異世界51日目 5月21日(火) ②日本食解禁!
園の用事を済ませ小雨の降る中、俺とルーミィは再び村へ向かっている。
村を園児達と散策している途中にイリアさんに出会い、発注しいていた商品が揃ったとの連絡を受けていたのだ。しかし日暮れも迫っているのと、雨のせいで少々肌寒く感じる。
「今日は少し寒いねえ」
イリアさんは両腕をさすりながら俺達を迎えてくれた。そりゃあそんな肌面積じゃあ寒かろう……。
「頼まれていた品だ。前に依頼してた調味料もあるから確認してみてくれるか?」
実は先ほどクレイドさんからのサマーフェスのイベント参加を引き受けたのは、この連絡があった所が大きい。まあ、それが無くてもあの期待は裏切れ無かったが。
「こ、これは素晴らしい! ありがとうございます!」
醤油に味噌にかつお節、昆布。これさえあれば、これさえあれば! 味噌汁が作れるじゃないか! お浸しなんかも作っちゃおうっかな? 待ってろ日本食!!
「あ、ああ……よ、良かったな」
「よ、良かったね、和也……」
なぜ二人とも半歩下がるのでしょうか? 何か変な顔してました?
しかもお値段もそれほど高くない。イリアさん曰く、定期的な購入が予想されるものに高値は付け無いんだとか。一時儲けてもそんなのは客離れに繋がるだけとの事らしい。
成程、この戦略が村全体がごひいきにしている理由か。納得である。
「そういえばイリアさんもサマーフェスに参加されるんですか?」
「ああ、あたしの店も参加するぜ。多分店をやってる所は大体参加するんじゃないか?」
確かに近隣の村からもお客さんが来ると言ってたし、掻き入れ時と言うやつだろう。しかし今回は園児の教育の一環として参加するのでお金は取らずにボランティアの予定だ。
そうこうしている内に店内が混んできた。夕飯のお買い物タイムだな。
お店の邪魔をする訳にはいかないので挨拶を残して帰宅することにした。尚、この間ずっとルーミィが俺を監視していた。ほんとに怖いんですけど……。
園に戻ると足早にキッチンに向かい、ひよこ柄では無い調理用のエプロンを付け、買った調味料を並べ腕を組む。サマーフェスのイベントで用意するのはそうめんだ。少々寒いが今日はそうめんの試作といこうか。
もちろん、スライム配合のオリジナルそうめんを! 神ブックでレシピを作りながら調理するとしよう。
――スライムそうめん――
材料
昆布、みりん、醤油、砂糖、塩、水、小麦
粉、スライム
調理方法
①鍋に水とみりん、醤油、砂糖を溶き、スラ
イムを加えて火にかける。
②一煮立ちすれば昆布を入れ、弱火で更に煮
込む。
③煮込み終わったら火から下ろし、冷まして
おく。
④小麦粉に水、塩を加え混ぜ合わせる。
⑤十分混ざったら延ばして細切りにし、茹で
あげる。
⑥茹であがった麺は冷水で冷やし、鍋の昆布
を取り出したらそうめんとつゆの完成。
うーん、流石にうどんの太さとまではいかないものの、少々麺が太いな。限界はあるだろうが少しでも細くするよう努力せねば。
あと、つゆがスライムと共に煮込んだのでとろみが付いている。実際のつゆとは少し違うがあんかけ感覚でよく麺に絡みそうだ。
しかし今日の気温はそうめんを食べるのには適していないな……よしもう一品仕込んでおくか。
「なにこの茶色い汁! 飲むの?」
待て。つゆを一気に飲もうものなら確実に吹き出しちゃうから!
「ちょっとお待ち下さい! それは飲むものではありません!」
すんでの所でルーミィを止めることが出来た。質問と行動を一緒にしないで下さい……。
「これは『つゆ』と言って直接飲むのでは無く、麺をくぐらせるものなのです」
この世界には箸文化も無い為、とりあえず今日はフォークで代用だ。なんかパスタみたいだな……。
「う~ん! ちゅるっちゅる! それにこのつゆって言うお汁凄く風味高くて味わい深いよ!」
流石である。伊達に食いしん坊では無いな。しっかりとポイントを押さえていらっしゃる。
さて、俺もいただこう。――うん、いい味だ。そして懐かしい出汁の味だ……。そして思ったよりつゆが麺に絡む。これはこれで有りだな。あんかけつゆだ。日本でも売れるんじゃないかな?
ルーミィは初めての味に感動して立て続けに食べていたがしばらくしてペースが落ちてきた。原因は分かってる。
「今日は少々寒いですからね。この料理は本来夏用の料理なんですよ。今日は試作として作っただけなので残りの麺は今からアレンジしてきますね。少々お待ち下さい」
キッチンに戻りあらかじめ仕込んであった鍋に残りのそうめんを入れ、一煮立ちさせ、椀に移した。今日は肌寒いので暖かい料理をちゃんと用意しておいたのだ。
「お待ちどうさま、さあ、召し上がって下さい」
ルーミィの前に先ほどの椀を置く。用意したのはにゅう麺だ。日本の調味料が手に入ったので日本食のレパートリーが解禁になったのだ。俺もこの味噌汁が楽しみで仕方が無い。
ルーミィがにゅう麺の味噌汁を一口含み『ほうっ』と一息吐き、安堵感に包まれた表情を覗かせる。
「なんだろう……すごく安心する味……。体も心も温まるね」
「私の世界ではどの家庭でも作られているものです。郷土料理みたいなものです」
そう言って味噌汁を口に含む。
我ながらいい出来だ。昆布やカツオの出汁が活きている。――なんだ? この感じは。この急に心が締め付けられるような感覚は……。
そういえば元の世界はどうなっているのだろうか。友達はいないが、知り合いは居る。家族もだ。弟よ、結婚式に出席出来ず申し訳無い……会社はどうなっているんだろう……味噌汁を飲んだせいかも知れない。元の世界の事で頭がいっぱいになる。
うん、ルーミィがこちらを見てる? 驚いたような顔をしているが……俺の顔に何か付いているのかな? ははっ。
って! 本当に付いてるじゃん! 無意識に泣いてた!?
うわあ! めっちゃ恥ずかしい! いい年したおっさんがホームシック、じゃないこの場合ワールドシックとでも言うのか? もう穴があったら入りたい! 誰か穴を! プリーズホール!! もう切なさと恥ずかしさのWパンチだ! と、とりあえず涙を拭って――。
頬の涙を袖で拭ったと同時にルーミィが立ち上がるや否やそのまま俺の席の後ろに回り、包み込むように肩を優しく抱いてくれた。
「大丈夫だよ……一緒に頑張ろ……私が居るから」
その一言が耳に届いたと同時に訪れた安堵感、それが一気に感情を書き換えてくれた。
すごい、これが女神様。癒しの効果が桁違いだ……今まで怒らせてしまったことに対し土下座して謝りたいぐらいだ。ほとんどが不可抗力によるものだが。
そして今まで理不尽の神と思っていたこと深くお詫びいたします。貴女は慈愛に満ち溢れた女神様です。
ルーミィのおかげで心のモヤは完全に晴れた。この心地良さをずっと味わっていたがそうもいかない。
「あ、あの。ありがとうございます。もう大丈夫ですので」
「うん……」
そっと手を離しルーミィは自分の席に戻った。しかし表情から察するに明らかにまだ心配している様子だ。早くこの空気をなんとかせねば。
「さ、さあ。冷めないうちにいただきましょう!」
とりあえず食事に逃げよう。しかし年下? の美少女に心配をかけてしまった……。
俺の異世界生活はまだ始まったばかりだ。この先も苦難はあるだろうが絶対10000ポイント貯めてみせる! 消滅なんてしてたまるか! そして俺が試練を達成しないとルーミィの再研修も不合格となりかねない。しっかりと恩は返さねば!
決意を新たににゅう麺を一気に飲み込んだ。
と、その直後、器官に入ってしまい盛大にむせて味噌汁を卓上にまき散らし、ルーミィにこっぴどく怒られた……。
自室のベッドに転がりながら特に何をするでもなく神ブックの真っ白なページを眺めている。
神ポイントの確認は先ほど終わらした。レインコートと長靴のセットで30ポイント、二人分で60ポイントの支出だったが天使を二人も生み出せたのだ。惜しくは無い。
しかし、さっきは焦った。結局、にゅう麺噴出事件であの空気は解消されたが、それでもちょっと照れくさくて今日は自室で神ポイントの確認をした。
アメリアやソフィにも十分癒されるがルーミィのそれはまた違っていた。言葉では到底表現出来ない感覚だった。
女神様の慈愛の力って本当に素晴らし……うん? 待てよ。さっきは考える余裕など無かったが、ルーミィの神力は俺が持ってるし、本人もただのか弱い女の子って言ってたぞ?
つまり、ルーミィには何の能力も無い。となるとさっきのは純粋な母性? おっさん相手に本気で心配してくれて抱きしめてくれたのか?
いやいや、俺が試練失敗することにより再研修も不合格となるからそれを回避する為に……しかしそんな気持ちを持っていてはあのぬくもりなんて出せるはずが無い。
手に持っていた神ブックを閉じ、枕元に置く。
「よし、分からん! もう寝よう!」




