第六十七話 優とのデート
11月始め。朝の6時。
駅のホームは通勤、通学で使う人で溢れていた。
人ごみを掻き分けて改札まで抜ける。
「やっぱり土曜は人が多いね。」
「だから来たくなかったんだ。」
「このチケットはファストパスあるからそんなに並ばないと思うよ?」
「それでも寒いのと疲れるのは変わらない。」
「もう!今日一日!『疲れた』と『だるい』と『嫌だ』言うの禁止!マイナスの発言を禁止します!」
さりげなく人権を否定された気がするのは気のせいだろうか。
発言の自由はどこ行った...
「そんなことされたら俺会話出来ない。」
「頑張って。」
「ほら、行くよ!」
優に手を引かれて入園ゲートまで行くと子供連れの家族や学生カップルと繁盛はしているようだ。
「そう言えばそのチケットどうしたんだ?」
「生徒会長に貰ったんだ。なんか予定が入って行けなくなったから貰ってくれって。」
「なるほどね。」
ということは...
辺りを見渡してみると...いた。
明らかに怪しい3人組。
さっきからこっちをチラ見どころか凝視している。
「どうしたの?」
「いや、知り合いに似た人がいてな。が人違いだった。」
「そうなんだ。で青君、なにか気づくことない?」
こういう時のために杏奈に教えて貰った。
実は待ち合わせしてあった時から気づいていた。
「その服、俺が送ったやつだろ?」
「え、あ、うん。そうだよ。」
「少し大人っぽいと思ったがそうでもなかったか。」
「お気に入りの服なんだ!...ってそうじゃなくて!」
「違うのか?」
「うぅぅぅ。もういい!」
ありゃ、怒らせちゃったか。
しかし、服以外はいつもと同じ出しな...
髪も切ったわけじゃなくてそのままだったし冬でコートに隠れて体型までは見えなかったが太ったようには見えなかった。
あの時になんて答えれば正解だったのだろうか。
先に行ってしまった優と並ぶとふん!と言って顔を逸らされる。
完全に怒ってらっしゃる。
「折角のデートなのにそんな怒ってていいのか。」
「青君のせいだよ!...折角少しだけお化粧してきたのに...」
青君のせいだよ!からほとんど聞こえなかった。
いつもの元気はどこに行ったんだ。
肝心な部分が聞こえなかった。
「悪かった。帰るまでには答えを出すからそれまで待ってくれないか?」
「しょ、しょうがないなー。帰るまでだよ?」
「サンキュ。」
何とか機嫌は取り戻せたか。
なにが違うのか早めに見つける必要があるな。
閑話休題
俺達はまずジェットコースターに乗ることになった。
「ホントに乗るのか?」
「そうだよ?あ、青君って速い乗り物ダメな人だっけ?」
「絶対乗りたくない。」
「そう、じゃ行こう!」
「お前は悪魔か?俺行きたくないって言ったよ?」
「青君に拒否権はないんだよ?」
「クッソが。」
どんな暴言を言おうともう優は止まらない。
俺の腕を引っ張ってジェットコースター乗り場まで引きずられていく。
既に運転は始まってるらしく『キャー!』という悲鳴がここまで聞こえてくる。
怖くて足が震える。
「青君?」
優の手を握る手が強くなってしまう。
「絶対に離すなよ。」
「え?」
「怖いから絶対に離さないでくれ。」
「うん!分かった!」
優は非常に楽しそうだ。
俺は今すぐにでも逃げ出したい。
ファストパスのせいで列に並ぶことなく進んでいく。
俺はというと優に連れられながら後ろでブルブルと震えていた。
ジェットコースターに初めて乗ったのが幼稚園の頃。
その頃からジェットコースターは怖い乗り物として印象がついていた。
その時に優達に無理やり乗らされてからトラウマになってしまった。
ジェットコースターが出発して最初の下り、俺の記憶があるのはそこまで気づいたら終わっていた。
多分、最初の下りで気絶したんだろう。
「楽しかったね!」
「俺がそんなこと言うと思うか。苦手なんだぞ。」
「青君唯一の弱点だもんね。」
唯一かどうかは分かんないがまあ、次は絶対に乗らない。
「で、次はどこに?」
「この順路通りに進んでいくつもりだから次はファンタジアエリアだよ。」
「んじゃ、行くか。」
「うん!」
俺と優は手を繋いで最初のエリアに向かった。
☆
「二人とも、仲良くやってるようね。」
「我が高校の生徒会長様がストーカーまがいの行動をするとは私は思ってもみなかった。」
「そういう加奈だってやる気満々じゃない。双眼鏡なんか持ち出して。」
私、篠崎鈴音は今、後輩の様子を見にテーマパークまで来ている。
倉宮さんに渡したけどやっぱり青砥を誘った。彼女ならそうすると分かってたし彼の決断の役に立てばいいと思ったのだけれど...なんか青砥、最初っから疲れてない?
「会長、なんで今回私を誘ったんですか?」
「貴女も知っておいた方がいいかなと思っただけよ。余計なお世話だと思ったらごめんなさい。帰って貰っても問題ないわ。」
「いえ、そんなことはないですけど...なにを知って置いた方がいいんですか?」
「恋敵の覚悟って言えばわかるかしら。」
ハッとしたように風凪さんの目が変わったのが分かった。
やっぱり彼女も気にしていたみたいね。
倉宮さんはいつも青砥にべったりだから変化があまり見られなかったのだけれど本人同士だとやっぱり変わってるみたい。だから、風凪さんを連れて来た。
「あれ、そういえば、青砥ってジェットコースターだめじゃなかったけ?」
「え、そうなの?」
「この前、龍平とこのテーマパークの話をしてるのを聞いて『ジェットコースターだけは絶対に乗らない』って言ってたはず。」
「でも、2人ともジェットコースターに行きましたよ?」
「まあ、青砥は断れない不器用な性格をしてるから押し切られたんでしょ。」
「ああ、なるほど。」
行き違いになるのはまずい。
だから、2人が出てくるのを近くのベンチで待っていた。
しばらくして、2人が出て来た。
やはりと言うべきか、青砥は顔を青白くして出て来た。
ホントに苦手なのね。
「うわ、青砥顔真っ青。男なのに弱っちいな。」
「誰にでも得意不得意はあるものよ。」
「その不得意がジェットコースターて女子じゃん。」
「そういう人もいるわよ。」
「お2人の苦手なものってなんですか?」
「そうね、私の場合、騒がしい場所は苦手ね。耳が痛くなるの。」
「うーん。私は逆に静かな場所かな。図書館とかマジ無理。」
「凸凹ですね。」
ほんと、自分でも思うわ。
性格は正反対って言ってもいいくらいなのに中学校に入ってからずっと一緒にいる。
正反対と言えば青砥と倉宮さんも負けてないと思うけど...
青砥は完全にインドア派だし倉宮さんは完全にアウトドア派だし。
逆に青砥とか風凪さんは大分気が合うと思うの。
正反対と一致...どっちが彼のハートを射止めるのか楽しみね。
それを見極めるためにも青砥達の動向を伺う必要がある。
☆
このテーマパークは4つのエリアに分割されていてそれぞえにあったアトラクションが用意されている。
俺達が最初に乗ったジェットコースターは西部劇なんかを舞台としている『西部エリア』
その次がコーヒーカップなどがある『ファンタジーエリア』
お化け屋敷とかがある『ホラーエリア』
最後がフリーフォールなどがある『スペースエリア』
そのファンタジーエリアに俺達は今いる。
「青君、コーヒーカップって乗ったことある?」
「そりゃ、あるけど?」
テーマパークや遊園地に行ったことがある人なら一度は乗ったことがあるはずだ。
「あーそういえば優は怖がって乗らなかったんだっけ?」
優の家族とは何回かこういう場所に出かけたことがある。
それでも幼稚園とか小学校低学年の時だ。
その時に、コーヒーカップの下台座の部分に優が落ちて周りで動くカップに驚いて大泣きしていたのを思い出した。
その時から好奇心旺盛というか猪突猛進というかとにかくおてんばだったのを覚えている。
「だって、まだ私も小さかったし...そんな小さい頃に大きな物が近くで何個も回ってたら驚くでしょ?」
「確かにそうだが、なんで落ちるほど身をのりだした。」
「俺達が乗ってたから速度は出てなかったはずだろ?」
「そうだけど...青君の意地悪。」
意地悪なんてしてないぞ。
ただはしゃぎすぎって言っただけだ。
コーヒーカップに乗り込むとまもなく動き出した。
コーヒーカップの仕様としてなにもしなくても多少なりとも動くようになってる。
それで物足りなければ真ん中のハンドルで速度を上げることができる。
優は未だに怖がってるのか出来るかぎり小さくなっている。
優と目が合うと俺はニヤッと笑ってハンドルを大きく回した。
「ちょっと待って!まだ心の準備が!」
「さっきのお返しだ!一気に上げるぞ!」
最初は固かったハンドルも徐々に軽くなってきた。
俺は一気に回した。
おそらくこれが最高速度の回転なんだろう。
ハンドルがそれ以上回らなくなった。
コーヒーカップ全体が止まった。
「流石にあの速度で回ると目が回るな。」
若干フラフラな足で降りるとふと違和感があった。
いつもなら文句を言う優が隣にいなかった。
コーヒーカップに戻ると涙目で震えていた。
「青君の馬鹿...私が苦手なの知ってるはずなのに..」
「悪かったって。歩けるか。」
「怖くて足が動かない。」
でた、優の我がままモード。
「ほら、おぶるから」
「うん。」
俺は優をおぶって近くのベンチに座らせた。
「なにか飲み物買ってくる。」
「嫌、そばにいて。」
我がままな幼馴染にも困ったもんだ。
まあ、今回は大方俺の責任だからそばにいることにした。
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
そのようでなによりだ。
昼にはまだ早いが俺達は早めの昼食を摂ることにした。
昼は優の案で折角遊びにきたんだから軽い物を食べながら歩こうということになった。
テーマパーク内には100近い出店が並んでる。
中にはそのエリア限定の食べ物もあったりする。
それはまあ、後ででもいいとしてこのファンタジーエリアにも20程度の出店がある。
その中から順に回って食べていく。
「どれも美味しいね。」
「あまり食べると太るぞ。」
「青君にはデリカシーというのはないのかな!?」
「ない。」
「ならつけようね。」
「いつかな。」
「でた、青君のいつか。絶対にやらないやつだ。」
そんな他愛ないことを話して俺達は昼を済ませた。
閑話休題
時刻は午後4時。
この時期にはもう日は西に大分傾いている。
観覧車から見る夕日はかなり綺麗だ。
前で向き合って座っている優は夕日を見て目をキラキラと輝かせている。
まるで子供みたいだ。
「青君!夕日だよ!綺麗だよ!」
「見りゃわかるって。」
目の前ではしゃぐ幼馴染がもの凄く可愛く見えた。
夕日の力って恐ろしいね。
「そう言えば優。今日化粧してんだな。」
「うん!そうだよ!どうかな。」
「可愛い。」
「えへへー。嬉しいな。」
両手を頬にやってクネクネと照れる優は顔が赤くなってるように見えて色っぽかった。
少しくらいは自分の欲望に忠実になってもいいよな。
ガンッ!
「嫌だったら殴ってでもどかせ。」
いつぞやに優に言われたことをそのまま言ってやった。
それにより優は今から俺がなにをするのか分かったのかそっと目を閉じた。
佐原綾乃が言っていた。『体の相性も大事』と。
☆
久しぶりに来たテーマパークだったが意外と楽しめた。
クリスマスの時期になったらまた皆で来るのもいいな。
時刻は夜の7時。
このテーマパーク恒例の行事が今から始まるというので俺と優はレストランの外の席に座っていた。
「今日は楽しかったよ!ありがと!」
優からの今日一日の報酬は頬へのキスだった。
人が周りにいるからの配慮なんだろうけどそれでも近くの客の数人が反応した。
俺としても今日は楽しかった。
結局最初に封じられた『疲れた』、『だるい」、『嫌だ』というのは一回も言わなかった。
それほどに楽しかったんだ。




