異世界75日目 6月14日(金) 牧場の秘密
雨が降った日は園内で遊んだり一緒に竹の加工を行い、晴れの日は外で遊ぶ。
そんな日常を過ごし、雨の頻度も落ちていき、雨季の明ける兆しが出てきた。クレイドからもサマーフェスは1週間後に正式決定したとの連絡も受けている。
「みて、おまめさん上手につかめるようになったよ~!」
「……ソフィも……角度と力加減……摩擦係数の把握は完璧」
園児たちには雨が続いている時に竹を加工して箸を作ってあげたのだ。使い方も教えて今では器用に小豆を掴める程となった訳だが……。
「うぐぐ……掴めないよお……」
悪戦苦闘中のルーミィは園児からアドバイスを貰いながら修業中である。まあ、そのあれだ。頑張って下さい。
やはりそうめんを食べるのにフォークではいささか風情に欠けると思い、竹も余っていたので椀と箸を大量生産した。竹の器に竹の箸。う~ん、夏ですなあ。
園内に吹き込む風も夏独特の爽快なものになっている。まだ6月も中旬だが夏はすぐそこまで来ているようだ。
「ルーミィせんせ~、もっと力をぬいたほうがいいよ~」
「……角度を後五度寝かせる……お箸の接地面積を限界まで使う」
額に汗を浮かべ、お豆さんと格闘している。それとソフィ、非常に的確なアドバイスではあると思うんだけど、精密過ぎやしませんかね? 俺でも分からないよ?
「や、やったよ!」
高々と掴んだお豆さんを天に掲げ、やりきった表情で悦に浸っている。園児達からも歓声が上がり拍手喝采だ。
ルーミィ、立場逆。先生が本気で褒められてどうするの?
この大量生産した箸はイベントで使ってもらい、その際に園児達とルーミィに使い方をレクチャーして貰う予定にしている。上手く箸を使わないと食べれないと言うゲーム性も追加しておいた。
さて、今日は当日イベンターになる3人の為に先に流しそうめんを楽しんで貰おうと思っている。特権と言うやつだ。
運動場に出て本番と比べて少々小ぶりにはなるが、竹を組み合わせたコースを作り、園の備え付けのホースから水を流し、特製のスライムつゆを竹の器に注ぎ、準備完了である!
「じゃあ流すよ~。上手にそうめんを掴んでね~」
竹の内側を緩やかに流れていくそうめんがとても風流である。
「……水の流れる速さ……水圧……タイミング……そこ」
「わ~い! とれたあ~!」
「むうう……。ああ……。くうう……。あれ……」
約一名全く掴めていない。あ、アメリアが取ってくれてる。
おそらく本番はルーミィみたいな人も多いだろうから、そういった方用に一番後ろにはザルが設置してある。掴み損ねたそうめんはそこに貯まる仕組みにしてある、なので箸が使えなくても食べれないことは無い。ゲームとはいえ、やっぱり食べて貰わないとね。
「ちゅるちゅるしておいし~」
「……初めて食べる味」
「う~ん! 暑い日に食べると最高! 何杯でも食べれそう!」
皆ご満悦のようだ。よ~し、じゃんじゃん流すぞ! ってルーミィは下流のザルに移動してるし。説明はしていなかったが本能で悟ったか、一番食べれる場所を……。
昼食を兼ねた試運転も無事成功したし、後は本番を待つのみだ。午後からは園児とルーミィに案内を教えよう。これはお店屋さんごっこの延長だし、遊びながら覚えてくれるだろう。
園児の保育が終わった後、キッチンに移動し、ルーミィと一緒にスライムクッキーとスライム水まんじゅうを作っている。
ここの所、アレクにはお世話になりっぱなしであり、サマーフェス前日の竹の移動も協力してくれる約束になっている。
流石にお礼の一つも必要だと考え、ルーミィの腕前を活かして牧場を題材にしたクッキーをプレゼントすることにしたのだ。
保存をする魔法なるものがあるらしいので、牧場の看板として使えると思うし、アレク本人が魔法を使えないにしてもアテは必ずある筈だ。なにせ勇者様だし。
もちろん食べて貰えるように通常の物も作る。水まんじゅうはご年配にも喜ばれるお菓子なので合わせてお渡しする予定だ。
「出来たよ~!」
どれどれ。うん、よく大規模な建物を建築する際に模型を作ったりするが、それと同等なものを見事にクッキーで再現している。牧場の建物に、躍動感溢れる動物達、牧場の方々の人柄が滲み出ている人物像。
これを見るだけで牧場に足を運びたくなる。大変素晴らしゅうございます。
しかし、俺はこれを壊さずに牧場まで持って行けるだろうか……。プレッシャーが凄いんですけど。当のルーミィは『壊れたらまた作るよ?』などと軽く言っていたが。
「……これ伝説級と呼んでも差し支えない出来栄えですね」
「こんな精巧なクッキー初めて見たわい……」
「私もですよ、おじいさん」
アレクは羊を小屋に戻す作業を文字通り光の速さで終わらせ、こちらに瞬間移動して現れた。急に現れるとマジでびっくりするんですけど。クッキー割れたらどうするんですか?
「カズヤ、ルーミィちゃん、いらっしゃい。っとこれは何だい? 伝説級のアイテムかい?」
伝説級の大安売りだ。しかしそこまで絶賛される価値のあるものだと思う。でも牧場の方々にそこまで言われると、何かこのクッキーに特殊な能力があるように見えてきた……。
「このクッキーは食べるにしては惜し過ぎますねえ。保存してもいい? ルーミィちゃん?」
「はい! 構わないですよ。食べて頂く分は別に用意してますので!」
笑顔ではきはき受け答えしていますが生地を作ったのは俺なんですが。それよりもおばあさん、魔法使えるんですね。まあ、何かあるとは思っていましたが……。
おばあさんが呪文を詠唱するとクッキーの下に魔方陣が現れ、光がほとばしる。聞くと永久に時間を止める魔法と不壊の魔法をかけたのだとか。そんな便利な魔法があるんですね……。
そういえばカリムさんもこの前、アメリアの作ったパンを保存してたな……そんな簡単に誰でも出来ちゃう魔法なのかな?
「さすが聖級賢者ですね、王級の私にはそこまでの魔法は使えませんよ。せいぜい数十年時を止めるのが精一杯ですから」
新発見、勇者様の他に大賢者様が2名いらっしゃいましたよ。しかも枕詞が世界の頂点に立つ位だ。一応、女神様では無かったんですね。
あとこの様子じゃおじいさんも元勇者に違いない。ここは勇者牧場だ。
「いつ見てもばあさんの魔法は鮮やかじゃのう」
「何を言ってるんですか、暗黒世界の支配者なんて呼ばれてる魔法の使い手のくせに」
本当に仲の良い理想の老夫婦だ。そうそう、一つ訂正しておかないと……。
ここに魔王が居るぞ!! まあ、冷静に考えたら勇者が居るなら魔王も居るか……って、アレク早く討伐を! いや、でも一緒に仲良く牧場してるし……。
なんなの? この牧場は勇者夫婦と魔王夫婦で仲良く経営しているのか!? 斜め上にも程がある! そんなコラボ聞いたことが無いぞ!
「カズヤ、ルーミィちゃん、本当に良いものをありがとうございます。牧場の入口に飾らせてもらいますね!」
「んあ……あ、い、いえ。いつもお世話になってますし、ほんの気持ちです。あとスライム水まんじゅうも持って来てますので召し上がって下さい。ね、ルーミィさん」
「あ、う、うん。どうぞ遠慮無く!」
ルーミィも驚いて俺と同じく反応が鈍くなっているようだ。それにしてもこの村は一体どうなってるんだ?
まさか武器屋食堂のおばちゃんが聖女やってました! そしておっちゃんはバトルマスターしてた! とかじゃないだろうな……今度聞いてみよう……。




