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異世界4日目 4月4日(木) ③ギルド(BAR)に招かれた

 

 牧場での衝撃的な光景を見て、興奮も冷めやらぬまま、雑貨店に買い物をする為に戻って来た。


 尚、イリアさんに牧場での事を伝えると、『あいつは足が速いからな』の一言で片付けられてしまった。足が速いとかの話では無いと思うんですけど。




「ルーミィさん、この桜の季節が終わるまで、スライム料理で資金を稼ごうと思っているのですが、如何でしょうか?」


 現実に戻らねばならない。超人牧場についてはまた改めて謎を解明しよう。今は生きていく為に全力を出そうと思う。


「うん、いいよ。でもそれって毎日スライム採取になるね。じゃあ、ごはんも毎日大盛りにしてね!」


「はい、はい。分かりまし――」


「あ! カズヤさんとルーミィちゃん!」


 この元気ハツラツな声は……フラムさんだ。ちょうどギルドの前だし。


「クレイドからスライム料理貰ったよ! あれ、すっごく美味しかったよ! それでね、パパとママが店に連れておいでって言ってるの! よかったら今晩、お店に来ない? ご馳走しちゃうよ!」


 喜んでいただいて何よりである。そしてクレイドさん、パシリありがとうございます。


「ほんと!? ねえ和也! ギルドに行こ!」


 あのね、女神様、おっさんはいい年だから体裁ってものも考えて動かないといけないんだよ?


「じゃあ決まりね! 今晩待ってるからね!」


「うん! 楽しみにしてるね!」


 フラムさんは手を振り見送ってくれた。まあ、いずれにせよギルドでお酒は飲んでみたいと思っていたので問題は無い。そしてルーミィ、ナイスだ! いやらしい話だがタダ酒ではないか! 





「いらっしゃい! パパとママに紹介するからこっちに来て!」


 ギルドに入るや否やフラムさんに声をかけられた。しかしまあ、夜もメイド服なんですね。それ、普段着なんでしょうか……。


「君がカズヤ君だね? 美味しい料理ありがとう。今日は楽しんで下さいね」


「いらっしゃい。あのスライム料理ほんと美味しかったわ! 今日はうちの料理を堪能していってね」


 フラムからパパとママを紹介されたのだが、これまたお二人ともこのBARの雰囲気にベストマッチした風貌である。黒を基調とした服にベストが似合っているナイスミドルのマスターに、夜の蝶とも言える美しいママ。どこぞかの高級ホステスのようである。


「こちらこそお誘いありがとうございます。ご迷惑ではなかったでしょうか?」


「もう、そんな堅い挨拶はしなくていいの! さっ! 座って座って!」


 挨拶の途中で急かし立てて来た。いや、紹介したいって言ったのフラムさんでしょう……それにちゃんと挨拶はしっかりとしておかないと印象が――。


「和也~! 早く! 早く!」


「……連れが騒がしくて申し訳ございません。今日はご厚意に甘えさせていただきます」


 もう、結局、恥ずかしいの俺じゃないか……。


「うふふ、フラムの言う通り元気で可愛いお嬢ちゃんね。いいのよ、遠慮しなくて」


 懐が深くて助かります。



「じゃあ、今日は私のオススメを用意させてもらうからちょっと待っててね!」


 フラムが一言残し、厨房へと向かって行った……スカート、短いですな。


「何を見てるのかな?」


 おっと、ルーミィさん。お胸は見てませんよ? お尻をですね……。などと言ったら大変な事になるのでもちろん言わない。


「いえ、平日の夜なのに結構賑わっているなと。後、この雰囲気のお店は元の世界にもあったのでちょっと懐かしくて」


 誤魔化し半分、本音半分である。堅苦しくなく、それでいて品のある良いお店で皆、楽しそうにお酒を飲み、談笑している。


「ふーん。でも、フラムのスカート見てなかった?」 


 そういうところ、目ざといですね。


「き、気のせいですよ。それよりも異世界のお酒、楽しみですね!」


「お待たせ~。まずは当店自慢の葡萄酒とスピードメニューだよ!」


 ナイスだ! メイドさん! この話の流れをぶった切ってくれた!


「メインの料理はもうちょっと待っててね! お二人で乾杯しちゃって! 邪魔者は去りますから。うふふ。」


「ちょっと、フラム! まったくもう」


 フラムさんが持ってきてくれてたのは確か、デキャンタって言うんだっけ? 俺もあまり詳しくはないがワインを入れる花瓶みたいな入れ物だ。


「まあまあ、葡萄酒、おつぎしますよ」


 ……待てよ? ルーミィって確か永遠の17歳って言ってたよな? 未成年じゃないか。お酒は20歳になってからだ。でも、多分、17年間以上生きている筈だ。じゃなきゃ永遠、とか言わない。よし、ルーミィは未成年では無い。それに、女性に年を聞くのはこの前ので十分懲りた。


「うん、ありがと」


 注がれる葡萄酒は透き通るような紫色をしており、グラスに注がれると徐々に色濃くなっていく。


 二人で乾杯をし、葡萄酒を口に運ぶ。もっぱらビール派ではあるがこの葡萄酒、なかなか美味い。ソムリエみたいな表現は出来ないが、深いコクに甘味があり、口当たりも滑らかだ。


「いい味の果実酒ですね」


「うん! 甘くて美味しい」


 スピードメニューとして出してもらったのはビーフジャーキーのようなものだ。これがまた噛めば噛むほど味が出て病みつきになる美味さだ。非常にお酒に合う。


「ギルド自慢のチーズとスパイシーチキンだよ!」


 オススメ料理も持って来てくれた。これは……何と香ばしい匂いだ。お酒に合わした味付けだろう。堪らず一切れ口に運ぶ。


 美味い。ピリッと利いた香辛料が舌先に感じたかと思ったら、その後にジューシーな肉汁が口の中を包む。しかも先程の葡萄酒を飲めば口の中はさっぱりし、脂分が無くなる。そしてまた食べたくなる。これは恐ろしいコンビメニューだ……。


 それにこのチーズ、おそらくアレクさんの牧場の食材であろうが非常に濃厚で味が濃い。これもまた葡萄酒と合う。どれもレベルが高い。


「どれも美味しいね! お酒って初めて飲んだけど飲むとふわふわするんだね!」


 えっ? 今何と? 初めて飲んだ? 


 この葡萄酒、美味しいがそれなりの度数がある。初めてお酒を飲む人がガバガバ飲んでいいものでは無い。ってすでに2杯目飲んでるし!


「ル、ルーミィさん、このお酒、結構度数高いのでそんなペースで飲むと酔いが――」


「ふぇ? なに~」


 ……目。すでに酔っ払いの目になってる。


「だいたいねえ、和也のその他人行儀な言葉使いなんとかならないの?」


 2杯目を飲み干し、3杯目を自らグラスへ注ぐ。いかん、止めねば。すでに絡まれ出しているし!


 対面の席に座っていたルーミィはグラスを持ち、席を立つと少々不機嫌な顔しながら俺の席の横に並んで座リ直した。


 何故、わざわざ席を移動したのだ……対面でいいじゃないか。って近い! 近いから!


「こんな可愛い子がこれだけ言ってるのに、まったくぅ」


『まったくぅ』じゃない! 確かに可愛いのは認めるが……って! 一気に飲むんじゃない! また自分で注いでるし!


「あと、イリアしゃんやフラムの胸を見過ぎ! 私らってすぐに大きくなるんだから……」


 いや、対象者が稀な才能の持ち主であってそれらと比較するのは少々――だから! 一気飲みするんじゃないってば!


「ルーミィさん、もう少しゆっくりと……」


「だいひゃいね!」


 ダメだ……完全に逝ってしまった。どうすんの? この始末……。


「ルーミィさん、もうその辺で止めておきましょう。もうろれつが、って言ってる傍から!」


「私は酔っへない! らいじょうぶ!」


 それ、酔ってる人が必ず言う言葉だから……。


「……」


 力尽きたか……とりあえずグラスに残ったお酒を飲もう。うん美味い。


「どう? 楽しん……だ後のようね」


「はい、速攻で酔い潰れてしまいました。思ったよりお酒に弱いみたいです。申し訳ありません、折角お誘いしていただいたのに」


 ほんと、迷惑な話である……。


「だ、大丈夫?」


「ええ、おそらく。しかし今日の所はルーミィさんを連れて帰りますね。お酒、お料理どちらも大変美味しかったです。どうもありがとうございました」


 どれも一口ずつしか食べれてないけどね……。


「また今度、ゆっくりと伺わせていただきますね。ご馳走様でした。ほら、ルーミィさん!」


「……」


 返事が無い、ただの屍のようだ。



「気を付けてね!」


「ありがとうございます、それでは失礼します」


 生ける屍と化したルーミィは、仕方無いので背負って帰ることにした。女性を背負うなど人生初体験である。まあ、この行為自体が一般的で無いのかもしれないが。


 それにしてもこの背中に当たる感触……これは胸と言うより服かな? 


 うん。邪なことを考えてはいけない。女の子と触れ合える数少ない機会なのだ、しかも相手は泥酔状態、無になって堪能しておこう。しかし華奢な子だ、結構大食いなのに……。


「大丈夫ですか? もうすぐ園に着きますからね」


 まあ、聞こえて無いとは思うけど。しかし心配である。急性アルコール中毒にでもなられたら大事だ。


「ありがひょう……かずひゃといて毎日楽ひいよぉ……」


 以外と反応があった。寝言だろうか? 顔を見ると頬を赤らめ幸せそうな寝顔をしている。


「……これからも宜しくお願いしますよ? 女神様」



 尚、ルーミィの体調回復まで丸一日を要した。今後、度数の高いお酒は飲ませないようにしよう……。


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