異世界14日目 4月14日(日) ③狼さんは親御さん
今リビングには、超が付くほどの男前さんと同じく美人さんがいらっしゃる。
男性の方はロン毛であるがなぜか軽い感じはせず、威厳すら感じる。また、その隣に座る女性は太もも辺りまで伸びた超ロングヘアーだ。
この二人、とても綺麗な銀髪をしており、さすがアメリアちゃんの親御さんである。そっくりだ。そしてルーミィ曰く、ハイクラスのモンスターは人化出来るとの事らしい。狼さん時の毛並みは人化状態にも反映され、その美しさに見入ってしまう程である。
そんな二人が今、直立不動で揃えて頭を下げている。
アメリアが拙くいきさつを話してくれたおかげで一転し、今はこちらが恐縮してしまう程の空気となっている。
「あ、あの。頭をお上げ下さい。間違いや勘違いは誰にでもありますから。ははっ」
ぶっちゃけ死を覚悟したけどね。
その後、なんとか頭を上げてもらい、イスに腰掛けていただいた。ルーミィには親御さんのお茶を淹れてもらっている。
「雨に濡れている所を保護してもらった上、ご飯までご馳走していただいたお方に気が動転したとはいえ、殺気を放つような真似をしてしまい、大変申し訳ありません! なんとお詫びをすれば良いか……」
ママさんがサラっと伝えてくれたがあれが殺気なのか。うん、本当に怖かった。金縛りになったもんなあ。あの体格差を感じさせない殺気は子を思う母の気持ちなのだろう。また寒気が、思い出すのは止めよう……。
聞くところによると、アメリアちゃんが人化出来るようになったので、パパさんの背中に乗ってお散歩していたらしいが、少し早く駆けてしまい、振り落としてしまったらしい。しかも急な雨のせいで匂いをたどるのに少々手間取ったとの事だ。
「いえいえ、誤解が解けて良かったですよ」
まあ、見方によれば幼女誘拐とも取れ無くは無いし、初見でケチャップだらけの口元はまずかった。パッと見、血に見えなくもないもんな。そんな姿を見たものだから一気に殺意が高まった訳か……。
「どうぞ、お茶とスライム水まんじゅうになります」
ルーミィがお茶の用意して戻って来てくれた。殺気を当てられたせいで喉が渇いていたので早く飲みたいです。
「アメリアちゃんに振る舞おうと思っていたお菓子です。折角なので皆さんでお召し上がり下さい」
「そんな! ご迷惑をかけた上にそこまでしていただいては……」
「まあまあ、遠慮なさらずに。アメリアちゃんもどうぞ食べてみて下さい。甘くて美味しいですよ」
「わーい! いただきまーす!」
うん。子供は素直が一番。遠慮なんて大人になるまでする必要はない。
……ルーミィは大人? 子供? 難しい年頃である。でも永遠の17歳は多分大人だ。
「そ、それではお言葉に甘えて。うん? これは精霊?」
お、パパさん気付きましたか。あ~、お茶が喉に染み渡ります~。生きてるって素晴らしいなあ……。
「あまくておいしい~! ちゅるんってなる!」
「ほんと! 美味しい!」
さすが女性に大人気の和菓子である。アメリアは尻尾を振り、ママさんは手を頬に当てて味わってくれている。
「確かに美味しい。これは?」
「私が作りました。料理が得意なんですよ」
「精霊の料理とは。しかし、この味はこの世界では味わったことが……」
そこまで言いかけてパパさんの言葉が止まってしまった。視線の先を辿るとリビングの小物置場に置いてある神ブックに向かっている。
「……なるほど、あなた達は異世界から来られたのか。それであれば納得がいきます」
神ブックを見て判断されたようだがあの本そんなに有名なのか? まあ、確かに便利なのは認めますが。
「最高神の試練、いかようなものか聞かせてはもらえないだろうか?」
最高神って誰よ?
てかこれ人に話してもいいのだろうか? 別に話してはいけないとも言われていないけど、あまり知られ過ぎると我が身が危ないと言うか……ルーミィなら知っているだろうか?
目線を送るとルーミィが察し、近づいて耳元で教えてくれた。
「最高神って上司の事だよ。あと、この方なら内容教えてもいいと思うよ」
おお、聞きたい事をズバリと。食べ物以外の事はしっかりしてますね。後、耳元で囁かれてドキッとしたのは内緒にしておこう。
ってかあの上司さんめちゃめちゃすごい肩書き持ってるじゃん! 同じ下っぱ中間管理職だと思ってたのに、偉いさんじゃないか!
「分かりました。試練の内容は保育園を運営して規定ポイントを貯めるもので、叶える願いは元の世界に帰る事です」
「ホイクエンとは?」
「小さい子供達を対象にした遊びを通じ、基本的なルールを学ぶ場所です。子どもの成長を助け、家庭では手の届きにくい部分をフォローすることが目的となります」
「成程。そして貴方の願いを聞いて安心した。しかしいいのですか? その気になれば世界を掌握する事も可能ですよ?」
パパさんの顔が少々険しくなる。別に世界など興味は無い。そんなもの掌握して何になるのだろうか。確かに彼女は欲しいがそれだけの為に世界を取る必要は無い。それに……。
「世界なんてとんでもないですよ。押し付けれられた試練ではありますが、やる以上は最高の保育園を目指します。なにより子供達が喜んでいる姿を見れるのは大人としては嬉しいもんじゃないですか」
子供が喜んでいる姿を嫌う大人はそうは居ないであろう。ましてや親であれば尚更であるかと思う。まあ、偉そうに言ったところで俺は独身なんだが。
先程の言葉を聞き終えるとパパさんとママさんが見合い、無言で頷き、続けて言葉を発した。
「不躾な質問をして申し訳ありませんでした。そこでお願いがあります。うちの娘、アメリアをホイクエンに入れてもらえませんでしょうか?」
「私も母親として、あなたなら娘を大きく成長させてくれると確信させていただきました」
「おじちゃんとおねえちゃんとあそぶ~!」
思わぬところで初入園希望が舞い込んで来た!
「宜しいのですか? 見ての通り、誰もまだ入園していない状態なのですが」
「ええ、アメリアも気に入ってるようですし、是非お願いします」
そこまで言われて断っていてはいつまで経っても保育園は開業出来ない。
「ご期待に添えるよう、頑張ります!」
殺気を放たれ、殺されそうになるところから始まったドタバタ劇は、新園児の獲得と言う結果に落ち着いた。最高に高いハードルではあったが……。
しかしこれでいよいよ保育園業開始だ! 頑張って神ポイントを貯めて元の世界に帰るぞ!




