第1フェイズ 〜日常〜
薄暗い湿った石造りの空間に、金属が激しくぶつかり合う音が響く。
「ギェッ!」
粗末な出来のレザーメイルで身を固めたリザードマンが、刃のかけた剣を振り下ろす。
それを鎖帷子で身を守った男が野太刀で受け流していた。
度重なる攻撃を耐え忍ぶ男。
「ギェッ……ギェッ」
するとリザードマンは体力を切らしたのか太刀筋に力が入らず、その速度も目に見えて落ち込んだ。
「はっ!!」
その隙をついて男はリザードマンの胸部に向かって野太刀の突きを放った。
「ギェアアアァ!!」
野太刀の切っ先はリザードマンの胸部を貫通し、リザードマンはしばらくもがいたが、すぐに動かなくなった。
「……ふぅ」
薄暗い部屋は衣類が散らかってはいたが、ゴミなどはなく、テレビ画面の明かりだけが眩しく光っていた。
画面の向こうに浮かぶ討伐完了の文字に軽く息を吐く男。
しかしどこか満足気ではない男の表情がそこにはあった。
男の髪は黒のベリーショート。
顔つきは普通だが、死んだ魚のような目は父親譲りで「ガンくれてんじゃねえ」とよく誤解される。
「……レアアイテム取れなかったな」
男はゲームの電源を切り万年床の布団に寝転んだ。
「和樹!ちょっと降りてきて!」
「はーい……」
男こと和樹は母親に呼ばれるまま自分の部屋を出た。
「和樹!父さん仕事中に倒れちゃってね……あ、そこの服とって!」
一階に降りると、リビングのソファーには父親のものと思われる服が何枚も背もたれにかけられていた。
和樹は母親に言われるまま足元にあった衣類を母親に投げる。
「ほいっ」
「ありがと!だから今日の夕食一人でなんか適当に買ってきて!ほら千円!」
母親は和樹の投げた服を受け取ると、少し皺の寄った顔で微笑み、机の上にある千円札を指差した。
「じゃ!行ってくるわ!あんまりゲームばっかりしすぎないでねー!」
「わかってるよ……」
母親は黒のミドルヘアーを手櫛で整えたあと、和樹に向かって手を振り、ドアの向こう側へ行った。
「あ!あと女の子連れ込んじゃダメだからね!」
「いねーよ!」
「あはは!じゃあねー!」
閉まろうとするドアから少しだけ顔を出した母親の発言に顔を赤らめながら答える和樹。
そして今度こそドアは閉じられた。
「はあ……とんでもない母親だよ……さて、ゲームの続きしますか」
和樹は誰もいないへやで一人笑うと、踵を返して自分の部屋に向かった。
「腹減ったー……」
和樹は自分の部屋の万年床に大の字で寝転がっていた。
「そういや母さんいないのか」
万年床から起き上がると和樹は自室から出て行き、階段を降りた。
朝のまま父親の衣類で散らかってはいたが、掃除の行き届いたリビングは、夕日に照らされ薄暗かった。
「さっさとコンビニ寄って帰るか」
和樹はリビングから出て行き、玄関のドアを開いた。
次の瞬間、和樹の視界は光に包まれた。
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