第五十六話 感情レッスン?
風凪と一緒に来たのは学校の最寄駅から3駅離れたショッピングモール。
平日だというのに人が多い。
「なんで、ショッピングモールなんだ?普通のスーパーじゃだめだったのか?」
「うーん。少し遠くに行ってみたくて。ここ、1人じゃなんか寂しいから。」
「そうなのか?俺はこういうとこ来ないから分からん。」
「花形君は優奈ちゃんに連れてこられるタイプだよね。」
たしかに、そのパターンが多い。というかそのパターンしかない。
「なにか目的があって来たのか?」
「一応、あるんだけど...」
風凪はなんだか言いにくそうにしていた。
その答えはすぐに分かった。
「あー...そういう...」
俺の目の前にあるのは女性の下着コーナー。
たしかに、ここに一人で来るのは多少勇気がいるかもしれないが、俺が入るにはもっと勇気がいる。
「あの、自分だと似合ってるのか分からなくて...それで、花形君に手伝ってもらおうかなって...」
「お母さんに頼めばよくないか?」
「それだと変なの持ってくるから...」
まあ、大体の想像はついてたよ。そういうタイプの人だから
「正直、下着ってそんなにこだわらなくてよくないか?誰かに見せるわけじゃないし。」
「そうなんだけどね...それでも気になる人のこと考えたら可愛いのがいいなって思うのが乙女心だよ」
「その乙女心を全く分かっていない俺に手伝わせていいのか?母親が嫌なら優にでも頼めば...」
「優奈ちゃん、結構大きいから...私より大きいから...」
あー地雷だったかな?
だから、女心が分かってないとか杏奈に怒られるんだ。
「そ、そうか。俺でよければ手伝う。」
「よかった。花形君が優しくて。」
あの場面で断れることは俺には出来ない。
地雷を踏んでしまった手前、断ることが出来なかった。
まあ、女子の下着姿を見られて役得だと思うことにしよう。
それからは風凪に似合う下着を見た。
最初は恥ずかしそうにしていた風凪も次第に慣れたのか平気で見せてくるようになった。
夏休み中に優と真奈の水着を同じようにして見てたから今更下着ぐらいで...と思っていた俺が馬鹿だった。
水着と下着ではドキドキ感というものが違った。
水着は皆にいずれ見せるものだが下着は違う。
その下着を俺だけが見ているという背徳感があった。
水着は慣れてもこればかりは慣れない。
「花形君?どうしたの?顔赤いよ?」
「だれのせいだと思ってる。俺だって下着は見慣れてないんだ。緊張だってするしドキドキだってする。」
「あぅ...そうだよね...緊張するよね。」
お互いに赤くなって傍から見ればバカップル全開の俺達だったが風凪がなにかを感じとったらしく俺の手を引いて試着室の中に引き込んだ。
「風凪!おま、なにして!」
「ご、ごめんね。これしか方法が思いつかなくて。」
「一体なにから隠れてるんだ。」
そう言った直後に風凪が俺を試着室に入れた理由が分かった。
『杏奈ちゃん?ホントに青君がここに来てたの?ここ女性の下着コーナーだよ?』
『いえ、先ほどここから先輩の声がしたものですから。』
優と杏奈がすぐ近くまで来ていた。
声からしてまだ距離はあるがあのままでは見つかっていただろう。
風凪に感謝.....
ふと、下に目線をやると風凪の胸を包む一枚の布がこんにちはした。
(風凪!なんでシャツもなにも羽織ってないんだ。)
試着室はそれなりの広さがあるとは言え高校生2人がはいるには少し狭い。
だから、さっきから風凪の胸が上腹あたりにずっと当たり続けている。
当の本人は優達を気にしてるから全く気にする気配はない。
(耐えろ!俺の理性。今まで耐えてきただろ!)
今は自分の理性を応援することしかできない。
『いませんね。絶対に先輩の声だったんですけど。』
『いなくて当然だよ、ここ女性の下着コーナーだし青君に限ってそんな性癖はないよ...多分。』
そんな特殊性癖はございません。正真正銘のノーマルです。
『いないならいいです。』
『下でなにか食べようか。』
『そうですね。龍平先輩にも連絡しておきます。』
龍平まで来てるのか。
こんな場所になんで優達が?
ここは最寄り駅から3駅離れてるんだぞ?
『龍平先輩が「青砥が風凪さんと仲良さそうに電車に乗るのを見た」というから来てみましたが...このショッピングモールではなかったようですね。』
『青君たち、なにしにここまで来たんだろうね。』
それはこっちの台詞だよ。
なんで俺を追いかけて用事もないこのショッピングモールにきたんだよ。
暇人かよ。
取り敢えず、龍平をあとでボコそうかな。
優達が去って俺と風凪は一息ついた。
「危なかったね。」
「そうだな。ちなみに俺はまだ危険なんだが。」
「え...あ、ごごご、ごめんね。私全く気付かなかった。」
「分かったからそんなに暴れると...」
急に恥ずかしくなったのか風凪は俺から離れた。
すると、ハンガーをかけるフックに風凪が着ている下着のホックが引っかかった。
器用にホックを外された下着は肩紐があるため完全には落ち切らないにしろ肘のところまで滑ってきた。
「「..............」」
お互いになにが起きたのか判断できずに硬直する。
「あ、あ、あ、あ」
「大丈夫。俺はなにも見てない、そうなにも見てない。」
一応今は目を瞑ってはいるがさっきバッチリ目があってるため焼け石に水状態である。
風凪がフリーズしてる間に試着室から出て近くのベンチに座った。
さっき見た光景が頭の中でリピートされる。
優よりサイズはないもののそれでもしっかりと質量を持っていて下着語越しの感触はマシュマロをおしつけられているような感触だった。
そう考えるだけで頭が熱くなって沸騰しそうになる。
数十分して風凪が袋を持って出てきた。
「あの、あのね。さっきのはわざとじゃなくてほんの偶然だから。」
「分かってる、あれはハプニングでだれのせいでもない。」
今までの光景を一時的でも頭から消し去って答える。
ここで顔を赤くしようものなら思い出して興奮する変態となってしまう。
いや、見てしまった時点で変態のレッテルは免れないのだが
「この後はなにか予定でもあるのか?」
「あとは特にないかな。花形君さえよければ優奈ちゃん達と合流しようと思ってるんだけど。どうかな。」
「俺は別に構わないぞ。龍平に用あるし。」
「あ、演劇のこと?」
「ん、ああ。そうだな。」
実際はサンドバッグになって貰おうと思ってるんだけど。
優達は下の飲食街でなにか食べると言っていたから一階に向かう。
数件ある飲食店の中で優達が行きそうな店は一件だ。
「やっぱりいた。」
そこは女子向けのカフェで男が一人で入るには結構勇気がいるほど中は女子高生で満席だった。
「あ!青君!こっちこっち!」
「店内で叫ぶな。迷惑だろ。」
「まあまあ、今更だよ。」
そう思うなら直そうか。
「風凪先輩も一緒なんですね。」
「ああ、今そこで会った。で優達の声がしたから覘いたってわけだ。」
「....そうですか。」
杏奈は完全に怪しんでるな。
まあ、その予想は当たってると思うけど教えてやることもない。
俺は杏奈に夢中だった龍平の隣に座って風凪は優の隣に座った。
「先輩達はなんの用事があったんですか?」
「ああ、俺達本屋にいたんだよ。そこで会った。」
「くっ。なんの本ですか。」
悔しそうにこっちを見るな。
その睨みは龍平にやってくれ。喜ぶぞ
「俺はライトノベル、風凪は...なに探してたんだ?」
「えっと、参考書だよ。」
「...そうですか。」
うわーめっちゃ悔しそう。
俺や風凪の反応でわかると思ったらしいが生憎、演劇の練習で演技は慣れたんだ。
「そういう杏奈達はなにしに来たんだ?」
「このカフェが気になってたんですよ。」
「そうなのか、けどここって結構高くないか?」
「はい、ですからその為の龍平先輩なんですよ。」
険しい表情から一変してあっけらかんと話す杏奈はもはや清々しさすら感じる。
そして、後輩から奢れと言われた龍平は気にした様子もなく杏奈に夢中だ。
可愛そうに。
カフェでゆっくりした後、優達の買い物が始まってしまったため俺は龍平と一緒に店の外のベンチで座っていた。
優達がこうなってしまった以上、長くなるのは間違いなかった。
「龍平、お前。俺と風凪が校門にいたとこ見てたんだな。」
「おうよ。青砥に話かけようとしたら風凪さんと楽しそうに話してたからやめたんだ。」
「もしかしてそういう関係になったんじゃないかって思って杏奈ちゃんに連絡して後をつけてきたんだよ。ま、途中で見失ったけどな。」
「そうかそうか。」
「ん?なんでそんな怖い顔で迫ってくるの?青砥、今、めっちゃ、怖い。」
「余計な事をする子には罰が必要だよな。ほら、髪の毛全部むしり取るからもっとこっちに寄れ。」
「あの、ほんとごめん。だから、許して。」
「嫌だ。」
俺は龍平の頭を掴んで思いっきり髪の毛を抜いた。
優達の買い物が終わったのは、日が完全に落ちきって空が真っ暗になってからだった。
「んじゃ、俺は風凪を送り届けるから優と杏奈をよろしくな。」
「おう。青砥こそ途中で風凪のこと襲うんじゃないぞ。」
「お前を後ろからナイフで刺したくなった。」
「こわっ!」
冗談を言いながら龍平達とは別れた。
「今日はありがと。」
「別にいいもの見せてもらったし。」
「は、花形君はデリカシーというのはないのかな!?」
「あったら良かったな。」
「もう!」
横で風凪が頬を膨らませて怒っている。
今日のあの姿を見たあとだとそんな所も可愛いなと思ってしまう。
風凪を安全に送り届けたあと俺が家に着いたのは夜の9時だった。
女子の買い物に付き合うとこういうのは当たり前になってしまう。
楽しければ別にいいんだが。




