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異世界1日目 4月1日(月) ⑧スライムは体に優しい無添加素材

 

「ねえ、本当にそれ食べるの?」


 真新しいキッチンでスライムを洗っている所、ルーミィが少し嫌そうな顔をして問いかけてきた。


「ええ、食べてみようかと。クレイドさんも食用出来るとおっしゃってましたし」


「でも……ちょっと」


 食べ物を馬鹿にしてはいけない。このスライムはモンスターでは無く精霊だ。しかも骨や内臓の類も無いようなので調理はし易そうである。多分この感触なら固くもなさそうだし。


「偏見はよくありませんよ? 精霊とはどちらかと言えば果物や木の実の部類でしょう。リンゴや栗などと一緒です」


「うぅぅ、そうなの?」


 いや、確証は無いですけどね。


 まずスライムを二つに切ってと。お、やっぱりすっと包丁が入るな。しかもゼリー状から崩れない。中は水なのかも知れないと思ったけどこれなら確かに食べられそうだ。薄くスライスして備品の皿に盛りつけてと。


「とりあえず調味料が一切無いのでスライスしただけですが。まずはいただいてみましょう」


 手を合わせて、一切れ摘まんで口に入れる……味が一切無い。食感はゼリーであり、まさに無味無臭である。


「う~ん。確かに食べられますが、食べられるだけですね。味が無いです」


「そうなんだ。私もいただくね」


 ルーミィも一切れ口に入れたが小難しい顔をして咀嚼している。


「う……ん。食感はあるんだけど」


 素直にこのまま食べても非常食にもならない。まあ、水分補給にはなるかもしれないが。


「ちょっと焼いてみましょう」


 フライパンにスライムを二切れ程乗せ、火にかける。


 フライパンの上で香ばしい焼き色が……付かない。ドロドロに溶けてしまった。


「焼けませんね。溶けちゃいました」


 火からおろし、一応味見してみたが同じく無味無臭であった。


「しかし少々とろみのある液体になりましたね」


 スライムは焼けない。が熱すると液体になり、若干のとろみが出る事が分かった。しかも時間を置いて冷えても元には戻らず液体のままであった。


「これは面白い習性ですね。ひと手間加えればいい素材になり――」


「お・な・か・す・い・た」


 ……ほんっとにこの子は。でもそろそろ日も傾いてきたし確かに買い物は早く済ませた方がよさそうだ。


「では神力を使ってお金を出して食糧や備品を購入しましょう」


「やったあ! 早く! 早く!」


 ……この子を再研修に出させた上司さんの決断は正しいと思う。


 神ブックを持ち、先ほどイリアさんに見せてもらった硬貨をイメージする。



 ――具現化させるお金は……10万円、じゃなくて10万Gにしよう。1万G硬貨10枚だ。出て来い!



 心で念じると白い光が床から発光し、光が消えた後には床に1万G硬貨が10枚落ちていた。


 すっげー神力! イメージして出ろっ! て念じたら本当に出たよ!! 確かにチートだ、完全にこれチートだ! 


 ……はしゃいでいる場合じゃない。デメリットを確認しなければ。頼む! 詰みませんように!!


 神ブックには神ポイントの残高紹介機能や消費神力照会機能もついているらしい。これはポイントを消費しないらしいのが幸いだ。


 神ブックを開き念じる。



 ――先程の使用した神ポイントは?



 使用神ポイント 1000ポイント



 真っ白いページに文字が白い光とともに浮き出て来た……凄いなこの本! これは便利だ!


 それにしても、結構消費するな……。1ポイント単価100Gか。何はともあれお金を具現化させる為のポイントはこれで判明した。これは早くお金を稼ぐ方法考えないと確実に詰む。


「さあ! ごはん買いに行こう~!」


 あの、今ので元の世界に帰るのが遠のいたんですけど? 分かってます? ねえ女神様?





「おっ来たねお二人さん! お金は工面出来たかい?」


 再びやって来ました雑貨店。セクシー店長イリアさんのお出迎えだ。


「ええ、なんとか。この通りです」


 先ほど神力で出した硬貨を1枚見せる。


「そうかい。でもどうやって用意したんだい?」


「クレイドさんの方に顔を出しまして。ちょっと物々交換してもらって」


 嘘も方便である。神様の力使って出しました! てへ! とは言えない。


「なんだ、クレイドとも顔見知りかい。まあ、遠慮無く見ていってくれ。大概の物は置いてあるからさ」


 う~ん。改めて店内を見ると驚きのラインナップだ。まずは調理の基本の調味料だな。これを一式揃えてと。本当は醤油とか味噌とかも欲しいんだけど流石にそこまでは無いみたいだな。おっ! これは! もしかして使えるかも! 


 日用品も揃えてと。後は持ち運びのバッグも必要だな。んっ? ルーミィは服のコーナーに行っているのか。やっぱ女の子だな。そうか! 大切な事を忘れていた。それに……。


「イリアさん、申し訳無いのですが……」



 ルーミィは店内を1周回り、今はある場所でビタ止まり中である。


「じゃあこれだけお願します」


 買う物をイリアさんに渡した所でルーミィが涙目でこちらに訴えてくる……そんな目で見ないで! おっさん女の子に弱いの。イヤらしい意味じゃなくて女性と縁が一切無かったの知ってるでしょ女神様!


「……好きなの選んで下さって構いませんよ」


 ルーミィが立ち止まっていた場所は、コンビニのレジ横には必ずある、ホットコーナーだ。異世界の雑貨店はどこもこうなのだろうか……。


「やったあ! じゃあ、これとあれと。あっ、それも!」


 いや、別にいいんですけどね……その量、一人で食べるんですか? 


「優しい所あるねえ、カズヤ」


 あら、もうお名前覚えていただけたんですね。光栄の極みであります、お姉さま。でもちょっとその服装とボディは私には刺激が強すぎます。


 はっ! またルーミィがこちらを見ている。『胸ばかり見てるんじゃないの!』と言わんばかりの目で。でもこれを見るなと言うのは人の視野的にも無理な話では無いでしょうか。


「さ、さあ行きましょうか? イリアさん、ありがとうございました」


「おう、また来てくれよな! カズヤ! ルーミィ!」


 なんだろう、名前で呼ばれると少し恥ずかしいのだが親近感が湧く。ルーミィもご機嫌だ。と言うよりも今は念願の食べ物を手に入れた事の方が勝っているようですが。


 ――そのから揚げ棒くれ……ませんよね。




「はあぁ! 美味しかったぁ!」


 ご満足して戴いて何よりです。から揚げ棒にハンバーガー、じゃがバターみたいなものまで食べたんですから。俺には一口もくれずに……酷い。


 そんな園に戻る帰り道だが日はすっかり落ちてしまい、今は先ほど購入したランタンを照らしている。


「おや、またスライムですね。」


 道の端に居るスライムが目に映る。なんだろう。心なしか色が違うような。


 ランタンをかかげ観察すると薄い桃色をしている。


「スライムにも種類があるんですね。ひょっとしたら味に変化があるかもしれません」


「くしゅん」


 可愛らしいくしゃみが聞こえ、振り返ると寒そうに両腕を抱えるルーミィの姿があった。


「そうそう、ルーミィさん。これを」


 紙袋から取り出したのは雑貨屋でルーミィが見とれていた白いケープだ。神界で着ていた法衣になんとなく似ている上、じっと眺めていたのが気になっていたのでイリアさんに頼んで用意してもらったのだ。


「夜や朝は冷えますからね。宜しければ」


「わあ……これ。買っててくれたんだ」


 早速羽織ってくれた。うん、やっぱり似合う。さすが女神様である。


「ありがとう、和也! すごく暖かい」


 ケープに頬ずりして笑顔をくれた。なんだろう、すごく心が安らぐ笑顔である。 


「い、いえ。風邪引かないようにして下さいね。さ、早く園にもどりましょう」


「うん!」


 めちゃめちゃ可愛いじゃないか……でも異世界初日、まさかのマイナス1000ポイント。俺、ちゃんと帰れるだろうか……。


 あと、ルーミィではないが、お腹すいた……。


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