異世界1日目 4月1日(月) ⑥女性に年の話をしてはいけない
「ねえねえ、お腹すいたよ~」
だまらっしゃい! この美少女め! 心が読まれない以上、思う事は自由だ。素晴らしい、心の内がバレないのは。
とはいえ、この保育園にあるのは設備だけで、食糧などは一切無い事は先ほどのキッチンの見学で分かっており、食糧確保は確かに優先する課題だ。
「この保育園の近くに村がありましたので、そこに行って情報や食糧を調達しましょう。ただ、言語が通じるかも分かりませんし、何よりお金を持っていません」
「じゃあ、神力使ってお金出そう! そしてご飯を食べよう!」
神力を使ってお金を工面するのは止むを得ないと思っている。ただ、この世界の通貨が分からないのだ。
今の状態で神力使おうにも日本円のイメージしか沸かないのでダメだ。一度この世界のお金を見る必要がある。
それになにより、この保育園には当然園児も居ないがそれ以前に俺とルーミィさん……いや、もう心の中は見透かされないから呼び捨てでいいか。
俺とルーミィの存在を村に知ってもらう事が必要だろう。つまり村に受け入れてもらう事が出来なければ保育園の運営なんて出来よう筈もない。
ってかルーミィって呼んじゃったよ! なんかちょっと恥ずかしいな。
「なるほど~! その通りだね! 和也って結構考えるタイプなんだ」
若干馬鹿にしてませんかね? 年上を。うん? 年上なのか? 女神様だから見た目と違って年を食っていてもおかしくはない。
「ひとつ宜しいですか? ルーミィさんのお歳はおいくつでしょうか? 女神様であれば――」
「私は永遠の17歳です。なにか?」
喰い気味に放り込んできた。
目が笑っていない。この話題には今後触れないでおこう。ルーミィは17歳の美少女、それ以上でもそれ以下でも無い。うん。
謝罪の後、園を出たのだがちょっと怖かったのは内緒にしておこう……。
村へ行く道中、スライムは見かけたものの、それ以外のモンスターには出会わず無事、村へと辿り着き、幸運な事に危惧していた問題は簡単に解消された。
看板を見るとちゃんと日本語で表記されており、村の方達の会話はしっかり日本語であった。
「この村はフォレスト村と言うらしいですね」
広場には村の全体マップを掲示しているスポットもあって、でかでかと村の名前が表示されていた。おかげで村長さん宅にまで辿り着く事が出来そうだ。
言語の類は辛うじてねじ曲がっていなかったようで幸いだ。他は散々であるが。
「へえ~驚きだ! 異世界からの来客ってのも。ま、広い世の中だそんな事もあるかもな」
気さくに喋ってくれてこちらも安心する。この村の村長、クレイドさんは歳は俺と同じか少し若いぐらいに見える。
男前であり、なにより人情を感じさせる独特の雰囲気とカリスマ性を感じる。
ただ、村長と言えばおじいさんとかが出てくると先入観を持っていたので、彼が村長と名乗った時にはこっちも驚いた。
「急な訪問で驚かせてすみません。後、この世界についてお伺いしたい事があるのですが……」
クレイドさんの話によるとやはりこの世界は剣と魔法の世界のようだ。
ただ、この辺り一帯にはモンスターは存在しないらしい。本人も含め、村の人からも一度も見たと言う情報は無いとおっしゃっていた。
道中でスライムを見たと話したところ、あれは精霊と呼ばれる存在であり、食用も可能だそうだ。ただあまり一般的では無いそうだか。
「ありがとうございます。私たちは桜の大樹がある丘に住んでおり、今後はこの村に行き来したいのですが宜しいでしょうか?」
「おう! 全然構わねえよ! ってかあの丘に建物なんて無かったぞ?」
「じ、実は建物だけは異世界のものを持ってくる事が出来まして……」
嘘では無い。まあ、用意してくれたのは上司さんだが。
「へえ、凄いな! 異世界の技術は!」
あ、それで済んじゃうんですね。疑ったりはしないんですね、別にこっちもやましい事は無いんですが。
「あと、今すぐと言う訳では無いのですが今後、保育園と呼ばれる仕事を開業しようと思ってまして……」
やはりこの世界には保育園というシステム自体が無いようであり、保育園の仕組みをクレイドさんも真剣に聞いてくれた。
「あんたらそんな事を考えてたのか。いいぜ! 気に入った! 好きなだけあの丘でその保育園ってやつをやってくれ。いや、むしろこっちからお願いしたいくらいだ!」
無事、保育園開業の認可をいただいた、ありがとうクレイドさん! マジで助かります!