異世界100日目 7月9日(火) ②100日目の誓い
「そんな事があったのかい、それにしてもなんて子供だ……」
イリアさんが呆然とした表情を浮かべながら話しかけてくる。だがこちらも同じである。夕食の材料を持って来てくれたのはありがたいのだが、もうぱっと見、裸エプロンみたいになっている。
この人、その恰好で村からここまで来たのか……。
「回復魔法なのか? 神でも扱えないと聞いてるぞ?」
「そ、そうなんですか? てっきりメジャーなものかと思ってました」
RPGとかだとバンバン使ってるイメージがあるんだけど、現実は違うのか……いやここ異世界だけど。
「そうだよ、イリアさんの言う通り、使える人は限られてる伝説級の魔法だよ」
「くっ……このままずっと晩メシを作り続けて『あ~ん』とかして食べさせたりして、二人の距離がどんどん縮まって『気付けばそこは愛の巣に』作戦が台無しになってしまった……」
心の声だっだ漏れですけど? 愛の巣って……ここは保育園ですから。
「何ですかその良く分からない作戦は!? それに私は何処に行ったんですか! ちゃんと居ますからね!」
あ、代わりに突っ込んでくれましたか。うん、100点満点の突っ込みです。でも『あ~ん』はちょっと魅力があるかも。
「でも……カズヤの苦しむ顔を見なくて済むようになったから、あたしは嬉しいよ!」
――ドキッとした。心から心配してくれて、そして喜んでくれている……嬉しい。
「イリアさん、本当にありがとうございます」
建前でも無い、礼儀でも無い……自然とこぼれ出た言葉だ。
「な、なんだい、改まって。て、照れるじゃないか!」
「でもイリアさん、和也、園児の胸触ったんですよ!」
……なんでそんな事言っちゃうかな? 今、良い場面だったじゃないですか。
「なっ!! カズヤ! 子供はダメだろ、犯罪だぞ!?」
何故こうなる……。
やっとお説教から解放されて部屋に戻ってこれた……。最近、説教をされる率が跳ね上がっているような気がする。
とりあえず気を取り直して神ポイントのチェックをしておこう。
――神ポイント――
・前日までに神ポイント 2838ポイント
・園児の成長 500ポイント
・神力使用 -10ポイント
・現在の神ポイント 3328ポイント
サラの頑張りがポイントになってるじゃないか! 魔法の成功が成長とみなされたんだな。これで100日目にしてほぼ3分の1を達成したことになる。
「……確かめておくか」
神ブックを開き念じる……。
――神界、上司さんに繋がれ。
この行為で神ポイントは消費されない。神ブックの便利機能の一つである通信だ。
「いつもお世話になっております、こちら神界の上司でございます。なにかご用でございましょうか?」
よし、繋がった、相変わらずの営業トークだな……名前も上司になってるし。
「今日、神ポイントが三分の一まで貯まったのですが、試練についてちょっとお伺いしたくて」
「なんと! もうそこまで貯まったのですね。素晴らしい進捗具合じゃないですか」
なんだろう、元の世界での仕事を思い出すぞ、このやりとりは。
「ありがとうございます。早速ですが宜しいでしょうか? 神ポイントが貯まり、試練を達成した場合、どうやって願いを叶えるのでしょうか?」
「はい、試練、つまり10000神ポイントを貯めますと願いが叶えられる状態になります。使用方法は神力と同じ要領で、神ポイント使用の旨と願いを合わせ、念じればいつでも叶えられます」
なるほど、条件クリアさせしていればいつでも叶えられるのか。
「もちろん、期限ぎりぎりまで温存しておく事も可能ですよ。寿さんの思いが固まるその日まで」
ほんっとに策士だな、上司さんは。
「さすがですね、私の悩みなんてお見通しですか」
「いえいえ、恐縮です」
この世界、俺に足らなかった事がいろいろ学べる。今の神ポイント収集率はスタートダッシュが効いており、かなり良いペースである。
しかし良かった、いきなり消える事はなさそうだ。イリアさんとの約束もあるし、とりあえずは一安心だ。
「ありがとございます。これで今後も憂い無く保育園運営に力が注げます」
「それは良かったです。あ、すみません! 今からCEOとの会議がありまして。もし他にご相談があれば、また後日にお願いさせていただいて宜しいでしょうか?」
chief executive officer……って最高責任者とか居るんだ……なんだろう、神界もサラリーマン社会が確立してるんですね。
「は、はい。私が聞きたかったのはそれだけですので」
さすがにCEOとの打ち合わせを邪魔する訳にはいかない。上司さんの立場が危うくなってしまう。出世の道を閉ざしてしまって天罰とか笑えない。
「すみません、それでは失礼致します」
空を眺めようと思い、窓を開けると心地良い夜風が部屋に吹き込んできた。その先には月明かりに照らされ、青々とした桜の大樹が伺える。
「今日は満月か……少し散歩でもしてみるか」
ルーミィを起こさないように静かにドア開き、足を大樹の方へと向かわせた。
「ここから始まったんだよなぁ……」
大樹に手を当て丘からの景色を眺めると手前に保育園、奥には村が映る。
「望んで無い異世界に飛ばされて、ルーミィの再研修を任されて、保育園を運営して、いろんな人に巡り会えて」
大樹から手を離し、ゆっくりと草原を歩む。
「一日でも早く元の世界に帰りたい。そう思って頑張ってきた」
草陰で立ち止まり、更に言葉を続ける。
「スライムに出会って料理を作って、何度も死にそうな目にあって。その度に早く帰りたいって気持ちになったものです」
口調を変え、草陰に向かって大きな独り言をつぶやく。
「でも今は正直どうしたらいいのか、私にも分からないです。ですが、少なくとも神ポイントが貯まっても、期間中はこの世界に居ます。再研修中の女神様を放って置く訳にはいかないですから。ね、ルーミィさん?」
「……さんは、いらないってば……」
草陰から桜色の光が消え、月明かりを受けたルーミィの姿が徐々に現れてきた。目が潤んでいるのが分かる。
「盗み聞きは良くないですよ?」
「だって、何も言わずに外に出て行くから……不安になって……」
俺はイリアさんみたいに、気配を察知出来るような特殊スキルは持っていない。
もちろん最初から気付いていた訳では無く、景色を眺めている時に、保育園の明かりが付いていなかったことで違和感を感じ、たまたま草陰に桜色が見えたので口調を戻したのだ。
この季節に桜スライムは居ない。
「大切にしてくれてますね、その髪留め。本当に綺麗な桜色をしていますよ」
ルーミィはお風呂上りなどにも使用している事が多く、園の仕事以外でも髪留めは多用してくれている。
でもその髪留めは光るので、夜に付けてると簡単にバレてしまいますから。
「これからも宜しくお願いしますね、ルーミィさん!」
「もう! だから!」
今、結論を出すことは出来ないが、明日からも全力で保育園の運営を頑張ろう……月明かりの下で唸り声をあげ、膨れている女神様を見てそう心に誓った。
今話にて区切りとなります! 多数のブクマをしていただき、お礼申し上げます。今後も変わらずに再研修女神様は突き進んで行きます! ご期待下さいませ!
また、本作をお気に召していただければで構いませんので、ブクマ、評価、感想、レビューなどもお待ちしております! お気軽にどうぞ!




