第2フェイズ 〜事件〜
和樹が真っ先に感じたのはむせかえるような草の香りだった。
次に感じたのは風に揺れる木々の音。
そしてさっきまで夕方だったはずなのに閉じた視界からでもわかるほど周りは眩しかった。
「なんだ……」
和樹がそっと目を開くと、周りはいつもの住宅街ではなく森の中だった。
「は?なにが起きて……」
和樹は頭を抱えたり腰に手をやったりしながら周りを見回すが、何度見回しても森林が広がるばかりだった。
「ど……どうなってんだこれ……」
和樹が途方にくれていると、草の中からそれを除く目があった。
その時、草むらがごそごそと音を立て始めた。
「うへぁっ!?だ……誰?」
和樹は思わず人かと思い声をかけてしまったが、クマとかだったらどうしようと後から考え始めてしまった。
「ぷはぁ!」
「うわぁあああ!食べないでくれぇええ!」
その時、和樹はクマかと思い目を閉じ叫んだが、出てきたのは水色の大きなつばをした帽子にマント、杖を携えた人間だった。
「……どうしました?モンスターに錯乱魔法でもかけられちゃいましたか?」
マントから伸びる華奢な手が帽子の大きなつばを上げると、金色の癖っ毛にくりっとした翠の瞳の少女の顔が出てきた。
「ふぁ!……あぁ……人かぁあああぁ……」
少女の声に目を開くと声の通り可愛らしい少女だったので和樹は安堵の声を出した。
「それにしても……日本語上手ですね」
和樹はとりあえず人に会えたことに安堵しつつ、見た目が外人のようだったので、彼女の日本語を褒めてみることにした。
「ん?……ニホンゴ?」
すると少女はキョトンとした顔をした。
「ニホンゴとは何ですか?」
「え?」
「え?」
少女と和樹は二人仲良く首を傾げた。
その時、足跡が少女の後方から聞こえた。
「あ、今度こそ日本人かな?おーい!」
和樹は足跡のする方へ叫びながら両手を降った。
「んー……まずいかもです」
「え?何が?」
「よぉよぉやっと見つけたぜぇ」
少女が口元に指を当てそう言うと、和樹はまた首を傾げた。
すると草むらから野太い男の声がした。
「お嬢ちゃんに野郎かぁ……男はさっさと殺して女はたぁっぷり楽しんでから売りさばいてやっからなぁ!」
草むらから出てきた男は、無精髭を生やしボロ布をまとって、腰に曲刀を差していた。
それを引き抜くとニタニタ笑いながら2人に向かって歩いてきた。
「……おいおいこの現代に強盗!?ましてや刃物だと?映画かな……」
和樹はそんなことを呟いた。
「へあぁああっ!」
すると強盗の男は和樹に向かって曲刀を振り上げてきた。
「え!?うわっ!!」
和樹は慌てて後ろに転んだ。
転んだがかわしきれず、着ていた服の胸元がパックリ空いている事に気付いた和樹は血の気が引いた。
「ほ……本物!?」
「トドメだぁあああぁ!」
強盗が和樹に向かって曲刀を再度振りかぶった。
和樹は反射的に両手で防御しようとした。
「炎の王よ、我が契約によりその力を顕現せん!ファイエ!」
その時、少女が何かを呟くとそちらの方を驚愕の眼差しで強盗が見る。
少女が叫ぶと強盗の体から突然炎が湧き出した。
強盗の体は一瞬で和樹の眼前から消失した。
「……は?」
和樹は何が起きたのか分からなかった。
「大丈夫ですかー?」
「あ、ハイ……」
少女は和樹の前まで歩いてきた。
和樹は魂がぬけたようなへんじをした。
「ともかく服がパックリですねー……街まで行って服買わないと」
和樹はスウェット一枚しか上着を着ていなかった為、腹部の開いたそれは使い物にならなくなっていた。
少女に言われて和樹は再び疑問が湧いた。
「あの……ここって何処なんでしょう?」
「んー?ここは森ですけど……」
「あぁ。そうじゃなくて……」
「あ!」
和樹がここが何処かどう聞いたらいいのか悩んでいると、少女がポンと手のひらに拳を乗せた。
「そう言うお話本で読みましたー!記憶喪失ってやつですねぇ!」
少女は目をキラキラさせて和樹を見つめた。
「そ!そうなんです!いやー思い出せないなー!あははは……」
和樹はとりあえず話を合わせる事にした。
「じゃあ私の研究所へ行きましょー!ついでに服や必要そうなものも私が手配しますからー!」
「街まで行けば警察が何とかしてくれるか……」
「ん?ケーサツ?」
和樹があごに手を当てて少女の提案について考えていると、少女が首を傾げた。
「あぁ何でもないです!それよりよろしくお願いします!……えぇと……」
和樹は少女の提案を飲む事にして頭を下げたが、そこで彼女の名前を知らない事に気付いた。
「あー……私の名前はウィステルって言いますー!貴方は?」
「あぁ。俺の名前は和樹って言います!」
「よろしくですー!カズキ君!さぁ、街はこっちですよー!」
「やっと帰れる……」
和樹とウィステルは街へ向かって歩き出した。
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