異世界1日目 4月1日(月) ①女神様って本当に居たんだ
体に違和感を感じる。これは浮遊感……?
「何? ここ?」
目を開き、視界に写ったのは一面見渡す限りの薄い青。所々に白い雲のようなものがあるが、それ以外何も無い空間であった。
その中で俺は今、どうした事か、宙に浮いている……違和感の原因はこれのようだ。
まさかさっきの結婚式フラグが成立したのか!? ってそんな訳無いか。まあ、普通に考えたら夢だよな。
でも夢であったとしてもこんな神秘的な景色は中々見れるもんじゃない。明日は良い事がありそうだ。お肉の半額セールとかに出くわせるかも知れない。
「夢ではありませんよ?」
澄んだ美しい声が後ろから聞こえて来たので振り返ってみると、一人の女性が居た。
腰辺りまで伸びた金色の長い髪、瞳も同じく輝くような金色をしている。華奢な体にまとっているのは法衣と呼ばれるものなのであろうか。
真っ白な布から滲み出る清楚感、そしてその美しい顔立ち、まるで絵画の中から飛び出てきたような神秘的な印象を受ける。
――美少女。その言葉以外に当てはまる言葉が俺には思い浮かばない。
「お褒め戴きありがとうございます。寿和也さん」
えっ!? 何で俺の考えている事が分かるの? しかも名前まで!?
「私は神ですので。貴方の素性や心を読む事ぐらい造作もありませんよ」
あ~、なんか俺も薄々気付いていたけどやっぱ神様、いや、女神様でしたか。
――危なかった。余計な事を考えなくて。
「余計な事。とは何でしょうか?」
考えている事が筒抜けになっている。このままでは墓穴を掘ってしまうし、それよりも気になる事がある。
「いえ、なんでもありません。それよりも私は死んでしまったのでしょうか?」
まさか弟の結婚式フラグが成立したのであろうか?
過労死が一番思い当たるが……食生活には結構気を使っていたのに。外食を控えて頑張って自炊してたし……それともやっぱりお酒かな?
「寿さんは亡くなってはいませんよ」
よかった。結婚式フラグはやはり都市伝説であったようだ。今も宙に浮いてる状態だけど生きているのなら喜ぶべきだろう。
でも、なぜ今俺はこの謎の空間に居るんだ?
「ここは神界と呼ばれる神が存在する場所です。貴方の強い想いがこの神界まで届き、私の目に止まり、呼び寄せました」
想いって、あ、ひょっとして寝る直前に考えたちょっとアレなヤツかな? いやあ、うん。自分でも多少は意識あったけども、女神様に気付かれるほど悔しがっていたのか。我ながらちょっと引くな……。
「人生をやり直したい。と言った想い自体は一般的に良くある事なのですが、貴方の場合は稀に見る強さでしたので。相当お悔やみになられていたのですね」
やめて! 恥ずかしい!! おっさんを追い込まないで! でもね、一つ屋根の下で暮らしている弟が超リア充だったんです。そりゃあ想いってやつも大きくなりますよ!
「神界まで届く強い想いこそがこの神界に来れる条件であり、私は貴方の願いを叶える為にここに居ます」
なんと! あのちょっとアレな願いを叶えてくれる!?
しかし待てよ? ここまで都合の良い話があっていいものだろうか?
実は裏があって『願いの代償はお前の魂だ! ふはははは!』 とか中二染みた展開になったりする可能性も……。
「なりませんし、神は見返りを求めません。もちろん強制でも無いので嫌ならば別に構わないのですが?」
「大変失礼申し上げました! 何卒ご容赦の程お願い致します!」
ここは全力謝罪だ。
「ギャルゲー、と呼ばれるものが私には良く解りませんが、世界は無限にあります。貴方は目を閉じイメージを作り上げて下さい。そしてイメージ出来たらそのまま手を挙げて下さい。貴方が望んだ世界を私が選択し、貴方の望む状態でその世界へ転移させます」
女神様の口からギャルゲーという単語を聞く日が来るとは……。
いかん、いかん心の声は筒抜けだ。俺はその世界に行きたいのだ。先程みたいに機嫌を損ねるような事は控えねば。
「はい! 宜しくお願い致します!」
まずは女神様に言われた通りに目を閉じて精神を集中させよう。ここでへまをする訳にはいかない。
よし、ここは一昔前に一世を風靡したあのギャルゲーを基本としよう。
設定は高校生活だ。それにはまず、俺自身も高校生の歳まで若返る事が最優先だ。今のままの歳だと不具合が多すぎる。
おっさんの高校生なんてその時点で詰む。
後は何と言ってもヒロイン達だな。幼馴染は鉄板として、先輩、後輩の関係も外せないな。そして何よりも超高校生級の巨乳ちゃん。これは絶対必要だ!
高校生活を彩る多彩なイベントも忘れちゃいけないな。あんなイベントやこんなハプニングもあったり……よし! 固まった! ギャルゲーはやり込んでいる、抜かりは無い!
イメージ出来たら手を挙げるんだったけ。いつでもいいですよ、女神様!
「そのイメージ、保っていて下さい。今から世界を選択し、寿さんを転移させます」
うわ、なんだこの感覚。言葉では言い表せないけど非常に心地良い。力が抜けいく、なんて気持ち――
悪い!!
――完全に油断していた! 先程までの優雅な感覚から一転、まるでジェットコースターの直下降さながらの重力を感じる!
いや、それよりも遙かに劣悪な感覚だ! は、吐きそう!
これは拷問と呼んで差支えないであろう。意識が遠くなる……感覚も……無くなって……。
頭が真っ白い空間に満たされる直前、聞こえてはならない、そして気のせいであって欲しい女神様の声を拾ってしまった。
「あ……」
ちょっ! なに!? 『あ……』って!
残念ながら考える時間はそこまでで意識はブラックアウトした。