第七十一話 動物園
「ぱぱーおっき!」
朝から大きな声で叫ぶ勇士。
その元気はどこから湧き出るんだ。
今日は土曜日。
前日に勇士と遊びに行く約束をさせられた。
どこに遊びに行くかは知らないが折角の休日に外に出るなんてことはインドア派な俺からすれば言語道断だ。休日は休むためにあるんだ。
わざわざ疲れに行ってどうする。
と本心では思っていてもそれを勇士に言ったところで首を傾げられるだけだ。
俺は大人しく起きた。
「で、どこに遊びに行くって?」
「近くの動物園に行くって。」
動物園...。
「あからさまに嫌な顔しないの。」
「動物園なら平日行ってるだろ。」
高校と言えど、やることは勇士より酷い。
女子のパンちら狙って階段したでスタンバってみたり、更衣室覗こうと奮闘したり、とやることが小学生なんだ。
まだ、勇士のほうが自由奔放だがダメといったことはやらないから指導しやすい。
「はいはい。なら、今日は本物見に行こうね。」
勇士は行く気満々で着替えていた。
若干不満があるが泣かれても面倒だ。
今日くらいは従うか。
近くの動物園まで電車で10分ほど。
土曜ということもあり親子連れが多い。
「この前私とデートしたばかりなのにね。もう子供が出来ちゃった。」
「嬉しそうだな。俺は周りの目が痛いよ。」
「本当に青君との間に子供が出来たら嬉しいよ。」
そんなことを顔を赤らめながら言わないで欲しい、反応に困る。
「まま?どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。」
動物園はこの前行ったテーマパークほどではないがそれなりの広さがある。
一日に一回は迷子の放送が流れる程度には。
それだけ広いし人も多い。
俺達への目線も減った。
電車ないじゃ、全員が一度は俺達の方を見るからな。
高校生が子供を連れて電車に乗ってるし、勇士は俺達のことをぱぱ、ままと呼ぶ。
勘違いされても仕方ない。
優は居心地が悪そうにしていたが今は勇士と同じくらいはしゃいでいる。
「動物園なんて小学生の遠足以来だな。」
「懐かしいね。青君、迷子になったりして。」
「迷子になったのはお前で俺が迷子になったのはお前を探してたからだ。」
二ヘラと笑う優のほっぺをつねってやると勇士にダメ!といわれてしまった。
これが龍平なら拳の一つでもくれてやるが生憎、勇士に同じことをする気にはなれない。
「ぱぱ、なんてある?」
「ん、ほら自分で呼んでみろ。」
動物の説明の看板が見えるように勇士を抱きかかえてやる。
「よめない」
「ああ、そうか。ひらがなとかまだ習ってないのか。」
看板には子供でも読めるように振り仮名が振ってあるんだが平仮名を習ってない勇士からすれば意味不明な文なのか。
『レッサーパンダ。夜行性で昼間は寝ている。食べ物は主にタケノコや笹を主食としている。』
「だって。」
「ぱぱ、すごい!」
書いてあることをそのまま読んだだけなんだが...勇士からすればすごいことらしい。
「やこーせいてなに?」
「夜にしか動かないってことだ。」
「おひるは?」
「寝てる。」
「ぱぱみたい。」
うーん。そう言われると間違ってないきがする。
昼...授業中は寝て帰ってきてからゲームとか夜遅くまで起きてるし夏休みなんか完全に昼夜逆転の生活をしてるからな。
「うまいこというな。」
「うまいこと言うな。じゃないよ。ちゃんと朝ご飯とか食べないとダメだよ!」
「大丈夫、3食ちゃんと食べてるから。」
時間が夜なだけで、7じには朝ご飯を食べるし、12時には昼ごはん、8時頃には夕飯だって食べてる。
ただ、その時刻が午後7時、午前12時、午前8時なだけでちゃんと食べる物は食べてる。
「それじゃダメって言ってるの!」
「冬休みは毎日行くからね。」
「ええ..」
「普段から規則正しい生活をしてたらよかったのに。」
クソ、余計なこと喋った。
勇士相手だとどうしても喋ってしまう。
これが子供の無邪気さというやつか。
特に悪意なく、人の踏み込んでほしくない領域に侵入してくる。
だから、子どもは嫌いなんだ。
☆
動物園を回って昼の時間になったからフードコートで昼食をとっていると主婦の団体から声をかけられた。
見たところ、全員20代後半から30代前半。
子供は勇士と同じくらい。1~2歳前後といったところか。
「貴方達まだ学生さん?」
「あ、はい。そうですけど...」
「大変ね。学生のうちに子どもを持つと。」
「いえ、この子はただ預かってるだけで私達の子ではないです。」
「それでもよ。私のところなんて夜泣きは酷いは主人は非協力的だわで大変よ。」
「あー家もそうよ。俺は疲れてるんだとか言ってすぐに寝ちゃうしね。」
どの家庭も悩みの種は一緒なんだな。
そう思いながら机の端に座ってるとちょいちょいと服の袖をひっぱられた。
見ると、誰の子供かしらないが女の子が俺のことを見上げていた。
「にいに、あそぼ。」
「えっと...」
「あ、ごめんなさいね。あかり、ダメよ。」
「あ、いえ。構いませんよ。」
伊達にファミレスの店員をやってない。
営業スマイルは慣れている。
「あらそう。なら少しだけお願いできるかしら。」
「わかりました。お子さんをお預かりします。」
主婦の団体と言っても3人だけだ。
さっき俺に声をかけた女の子含め、3人だけ。
3人ならまだ遊んであげられる。
勇士は怖いのか恥ずかしいのか優の膝の上から降りなかった。
まあ、楽しそうにしてたら勇士もくるだろう。
ま、昼のあとだから眠いだけかもしれないけど。
「では、その辺の遊具で遊んでいます。」
「はい、ではお願いします。」
俺は子供たちを連れて近くの遊具で遊んだ。
☆
「それにしてもいいいわね。彼。」
「子育てに協力的とか羨ましい。」
「彼とはどんな関係なの?夫婦じゃないんでしょ?」
「彼とは幼馴染なんです。」
「いつから一緒なの?」
「生まれた時からですね。お母さん同士が同級生で...」
「あら素敵ね。」
「でも、彼氏ってわけでもなさそうだけどその気はないの?」
「えっと今返事を待ってるところです。」
「青春ねー」
「あの旦那さんとはどうやって?」
「私はあなたと一緒、幼馴染よ。」
「ウチは会社同士の会食でかな。」
「私はサイトで。」
「サイトですか。」
「そう。あーこの人ならって思ったの。夜になると私のおしりを強くたたいてくれて...」
「それ以上はやめとき、学生には刺激が強すぎるから。」
「あ、そうだ。今おいくつ?」
「えっと17です。」
「高校生かー。18だったら聞かせてもよかったんだけどなー。」
「いまのは序の口ですから、もっとすごいのありますよ。」
ほんと、人は見かけによらないんだなって思った。
見た目黒髪で清楚そうなのに中身は意外とエッチだった。
逆に自分のことをウチと呼んでいた人は純情だった。
最初に声をかけてくれた人は私達の未来を聞いてる気分になれた。
「彼とはどこまで行ったの?」
「キスはしました。」
「その先は?」
「えっとあおく...彼の方からは全然来てくれないので少し困ってます。」
「意外と奥手なのね。」
「この前も迫ったら自分が未熟だとか言いだして...どうしたらいいですか?」
「うーん。特ある問題だな。」
「彼氏彼女の関係じゃないというのも問題だと思いますけど...」
「それ以外に彼が踏み込目ない原因があると思う。」
「なにか心当たりはなにの?」
「なくはないです。」
私は文化祭の後夜祭での出来事を話した。
「100%それが原因じゃん。」
「でも、絶対に負けたくなくて。」
「彼から言われなかった?焦るな、とか時間をくれ的なことば。」
「あのタイプなら焦るなっていいそうだけどね。」
「焦るなって言われました。」
「つまりはそういうことさ。」
「?」
「焦っても仕方ない。ちゃんと決着をつけるから少し待っててくれ。ってことだと思いますよ。」
「そそ。もし我慢できなくなったら来るよ。」
「そうだといいんですけど。」
私は子供たちに振り回されてる青君に目を向けた。
例え、我慢できなくなっても多分、いや絶対に来ない。
普段、面倒とかだるいとかいいつつ、ちゃんと考えて動いてる。
本当に敬ってる人にしか敬語を使わないのがちょっと残念だけどそれ以外はちゃんとしてる。
子どもの面倒見だっていい。
現に初対面の子供と遊んでいる。
子供たちも飽きている様子はない。むしろ楽しそう。
そんな彼が私を選んでくれるかが今更になって心配になってきた。
「ままー!にいに楽しい。」
「よかったね。お兄さんに遊んでもらえて。」
「はぁはぁ。子供の体力って底なしなのか...めっちゃ疲れた。」
そう言いつつちゃんと楽しませてあげられてるところはカッコイイと思う。
「お疲れ様。ありがとうね。」
「動物園でこんな疲れるとは思わなかった。」
☆
優が主婦と話が終わったらしく別れを告げて立ち去るところだった。
帰り際、主婦の一人、話しかけてきた人にこそっと言われた。
「彼女のこともちゃんと考えないとそのうち自信をなくして離れていっちゃうわよ。」
その人はクスっと笑って行ってしまった。
「優、あの人達となに話してたんだ?」
「子育てのことがほとんどだよ。それがどうかしたの?」
「いや、なんか盛り上がってたからなにかなと。」
「聞こえてた?」
「いや、子供たちの声が大きすぎて聞こえなかった。」
「なら、いいや。」
ま、さっきの発言からしてだいたい予想は付くけどな。
閑話休題
動物園を一通り回った俺達は俺以外、疲れて寝てしまっていた。
寝てるときは2人とも静かなのに起きるともううるさい。
ま、それが2人の可愛いところで優の場合、それが個性がだし、勇士場合、それが仕事みたいなもんだ。
だから、近所迷惑にならない程度だったら家でならそのままにしている。
その代わり俺の理性とかが毎晩削られるわけだけどな。




