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とはいえ本来の参加者の中に全く知り合いがいない私やシュウさんが勝手に参加するわけにはいかないので、あくまで参加者の生徒たちをこっそり物陰から見物する方向でいくことにした。というよりもそうしないと私は参加しませんからね?と事前にシュウさんに何度も念押しして承諾させた。そうでもしないと何をやらかすかわからないからなぁ…
適当に見学してシュウさんの気が済んだら裏口あたりから帰ればいいだろう。たぶん。
「いいですか、くれぐれも他の生徒たちに気づかれないようにしてくださいね」
「さっき何回も聞いたから大丈夫だよ」
「シュウさん見た目からして目立つんですからね?この学校の中の話だけじゃなくて、街中にいても目立つ見た目なんですからほんと気をつけてくださいよ?」
「わかってるって、心配しなくてもラビに恥をかかせるような真似はしないよ」
そう言ってにこにこしながらこちらを振り返るシュウさん。心配だからこんなに念押ししてるんだよ?わかってる?
このやり取りどこかで見たような気がするけどあれだ、登校前に忘れ物してないか子供に確認する母親だな。
「私はシュウさんの母親になった覚えはないんですけどね…」
「何か言った?」
「いえなにも」
「心配しなくても、ラビは立派な僕のフィアンセだよ」
「聞こえてんじゃねーか」
そしてまだフィアンセではない。今のところ。
それにしてもシュウさんの風貌はほんと目立つな。顔がいいとかそういう条件は抜きにしても、髪も肌も色素が薄いから余計に人の目を引くし…虹色の瞳とか初めて見たわ。さすがは神様といったところか。髪は最初に見た時は一瞬総白髪かと思ったんだけどそんなパサついた感じじゃないし、かろうじて銀色…と言えばいいのか?こういうのなんていうんだっけ?シルバーブロンド?
そんなこんなで全体的に白っぽい見た目だから、夜の校内という暗闇の中にいるとまるで本物の幽霊のようだ、と本人に言ったら怒るだろうか。人間ではない、という点においてはどちらも一緒だけれども。
人間ではない、か…
「どうしたの?」
前を歩いていたシュウさんがいつのまにか私の前で立ち止まっていた。
「え?」
「何か考えごとしてるみたいだから」
「あー…」
なんて説明したものかな。
「神様が肝試ししてるのってなんか不思議だなーと思ってて」
「そう?」
「だって神様も幽霊も、どっちも人間ではない存在じゃないですか」
「…」
その言葉に目をぱちくりさせるシュウさん。
「人間ではない存在…」
あれ、なんか私変なこと言ったかな。
「…シュウさん?」
「そんなことはないんじゃないかなぁ」
「へ?」
「さっきのラビの言葉だけど、神はともかく幽霊も人間だろう?」
「ええ?」
いやそんなことはないのでは?
「そう…ですか?だって幽霊は死んでますよ?」
「死んだ後の人間ってだけで人間であることに変わりはないと思うよ。寿命の範囲の中にいるか外にいるか、肉体の有無という違いはあるにしても。そんなものは些細な問題だし」
「いやそりゃあ神様から見ればそうなんでしょうけど」
「まぁ神々は輪廻転生のシステムがどんなものか知ってるからそう思うのかもね。でもこの世に残存する幽霊だって昔は多かれ少なかれ生きていた時期があったはずだし、死後にたまたま弟に回収され損ねただけだろう?ならやっぱり人間じゃないか」
「幽霊も、人間…」
なんだろう、物事を見る物差しのレベルが違うな…生きてようが死んでようが、シュウさんにはたいして関係ないってことか?不覚にも少しだけ感心してしまった。
まぁたしかに幽霊と神様だったら、幽霊の方が人間には近いだろうけど。
「ま、だから仮にこの後幽霊が出たとしても別に怖がる必要はないってことだよ」
「シュウさんが幽霊にびびってるところとか全く想像つかないんですけど」
キャラ違いも甚だしいな。
「でももしラビが怖かったら、いつでも僕に抱きついていいからね!」
「いらないですねー」
「えっ?だってカップルは肝試しの時に抱きついたりするんだろう?昼にそう話していた人間がいたじゃないか」
「今日熱心に肝試しに誘ってきた理由はそれか!」
他人に全然興味を示さないアンタがあんなに食いつくなんておかしいと思ってたんだよ!
「ところで今日の肝試しはどういう趣向なんだろう?」
「趣向?」
「さっきから他の子の動きをなんとなく見てるけど、わりと学校内を隅々まで歩き回るみたいだから」
「あー、そっちですか」
シュウさんも見てないようでよく見てるよな。
「たぶんですけど、七不思議を巡るルートになってるんだと思いますよ」
「七不思議?バビロンの空中庭園とか?」
「そんな壮大なやつじゃないですね」
学校に空中庭園とかあったら今頃この学校は観光名所になっているだろう。間違っても夜中に忍び込んで肝試しとかやっている場合ではない。
「そんな世界規模のやつじゃなくて、学校の怪談でお馴染みの方…って言えばわかりますか?」
「んー…ちょっとわからないな。この国ならではのものかい?」
「そうかもしれませんね」
「なるほどね。時間をかければデータを引っ張れるかもしれないけど、どのくらいかかるか微妙なところだから、悪いけど君の口から説明してもらえるかい?」
「まぁそういうことでしたら…」
たしかにその方が早いよな。