異世界1日目 4月1日(月) ⑦セクシーな店長
「お腹が空いたよお~。ねえ~ってば。」
クレイドさんの所で全然喋らなかったのはお腹が空いていたからか……この腹ぺこ美少女め。
とりあえず保育園の認可は下りたので第一ステップはクリアだ。次はルーミィの言う通り、食糧や生活用品を購入しなければならない。その為にはまず、この世界の通貨を知る必要がある。
「とりあえず、どこかお店は……雑貨店?」
メインストリートに面した一等地であろう場所にそんな看板を掲げた店を発見した。店先を覗くと雑貨の他に食糧、衣服なども揃っており、店内もかなり広い。
「ルーミィさん、この店にしましょう」
「食べ物~!」
だから、お金持ってませんから。下調べと言っているでしょうに……。
このお店、現実世界で例えるとコンビニだな。だが置いてある物の種類はそれ以上であり、非常に品揃えが豊富だ。
店内は綺麗に商品が陳列され、値札も見やすい位置に添えられている。買い物もしやすそうであり、経営技術の高さが伺える。
「通貨はG……ゴールドと呼べばいいのかな?」
商品相場は元の世界と大差が無いようである。あ、良い大根だ。100Gって安いですね。
「いらっしゃい。おや? 見ない顔ぶれだね?」
この店の人であろう。健康的な肌の色が特徴で背が高く、綺麗な栗色のボブヘアーと茶色の瞳を持つボーイッシュな顔立ちの女性だ。ルーミィが美少女ならば彼女は間違いなく美女と言い切れる。いや、超を付けねば失礼に当たるだろう。
そしてなにより第一印象がその端麗な顔つきではなく、肌の色になってしまったのは着ている服のせいだ。まだ肌寒さを感じる気候だが彼女はやたらと露出の多い服を着ている。
あと、いやこれは最大のポイントであろう……。
お胸が凄い。
素晴らしいスタイルの持ち主である。あ、ルーミィがジト目でこちらを見ている……。
「わ、私は桜の大樹がある丘に引っ越してきました寿和也と申します。そして隣はルーミィと申します。以後お見知りおきいただければと」
頭を下げて自己紹介する。ルーミィも慌てて俺を真似て頭を下げた。
よく考えればルーミィって神様なのに頭を下げさせて良いのだろうか。まあ、再研修中だから良しとしよう。
「こりゃあ、親切にどうも。コトブキカズヤって、なんか言いにくいな。あたしはこの雑貨店の店長のイリアだ。とは言っても一人でやってる店だけどな、宜しくな!」
「あっ、寿は名字で名前は和也です」
実はクレイドさんとも似たようなやり取りかあった。なるほど、この世界ではファミリーネームはいらない感じなのか。
「名字と言うのが分からないがとりあえず名前はカズヤだな?」
それにしてもこの広い店を一人でとは。異世界のブラック企業を発見いたしました。
「はは……それはそうとお一人でこのお店をまかなってるとは、かなり大変そうですね?」
「いや? 結構余裕あるぞ? まあ、のんびりやってるのさ」
別に負荷を感じていない口ぶりだ。きっとスーパーウーマンなのだろう。異世界だし。
「実は私たち遠くの場所から来た者でこの辺りの通貨を知らなくて。買い物もしたいので通貨がどんなものか教えて頂けませんか?」
「ああ、そう言う事かい。いいよ教えてやるよ。いいかい通貨はGで……」
イリアさんは親切に実際のお金を見せて説明してくれた。やはり超美人は器が違う。完全に偏見ではあるが。
この世界の通貨はG、呼び名はゴールドで合っていた。日本円と同じ仕組みであるが基本、硬貨のようだ。10000Gまでが硬貨でそれ以上は紙幣に変わるらしい。
「なるほど。親切にありがとうございました。すぐにお金を工面して戻ってきますので」
「あいよ、これから宜しくな!」
よし、これで神力でお金を出すことが可能となった。一度園に戻って試してみよう。
「ねえねえ、なんで神力使ってお金出さなかったの? お買い物してないよお。食べ物~」
いや、いきなりあの場所でお金出したら怪しさMAXでしょ? 俺、多分秘密組織かなんかに誘拐されてしまうじゃないですか。
「まだ神力を使った事が無い上に、流石に人前で使うのはまずいですよ」
「う~、お腹すいたんだってばあ~」
この女神様め、さっきから口を開けばお腹すいたしか言わないな……そんなにお腹がすいているのか? それはそれで可哀そうかもしれない。俺もお腹すいてきたし、おっ!? あれは!
保育園への帰り道に例のスライムを発見した。モンスターでは無く、精霊と呼ばれ、食べる事も出来るって村長のクレイドさんが言っていたな……。
「よっ」
スライムを手に取ると弾力があって少しひんやりとした感触だ。ほとんど動かないし。
「スライム捕まえて何してるの?」
「いやあ、持って帰ろうかと思いまして」
「何するの? 遊ぶの?」
とりあえず俺はこれを使った遊び方を今は思い付く事は出来ない。ってなぜこの切羽詰った状況下で遊びを優先せねばならないのだ?
女神様は今の置かれている状況はちゃんと理解しているのだろうか?
落ち着け、俺。こんな美少女を前に悪態なんぞ付けるはずも無い。それに再研修中だが神様なのだ。あとで天罰とかは食らいたくない。
一呼吸置いた後、美少女様に答えてあげた。
「いえ、調理してみようかと」