3-6
他の生徒に見つかってしまった。しかもシュウさんとは微妙にマイナスの方向で面識のあるというなんとも嫌な巡り合わせ。
控えめに言って最悪だ。
「アンタまだいたのかよ!?」
「えっと…ここでなにしてるんですか?」
「何その態度。君たちこそ何様?僕のことをそんな部外者か不審者みたいな目で見てきて」
「いやアンタは部外者で不審者だよ」
むしろアンタが未だに通報されていないのが奇跡だよどう考えても。
「あのーシュウさん、とりあえずお手柔らかにというかできるだけ穏便にというか…」
「穏便?こいつらに慈悲なんている?」
「…なんかコイツヤバくね?」
「警察呼んだ方がいいかなぁ…」
「あーっと嫌な予感しかしないなぁ!」
事態がどんどん悪い方へと転がっていく気配しかしないぞ!?控えめに言ってみんなピンチなのでは!?ほらなんかシュウさん手の位置がだんだん上がってきてるしこれ殺人指パッチンする気でしょ絶対!
とりあえずシュウさんを止めるために、私は彼とカップルの間に身体を滑り込ませた。
「なんのつもりかな?」
かろうじていつも通りの声のトーンを取り繕ったシュウさんが私に問いかける。顔は全く取り繕えてないけど。
「いやまあシュウさんとりあえず落ち着きましょうよ、どうどう」
「僕は馬じゃないんだけど」
「あぁはいはいそうですよね大丈夫ですもちろんわかってますよ?でもシュウさんは仮にも神様なんだからもうちょっとこう、寛大な心というものを見せてくれてもいいんじゃないかなーと思うんですけどいかがですかねいやほんと」
「…」
いやなんでそこで黙るんだよ。怖いわ。
私とシュウさんが押し問答をしていると、カップルの彼氏が怪訝そうに口を開いた。
「昼も思ってたけどアンタなんなんだ?」
「何が?」
「わけわかんねーことブツブツ言ってるし…」
その言葉に私がカップルの彼氏の方を振り返り、彼氏が私越しにシュウさんを見上げるーそれがいけなかった。
「何するんだよお前」
シュウさんの声のトーンが最低値まで下がったことに気づいた私が慌ててシュウさんの方へ向き直ると、彼が般若の如き形相に変わっていた。
「は?」
「いやシュウさん彼はなにもしてないと思いますよ?」
あなたと会話してただけだし。
「何言ってるの?てか何してくれてんの?人の婚約者に向かって」
「因縁のつけ方が完全にチンピラになってますよシュウさん」
というかこっちこそ聞きたいんだけどなんで急にこの神キレてんの?あと婚約者じゃないって何回言わせんの?
「コイツいきなりなんなんだよ
「ラビもなんでこんなのを見たの?駄目じゃないか」
「えっ私?」
シュウさんの怒りの矛先がいきなりこちらに向いたことに気づき、私はひどく困惑した。
「おい無視すんな
「とりあえず君は僕の後ろに。万が一巻き込んだら危ないから」
「いやいやいやなにする気ですかシュウさん嫌な予感しかしないんですが」
「別に?」
「説明がないのが危機感しかないですね!?いやダメですシュウさんがちゃんと説明してくれるまで動いてはいけないと私の勘が叫んでるんで!あと私の前で殺人はやめてくださいねこの間の弟さんの件は未だにトラウマなんで!」
「大丈夫殺しはしないから。死ぬ直前ギリギリまで痛めつけてから全身の神経という神経に無限に蛆が湧き続ける呪いをかけるだけだから」
「ひっ!?」
なんという物騒な呪いを考えつくんだよこの神は!うっかり脳内で想像してしまったでしょうが!
「呪いの程度が凄まじく陰惨ですよね!?それどう考えても即死なのでは!?」
「だから死にはしないって、その程度の慈悲は与えるし僕はちゃんと約束は守るよ?まあ死にたくなるほど苦しむだろうけど」
「慈悲の方向性が著しく間違ってる!」
まずそれは慈悲ではなくて拷問だしアンタは慈悲という言葉をなんだと思ってるんだ!?
「そもそもシュウさんはなんでそんなに怒ってるんですか?というかなんでいきなり怒りだしたんですか?」
ダメだ、ここは一度時間を稼いだ方がよさそうだな。一応理由も知りたいし。
すると私の質問を受けて、シュウさんが私の顔を見て眉をひそめた。
「…わからないの?」
「残念ながら…」
「君は頭がいい子だけど、他人の気持ちに少し疎いところがあるよね。まあおいおいわかるようになってくれればいいんだけど」
「ぐぬぬ…」
…なんだろうすごく腹立つな。少なくともアンタにだけは言われたくない。
しかし今は喧嘩している場合ではないとわかっているので、やり場のない怒りは無理矢理飲み込んだ。わぁ私って大人!
「あー…すみませんね頭の出来が悪いもので。なのでそんな私に是非理由を教えてもらえるとありがたいですお願いします」
「…まあラビの頼みなら仕方ない、か」
うっわー腹立つわー何様だよアンタは神様だよってうるせえな。
そんな私の脳内で行われたひとりツッコミには当然気づくはずもなく、シュウさんはじろりとカップルの彼氏を睨んでから口を開いた。
「コレと視線が合っただろう」