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第五話 急展開

あれから1週間が経った。

風凪も俺と一緒にいるのに慣れたのか自然と笑顔を見せてくれるようになった。


学校にいる時も帰り道もアイツらが来ることはなかった。

そろそろ大丈夫だと思い風凪を一人で帰すことにした。


「今日は1人で帰ってみるね。」

「気をつけろよ。」

「危なくなった青君の家でも私の家でもいいから飛び込んできて!」


優は風凪の手をがっしりと握った。


「うん。ありがとう。じゃあまた明日。」

「バイバイ!」

「おう。」


俺と優は校門から風凪を見送った。

これが後に俺を絶望へと導く選択となることを今はまだ知らない。


「つくしちゃん。一週間前と比べると笑顔増えたね。」

「そうだな。」

「青君が頑張ったからだね。よしよし。」

「やめろ。もう子供じゃねぇんだから。」

「えー。優奈お姉ちゃんがよしよししてあげるのに〜。」

「お姉ちゃんってたった2ヶ月しか変わらないだろ。」


俺の誕生日が12月、優の誕生日が10月

2ヶ月先に優は産まれてる。

だから、こうして時々、お姉ちゃんぶる。

身長は俺の顎くらいまでしかないくせに。

今も背伸びして届くかどうかだ。


「2ヶ月でもお姉ちゃんなことに変わりはないんだよー。」

めっちゃウザイ。


「んじゃ、お姉ちゃんに性について教えてもらおうか。」

「え、え、いや、あの、それは、まだ早いんじゃないかなー。」

「俺は高校生だぞ?丁度いい時期だろ?」

「いや!来ないで!襲われる!」


俺はそのまま優に手を伸ばしてデコにデコピンした。


「へ?」

「これに懲りたら一生姉ぶるんじゃねェぞ。」


少しドスを効かせた声で言った。


「もー!青君の意地悪!」


しかし、俺の威嚇なんて優には通じない。

いつもの調子で怒ってる。


こんなやり取りをしながら帰っていつもどおり道の真ん中で別れた。


(あ、母さん今日泊まり込みとか言ってたってけ。)


家の中が静かで気づいた。

家の中に誰もいない。よって、自由の身となった。

俺は部屋で一眠りすることにした。

母さんがいると何かと呼ばれてなにかやらされるからこの時間には寝ないことにしてるけど今日は寝る。


今日一日ぶっ続けで授業に出てたからクタクタだ。


制服のままベットに倒れ込む。

(風凪。無事に帰れたか?)


そんなことを考えながら俺は眠りについた。



キーンコーン。キーンコーン。

俺が目を覚ましたのは家のチャイムが鳴ったから。

外は雨が降っているからかそれとも時間的なものなのか空は暗い。


鳴り止まないチャイム。

多少のイラつきと眠気を引きづって玄関に向かう。


鍵を開けてドアを開けると眠気とかイラつきとかそういったものが吹き飛んだ。

それ程に驚愕だったからだ。


「風...凪?」

「ごめんね。早速来ちゃった。」


眉を少し下げて申し訳なさそうにする風凪。

しかし、そんなことはどうでもいい。

俺が驚いたのは風凪がいたからじゃない。


風凪はずぶ濡れで服は泥だらけで口は切ってるのか血を流し顔とか腕には殴られたような痕があったからだ。


「とりあえず。風呂に入ってくれ。風邪ひく。」

働かない頭を最低限動かしてそれだけ言った。


「うん。ありがとう。」

風凪はそのまま風呂場に行って体を温めて貰った。


(服も濡れてるから着替え必要か。)

数珠繋ぎになって湧いてくる行動を一回一回噛み砕いて理解する。


「風凪!着替えここに置いておくから!俺のででかいかもだけどごめん。」


聞こえて来たのは返事じゃなくて啜り泣く声だった。


リビングに戻った俺は自分の愚かさを呪った。


なぜ、安全だと思った?

なぜ、今日もついて行かなかった?

なぜ、俺は分かっていない?


「また、やっちまうとこだった。」

小さくそう呟いた。


過去に置いてきた心の傷(キズ)が疼く。


これで分かった。

あの時から俺はなんも分かってない。

あの事件をへてなお俺は理解出来てなかった。


また人を殺してしまうとこだった。


俺の中で罪悪感だとか俺への怒りとかそんな感情がぐちゃぐちゃになって頭の中を埋め尽くす。


「クソ。なんで俺は分からねぇんだよ。クソ!クソ!」

「花形君?大丈夫?」

「ああ、大丈夫。...じゃなくて、風凪こそ大丈夫なのか?」

「うん。体は温まったよ。」


「なにがあったか聞かせてくれるか?」


風凪から聞いたことは主に4つ。


・例の奴らが襲ってきたこと。

・今度は数が増えていたこと。

・逃げるのに時間がかかったこと。

・逃げるのに俺の家に来たこと。


風凪の話を聞いてるあいだも俺の中に重いものがのしかかってるかのようにずっしりとしていた。


「ホントにごめん。俺の不注意だ。もっと最悪の状況を考えれば良かった。」

「ううん。花形君は悪くないよ。花形君は私を助けてくれたもん。それだけで私がどれだけ嬉しかったか分かる?」


風凪はこういうが俺の中ではそんな簡単に処理しきれない。


「花形君は過去になにかあったの?だから、私を助けてくれたの?」

「確かにそうかもしれない。過去の罪悪感を風凪を完璧に救うことによって塗り替えようとしていたのかもな。」


「話すよ。俺の過去。」


その過去(キズ)は中学の時に出来た。


当時中学二年生の時、1人の男子生徒がイジメを受けているのを見てしまった。

その時に、見なかったことにすればいいものを俺は助けに入ってしまった。


結果、イジメられていた奴らから解放した。


いじめられた生徒の名前は篠崎直人。

坊主頭で野球部だった。

イジメグループはその野球部の同級生から先輩までいた。

そいつらは直人の野球の技術に嫉妬してイジメを働いたと後で聞かさせた。


イジメから解放して以来イジメを受けなくなったと思われた。

しかし、いじめなんてそんな簡単に消えるもんじゃない。


いつもの一緒に帰ってた直人とその日だけは別々で帰った。

もう大丈夫だと慢心し切っていた俺はなんも疑いもせず帰った。


次の日だ。

直人が自殺してたと学校に知らせがあったのは。


実際に遺体を見たわけじゃないから詳細は分からないけど、直人の母親が言うには、身体中に殴られた痣とか骨が折れた箇所があったりボロボロな状態で自室の天井から首を吊って自殺したらしい。


その時、俺の中では罪悪感で一杯だった。

実際に殺してなくても俺が殺したようなもんだった。

俺が中途半端に手助けなんかしたから直人を自殺にまで追い込んでしまった。


「でも!それって花形君が責任を感じることなんてないんじゃ...あ、ごめんなさい。なにも知らないのに。」


それまで黙って聞いてた風凪が口を開いた。


「直人の周りの人間は同じことを言ったよ。『ありがとう。直人の味方でいてくれて』って。」

「けど、一人だけ違った。」

「直人には姉がいたんだ。その姉に言われたよ。」


「『お前がしたのは直人の手助けじゃなくて自殺の手助けだ!』って。」

「そこでやっと目を覚ました。なにがダメだったのがそこでやっと理解したつもりだった。」

「そこで理解してたらこんなこと起きないよな...」


「花形君は間違ってないよ。」


風凪は真っ直ぐ俺を見つめて言った。


「花形君がした事は間違ってない。だって、その子を助けようとしたのは今までの花形君を見てれば分かることでそれは一番私がよく知ってる。一番知ってるからこそ言える。花形君は自分で自分を責めないで。」


風凪の目は真っ直ぐ一点の曇りもない目をしていた。

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