異世界84日目 6月23日(日) ①ゾンビ集団現る!
夜はすっかりと明け、朝日ではあるが汗ばむ日差しを感じる。そんな中、酔い潰れて寝てしまったルーミィをまた背負って園へと戻ってきた。
帰り際に何故かイリアさんも園に来ると駄々をこねられたが、家が目と鼻の先でわざわざ園に来る必要も無い為、ご辞退頂いた。
尚、半ば捨て台詞のように低い声で『ルーミィにサービスし過ぎだ。分かってるな?』と告げられた。その時はただただ、震えた……。
今度はイリアさんを背負えばいいのだろうか? いや、ムリだ。あの胸が背中に付くことなど想像出来ない。それにしても疲れた……。一刻も早くベッドにダイブしたい。だが、そんな事をしたら恐らく安らかな眠りについて起き上がることなど出来無いだろう。
残念ではあるが、眠ることは許されない。これから地獄へ行かなければならないのだから……。
少しドキドキしながらルーミィの部屋に入りベッドに寝かせた後、眠気を覚ますのとおっさん臭を消す為にシャワーを浴びた。
「ふう……とりあえずさっぱりはしたな……さて、行くか」
サマーフェスで朝まで騒いでいた悪い大人にはもちろん罰があり、その内容はお掃除である。
尚、これに参加しないと次回から出店禁止処分を食らうらしい。それは避けなければならない。来年も園児達と参加したいのだ。悪い大人のせいでイベントが出来ないとなれば、園児達に申し訳無さ過ぎる。
リビングにルーミィに宛てた書き置きを残し、園を出る。太陽は先程より高く昇り、日差しはかなり強くなっている様子だ。
「さあ、出陣だ……」
気の入って無い号令を自分にかけ、とぼとぼと村へ歩いて行った。
イベント広場に到着すると未だかつてない混沌とした空気に包まれていた。皆、生気を失った目でゴミ拾いやブースの片付けを行っている。その光景はゾンビの群れといっても過言では無い。
「よお! カズヤ! お前朝まで居たんだってな? きっついだろう!?」
やめて……大きな声出すの。ほら、クレイドの近くに居た人倒れたじゃん。大丈夫? あ、なんとか立ち上がった。まさにゾンビ……。
「これこそサマーフェスの風物詩『炎天地獄片付絵図』だ!」
降り注ぐ太陽光がそんなクレイドの語り中もゴリゴリ体力を奪い去っていく……しかも何その国宝とかにありそうな地獄タイトル。いらない、今はそんなのいらないから。
「そうそう、カズヤ。これをお前に渡しておこうと思ってな」
クレイドが投げ渡してきた小袋を受け取ると硬貨の音が鳴った、しかも複数の接触音が。
「今年はカズヤのイベントのおかげで村の収益が1.5倍になった上にベストイベント賞にも選ばれたからな。それは村からのお礼ってやつだ」
この袋、結構重いぞ? ってか明らかにかかった経費の数倍、いや10倍ぐらいのお金が入ってるんですけど。しかもベストイベント賞なんてあったのね……。
「クレイド、このお金は受け取る訳には……保育園の行事の一環でしたし」
「まあそう言うなって! イベントは夏だけじゃないからな、今度も頼むぜ!」
ああ、手を振って行ってしまった……。
「ゾンビの皆! ちゃんと水分補給はしろよ~! ぶっ倒れられても困るからよ~!」
やっぱゾンビって呼ぶんだ。それよりもさっきクレイドが一人ぶっ倒してたの見ましたけど? しかし水分補給所もあるみたいだしアフターもしっかりしている。さすが実行委員会会長だ。
このお金どうしよう……まあ、折角のご厚意だし、きっと返しても受け取らないだろう、素直に貰っておこう。それじゃあ、俺も水分補給してゴミ拾いと行きますか。
「よう、カズヤ! 体調はどうだ?」
超ショートパンツにおへそ全開、更にタイトなTシャツのせいでお胸が非常に苦しそうな感じになっている過激なファッションリーダー、イリアさんである。
「正直全く寝ていませんからふらふらです。イリアさんはお元気そうで」
そうです。俺もその辺りでうろついているゾンビさんと何ら変わりないのです。
「ああ、一晩程度の徹夜でへこたれる程やわじゃないからな」
頼もしい限りです。多分アレクとかも同じ部類なんだろうな……体の作りが根本から違うようだ。
「うん? 今日はルーミィは居ないのか。さては一人であたしに会いに来たのか!?」
イリアさん、昨日の一件から態度変わりましたね? かなり積極性が増しているように伺えますが?
「ルーミィは園で寝ていますよ。お掃除に来ないと来年のさくら保育園のイベントが出来無くなってしまいますから、代表として私が片付けに来たんです」
「なんか呼び方も流暢になったものだな。あたしと大分と差が付いているんじゃないか? 不公平だな、そういうのは」
ふ、不公平? い、いや逆らってはいけない。
「わ、分りました。では、ゴミ拾いが終わったら一緒にお茶でもいかがでしょうか?」
あと一段階機嫌を損ねようものならきっと殺気が放たれる。俺には分かる。そして今の状態で殺気なんぞ当てられようものなら間違いなく死ぬ。いや、被害が俺だけ済むならまだいい。だが今、この広場には無数のゾンビが居るのだ。彼らを巻き込む訳にはいかない!
「まあ、それで手を打ってやるか。じゃあ早く終わらせてきな! 時間がもったいない!」
いや、あの。水分補給してからじゃダメですかね? あ、なんかもう戻れない雰囲気出てますね、頑張ります……。
こうなったら一刻も早く作業を終わらせて休憩しよう。しかし、この炎天下……なんか、ぼ~っとしてきたぞ。思ったよりも体力の消耗が激しい。寝不足と二日酔いの体には堪える。あ、精神的疲労もあったな……。
「ゾンビ諸君、ご苦労様! しっかり水分補給して帰るように! そして寝ろよ!」
ああ、やっと終わった……頭が痛い。脱水症状になりかけてるのかも知れない。早く水分補給しないと……。
「よ~し、終わったな! じゃあ行くぞ!」
腕を捕まれ、なんとか辿り着いた水分補給所から遠ざけられてしまった。
「あ、あのちょっと休憩させていただけませんか? せめてお水を――」
次の瞬間、急激な脱力感が体を襲った。足から力が抜け、視界が狭くなりイリアさんに引かれる腕を預けたまま地面に倒れ込んでしまった。
「おい! カズヤどうし……カズ……」
呼ばれてる……でも体の感覚も聴覚も失われていく……。
視界が狭まる……。




