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第七十七話 泊まり

風凪の家に帰ると既に風凪のお母さんが帰っていた。

時刻は夜の7時。


「あらあら、仲良しさんねー」

「お母さん!からかわないでよ!」

「いいじゃない。仲良しなのはいいことよ。」

「花形君?ごめんね毎回...」

「仲良しなのは事実だからいいけど。」


じゃなきゃわざわざイジメから助けたりなんてしない。


「花形くん、つくしをお願いね。ちゃんと責任とってくれるというのなら多少の声は我慢するわ。」

「なんの話でしょうか。」

「もう!わかってるくせに。」


親がいることがわかってるのに声なんて出すか。

そもそも、行為には及ばないから安心してほしい。


「花形君、ほら、私の部屋いこ。」


風凪に引っ張られて

二階の風凪の部屋に向かった。


「ほんとにごめんね。」

「楽しいお母さんだな。」

「今まで友達を連れて来たりしなかったからそれで私以上に喜んでるんだと思う。」


なるほどな。

高校に入ってからずっとアイツらと一緒だったわけか...苦労が絶えなかっただろうな。


「夜ご飯つくるから花形君はここで待ってて。」

「俺も手伝うから。」


やはり、人の家に来てなにもしないっていうのはなんか落ち着かないものだ。

自分の家ではなんもしないのに。


風凪とキッチンに立って料理を始める。


「なんだかこう見ると高校生のカップルみたいね~」

とか風凪母から冷やかしがきたが二人とも聞こえてないふりをして過ごした。


「風凪」

「なに?」

「は~い。」

「あ、いや、娘のほう。」


そうか、今は風凪が二人いるんだった。


「花形くん?それだと呼びにくいんじゃない?」

「正直。」

「なら、つくしのことは名前で呼ぶのはどうかしら。」

「年上を呼び捨てはやりずらいだろうし」


名前呼びというのは俺の中で近しい存在と認めることになると思っている。

認めたくないというわけじゃないが今まで苗字で呼んでいたから少し違和感がある。


「つくし」

「うん。」


「つくしも名前で呼んでみたら?」


「青砥君。」


なにこれめっちゃ恥ずかしい。

名前呼びなんて優以外したことないからどうしたらいいか戸惑う。


「いいわねー青春って。」

「あんまりからかわないでください。」

「あら、どうして?」

「誰かを名前で呼ぶのって慣れてないんです。」

「そうなの?」

「名前呼びできるほどの友達もいませんし作りたいとも思いませんから。」

「なんかごめんなさいね。」


謝らないでもらいたい。

この不愛想な顔や面倒くさがりな性格のせいで友達もできない。

まあ、俺に近づく奴のほとんどが優目当てだったしそんなやつと友達になりたいとも思わないが。


「じゃあ、優奈ちゃん以外では初めて?」

「まあ、そうだな。鈴姉もそうと言えばそうだけど友達というかは微妙だし。」

「うれしい。」


嬉しそうにするのは構わないがお母さんがニヤニヤしてるからやめようね。


慣れない名前呼びでカレーを作っていく。


「なんか、普段より疲れた気がする。」

「慣れない名前呼びは辛いね。」

「これから慣れてけばいいさ。」

「え...それって...」


「ただ、名前の呼び方をわけるのが面倒くさいだけだ。」

「あ...うん。」


普通を装ってみたが顔が赤くなってしまった。

くそ、調子狂うな...。


「「「ごちそうさま」」」


「青砥君、食器ここでいい?」

「ああ。そこでいい。」

「あ、私も手伝うね。」

「ああ、ありがとう。」


「.....」

「.....」


間が持たない。

気まずい。

ふとつくしを見ると手が小刻みに震えていた。


「大丈夫だ。もうあんなことは起こさせないから。」

「え?」

「あれから普通に振舞ってたから気がつかなかったけど、怖かったんだろ。それを無理して隠して...あやうく見逃すところだった。」


すると、つくしの目から大粒の涙がこぼれた。


「青砥君はずるいよ。」

「なんでもないような顔して手を指しのべてくる...そんなことされたら甘えちゃうよ。」

「つくしは少し甘えることを覚えたほうがいいと思うがね。」

「...その発言の責任はとってね?」


意地の悪い笑みを受けべながらつくしは言った。

完全にやられた。

さっきのは演技かよ。


「いや、そういうことじゃなくて...」

「人に甘えろとか言って置いてやり方とか教えてくれないんだ。」

「そういうわけじゃ...」

「なら、問題ないね。」


この悪魔め。


「分かった。けど俺は人間だ。出来ることに限りがある。」

「私は人間じゃないみたいな言い方だったけど..大丈夫。今日泊まってもらうだけだから。」

「いや、制服だし、服ないし。」

「大丈夫、お父さんのがあるし、明日は土曜日だから。」


...確かに。

明日は土曜で学校はない。

これも計算か?...まさかね。


「まだ、なにかある?」

「俺はどこで寝ればいい。」

「私と一緒に」

「まて、それはまずい。俺だって男だぞ。襲うとか考えないのか?」

「さっき言ったでしょ?」

「好きな人と繋がれるって嬉しいもんなの。」


つくしのお母さんはこっち見てニヤニヤしてるだけで止める様子はない。

助けてもらうこと不可能。


「わかった。今日は泊まらせてもらう。けど、絶対に俺を誘惑しないこと。」

「ゆうわく?私、わからない。」


片言になってる時点でするき満々だっただろ。

シャーペンの一本でも持ち込めれば抑えられるのに。


洗い物を終えてつくしの部屋に向かった。


「さっきのことだけど」

「ん?」

「怖かったのはホントだよ?」

「私の家は知られちゃってるからいつ来てもおかしくないんだ。」

「だから、初めて青砥君の家に行った時とか夏休みの旅館とかこの家から離れてる時は安心出来たんだ。」

「お母さんがいるんだからそんなに怖くないだろ?」

「それでも怖いよ。癖で最悪の事態を常に想像しちゃう。」

「最悪の事態?」

「お母さんがやられちゃって私もやられちゃうって。だから、時々眠れないの。」


つくしは柔らかく言ったが、『やられちゃう』っていうのは殺されるってことなんだろう。

その気持ちは分からないでもないがそんなことを気にしていたらいつまで経っても安心できない。

それはつくしのことだから分かってるんだろうけど...


こういう時ってどういう言葉を掛けたらいいんだろうな。

いままでなら適当に浮かんできた言葉を言えてたけど今日はそうもいかない。


イジメられてる現場を見てしまったこともあるし、つくしの気持ちを理解することもできるから。


それに、俺が適当に言葉を投げてもなにも解決しない。

これは、つくし自身が直すしかないことだから。


「でも、今日はゆっくり寝れそうだよ。」

「俺がいるからか?」

「うん。」

「わからないぞ。俺だって寝てるところを襲われたら抵抗できないからな。」

「そうだよね。空き教室で私が入っても起きないもんね。」


それだけ普段疲れてるだからだ。

特に勇士がいた一週間は倍疲れたからな。


「あ、青砥君、お風呂が沸いたみたいだから先に入って。」

「俺は後でもいいけど...」

「青砥君は私は入ったお湯でなにをするつもりなのかな?」

「やましいことはしない。普通に風呂に入るだけだ。」

「ほんとに?」

「ほんとに。」


「あーでも下着とかないや。」

「じゃあ、洗濯して乾燥させるからそれまでお風呂にいて。」

「何分?」

「30分。」


つくしさんや、それって俺に死ねっていってますよね?


そして、俺はヘロヘロになって風呂からでた。


「青砥君、その...怖いからそばにいて貰えると嬉しかな。」

つくしがそういうので俺はつくしが風呂場に入ってあとで風呂場のドアに背中を預けた。


「男の人がそばにいるってなんか緊張するね。」

「大丈夫だ、俺はつくしの胸はもう見てるから。」

「...っ!た、確かにそうだけど全裸は見てないでしょ?」

「さあ、どうでしょう。つくしが寝てる間に見たかもしれないぞ。」

「...変態。優奈ちゃんにチクちゃお」

「冗談だ。さっきのお返しだ。」


「で、俺はどこで寝ればいいのかな?」

「一緒にベットでねよ?」

「断る。誘惑するなといっただろ。」

「誘惑じゃないよ。提案。」


ものは言いようだな。


一緒のべっとで寝るといよいよ俺の理性がブレイクされそうだから床で寝た。

一応、毛布は貰ってはいるがちょっと寒い。


すると、バサッという音がして暖かくなった。


「寒いでしょ?」

「別に寒くないからベットに戻れ。」

「素直じゃないなーこんなに手冷えてるのに。」

「俺は冷え性なんだ。」

「でも面倒くさい、からいいよね。」


この悪魔はどこまで俺をからかえば気が済むのだろうか。

結局俺は一睡もできないまま朝を迎えた。

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