を治める神様だって話は昨日したよね?」
「まぁ、一応は」
「この話には実はまだ続きがあって、現世を治める担当は僕。そしてもうひとつ、世界にはもうひとつ大きい区分があるんだけど…あの世って聞いたことあるかい?」
「人間が死んだ後に行くっていう、あの?」
「そうそうあの世、つまり冥界には冥界を治める担当の神がいるんだ。それがさっきの黒いアレ」
「えっ!?あの人神様なんですか!?」
マジで!?目の前の彼と違って神々しさの欠片もなかったのに!?(失礼)
「一応ね。まぁ担当が違うしアレは僕と違って引きこもりだから、滅多にこっちには出てこないんだけど、今日は珍しく顔を見せに来たね。まぁでも相変わらず口の減らない嫌なヤツだ。ごめんね、色々好き勝手言わせて」
「いやまあ別に気にしてるわけではないのでいいんですけど」
「さっき追い払っといたからしばらく顔を見ることはないとは思うけど、もし次に僕の目の前にノコノコやってくることがあったら、そうだなぁ…来た瞬間に首を刎ねておくから大丈夫だよ」
「別のトラウマまっしぐらなんですがそれは」
出てきた瞬間に生首が飛んでいくとか怖すぎるわ。
「あぁそうか、首を刎ねるなんて生温い真似してる暇があるなら全身ミンチにした方が早いな」
「それはもっと無理ですから!」
こいつどこまでトラウマ製造機なの?
「それで、どこまで話したっけ…あぁそうだ、担当の話だったね。それで僕とアレでそれぞれの世界を治めてるんだけど、その管理にはいくつかのルールがあってね。さっきアレを追い出したのは、そのルールのうちのひとつを使っただけだから問題はないよ」
「世界を管理するためのルール、ですか」
「大原則のうちのひとつ、『互いの神は、互いの担当にいる時に最大の能力を行使できる。もし片割れが自陣の担当を脅かす際は、その片割れの意思に関係なく元いた担当に追放できる』ってやつ。大原則は他にもいくつかあるんだけど、今回はこれが適応されたんだ」
「へー…」
なんだろう、さらっと話してるけどこれって実はすごく重要な内容のような…部外者の私が聞いてもいいんだろうか。
「その話すごく部外秘っぽいんですけど私が聞いても大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ、普通の人間には多分教えたら駄目だろうね」
「えっちょっ
「でも君は僕の婚約者、つまりゆくゆくは関係者ないし血縁者になるんだから知っていても問題ないよ」
「さらっとそうなる前提で話をしないでください」
何も知らない一般市民を巻き込むな。
「…もしかしてもしかすると、そうやってあれこれ企業秘密を植えつけておけば私を関係者扱いにできるから、時期を見てこうなったらもう一緒になるしかないよね!的に娶るために外堀を埋めようとしてません?」
「ありゃ、もうバレたのか。さすがは君だ、勘がいいね」
「とんでもねえヤツだなオイ!」
油断も隙もあったもんじゃない!
「でも君は口が固そうだし大丈夫でしょ?」
「まぁ…誰かに話すことはないとは思いますけど」
というより話し相手がいない。私は基本的にぼっちである。
「ちなみに、他の大原則はね
「もういいですもう言わなくていいですというかこれ以上なにも言わないで!」
これ以上外堀を埋められてたまるか。
「とりあえず、冥界を治めてる向こうの神様があなたに久々に会いに来たってことはわかりました」
「わかってくれたならいいよ」
「定期的に挨拶に来るんですか?」
「んー、仕事の関係で年に一度だけ会うんだけど、今年はまだ時期的に早いはずなんだけどなぁ。結局何の用だったんだろ」
「詳しい話を聞く前に八つ裂きになりましたからね、誰かさんのせいで」
とんだとばっちりである。
「本当かい?僕の愛しい弟をそんな目に遭わせるなんてひどい奴もいたものだねぇ」
「弟!?弟さんだったんですか!?」
「ちなみに双子だよ」
「全ッ然似てないですよ!?」
「自分でもそう思う」
一体なにがどうなればこんなに正反対な双子になるんだよ。
「というか弟を八つ裂きにしたんですか」
「大丈夫大丈夫、冥界に帰った時点でちゃんと身体は元に戻るから」
「どんなシステムなんですか」
「本当だよ?どうせアレのことだから今ごろ僕の愚痴でもぶつくさ言いながら、大好きな仕事でも片付けて…あ」
そこまで言いかけて、彼はふと何かに気づいたように顔を上げた。
「何でアレが現世まで来たのかわかったかも」