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3-3

「さてあの子たちもいなくなりましたしそろそろ帰りましょうか」

「ねえねえ」

「もう夕方とか時間が過ぎるのは早いですねー」

「聞いてる?」

「ではシュウさんまた明日」

「こんなに期待たっぷりな表情してるのになんで無視するの聞いてってば」

めんどくせえ。

絶対ロクなこと考えてない顔だよこれ。

「もーしょうがないなぁ…で、なんですか?」

「聞いて聞いて聞いて!さっきの子たちが話してたの聞いて思ったんだけど、今夜ここで肝試しするんでしょ!?」

「らしいですね」

「僕たちも参加しようよ!」

「…は?」

「僕と一緒に参加しようよ、ラビ!」

「嫌です」

即答した。

「えっなんで?」

「むしろこっちが聞きたいですよ。なんで参加しようと思ったんですか?」

「楽しそうだから」

「嫌ですよめんどくさいし。だいたいあの子たち知り合いでもなんでもないんで。勝手に参加したら怒られますよ」

「前から思ってたんだけど、ラビって友達いないの?」

「いなくて悪かったですね」

どうせいねーよ。万年ぼっちだよ。

「君は高嶺の花だから一人がいいってことか」

「馬鹿にしてるんですか?」

「あぁごめんよ馬鹿にしたつもりは微塵もないんだよちょっと気になっただけです機嫌直してくださいお願いします」

「悪意なしに地雷踏んでくるのやめてもらっていいですかね?」

悪意ある人よりも傷つくわ。

「ま、まあまあでもそのおかげで僕はいつも君の時間を独り占めできるわけだ!」

「ぼっちなおかげで毎日面倒な神様に絡まれるわけですねわかります」

「言葉の棘がきついなぁ」

「もう帰ってもいいですか?」

「まってまって!肝試し行こうよ!」

「どこをどう聞いたらこの流れで行けると思ったんですか、行きませんよ」

本当に知り合いいないんで、と言いつつ誰の席かわからない椅子から立ち上がる。その動きにつられ、前の席に後ろ向きに座っていたシュウさんも渋々立ち上がった。

「えぇー…わかったじゃあいいよ、しょうがない」

「変なこと言いだすからどうしようかと思いましたよ」

「残念だなぁ…」

本気で残念そうにため息をつくシュウさん。

「せっかくだから参加ついでに盛り上げてあげようと思ったのに。そうだ、ラビが来ないなら僕だけで参加しようかな。演出係として」

「盛り上げられるんですか?」

「もちろん」

シュウさんが任せとけ、と言わんばかりに胸を叩いた。

「こんな狭い学校なんてケチなことは言わないよ?正真正銘、妖怪物の怪なんでもござれの異界にご案内さ!きっと盛り上がるよ?」

「…それ現世(こっち)に帰って来れるんですか?」

大丈夫なのか色々と。

「もちろん!ちゃんと出入り口は管理しておくから大丈夫だよ。まあ…」

悪戯っぽい、子供みたいに純粋な笑顔でウインクしながらシュウさんは続けた。

「ゴールするまでに魑魅魍魎(あいつら)に食われなければ、の話だけどね?」


「いやぁ君も来てくれて本当に嬉しいよ!なんだかんだ言ってラビも来たかったんでしょ?君って意外にアレだ、ツンデレってやつだったりする?」

「シュウさんの演出(暴走)を止める人間が必要そうだったので不本意ながら来ましたよまったく」

結局夜の学校に集合する羽目になったぜちくしょう。

だって私が来ないととんでもないことになる予感しかしなかったですし。肝試ししていただけで生徒が集団で行方不明とか、いわくありげに見える学校が本物の事故物件になってしまう。まさかシュウさんの演出とやらがあそこまでガチだとは思わなかった。神様って怖い。

「じゃあさっそくだけど異界との出入り口を

「いやそれほんとやめてください事故の気配しかしないんで」

「あれ?必要ない?」

「いらないですね」

「そう?」

「どう考えても普通の人間が帰って来れる気配がしないんですけど」

「そんなことないよ?ちゃんと帰ってこれるって。運が良ければ」

「…確率でいうと生存率はどのくらいなんですか?」

「ギリギリ二桁には届くんじゃないかなぁ」

「アウトー!!!」

半分にも届いてないじゃねーか!

「心配しなくてもラビのことは僕が守るよ」

「私ひとりだけ助かっても意味ないでしょ!?いやそんなことしなくてもあの子たちが色々と準備してたみたいだから大丈夫ですって!」

「ええー?本当に?」

「本当です!」

「そっかあ、残念。盛り上げついでに久々に人間の口減らしもしようかと思ってたんだけど」

「いやいやいや?なんで?」

マジでなんで?

魑魅魍魎(あいつら)が適当に魂を消費してくれれば、(アレ)が管理するサイクルの魂の数も少し減って仕事が楽になるからね。ただでさえ仕事が追いついてないみたいだし、たまには手伝ってやろうかと思ったんだけど」

「それってひょっとしてシュウさんなりの気遣いなんですか?」

「そうだけど?」

「…シュウさんって気遣いの方向が斜め上とか言われません?」

「えっ、なんで知ってるの?ラビってひょっとしてエスパー?」

「今の話を聞けば百人中千人が同じ考えになると思いますよ!?」

お前は二度と気を遣うな!

「あーなんで私は開始前からこんなに疲れてるんだろう…」

「えっ大丈夫?熱とかあるんじゃ

「あーもう寄るな!来るな!触ろうとするな!」

「ひどい!僕は心配してるのに!ラビが僕のことをいじめてくる!」

「くだらないことを言ってたら置いていきますからね!」

「あー!待ってよ!」

早足でズンズンと校舎へ向かう私を、慌てて走って追いかけるシュウさん。

その先にある夜の帳の降りた古びた校舎は、気持ち悪いほどに肝試しの舞台としてはうってつけなそのいわくつきの建物は、それ自体がひとつの異界のように、ただぽっかりと玄関を開けて佇んでいた。

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