第五十五話 メニュー思案
『たかが男1人だ!全員で囲めば行ける!』
『死ねや!』『貰った!』『穿つ!』
俺に向かって剣だの槍だのが向けられる。
それを一瞬の隙をついて剣で殴打して昏倒させる。
「カット。」
その合図と共に倒れていた龍平達が起き上がる。
「戦闘シーンなんだけどもう少し勢いというか迫力を持たせられない?」
「具体的には?」
「伊波さんの案はもう少し剣戟の時間を取ればいいんじゃないかって。」
「伊波の言う通りではあるが俺たち素人にそれができるのか?」
「そこなのよね。今から教えてる時間はないし…。うーん。そうね。そこは男子達に任せるわ。怪我しない程度でお願い」
怪我しない程度ってかなりアバウトな言い方だな。
「観客を楽しませるため。仕方ない犠牲よ。」
おいコラ、今確実に『犠牲』って言ったよな?
俺、怪我するのやだよ?
「うるさい。男でしょ。」
理不尽だ。
しかし、俺の心の叫びは誰一人として届かなかった。
文化祭まで1週間を切るといよいよ忙しくなってくる。
演劇の練習が終わるとその足でカフェの料理練習に向かう。
風凪と俺が監修してお菓子にアレンジを加えていく。
と言ってもクッキーの模様だとか形、味を試していくだけだけど。
流石女子高生。
女子ウケしそうなお菓子をどんどん作り上げていく。
パンダ模様のクッキー、既存のクッキーにいちごチョコなどをつけて楽しそうにアレンジをしている。
俺はその試食係に任命された。
のだが、優達がつくるお菓子のほとんどが甘い。
糖尿病になりそうなほど甘いお菓子の数々で途中でギブアップした。
だから、今はアレンジの元となる生地を作っている。
目の前ではお菓子の試食会やアレンジが行われていて教室中に甘い匂いが充満する。
そのため数人の男子が廊下で作業している。
「花形君、クッキーの生地ってまだある?」
「今焼いてるので最後だ。」
「ありがとう。」
「あまりアレンジしすぎるのもどうかと思うぞ。」
「大丈夫、そのへんは考えてるから。」
ホントかね。
そういう風凪の後ろではもはやなんのお菓子だったか原型を留めていないナニカがあった。
「.....チャレンジは大事だよ。」
「.....無理にフォローしなくてもいいぞ…」
あれはもうはや食べ物ではない。
ピカソの絵の中にあっても何ら不思議じゃないからな。
それを楽しそうに食べる優達はほんとに人間なのだろうか…見てるだけで吐き気がしてくる。
結局、カフェで出すお菓子はパンダ模様のクッキーといちごチョコとノーマルチョコのハーフクッキーなど普遍的な物が採用となった。
過程で出来上がったお菓子は各個人で持ち帰って食べることになった。
.....これは真奈行きだな。
そして、生徒会室に俺はいた。
「あの甘い匂いって青砥のクラスか。」
「なんの匂い?相当きつい匂いがしたけど...」
「一応お菓子類の匂いです。これが成果と言うか負の産物というか...」
「見た目は美味しそうね。」
「貰ってもいい!?」
「別に構いませんよ。どの道妹行きだったんで。」
「それじゃあ、いただきまーす!」
加奈先輩はクッキーを口一杯に頬張る
「加奈、行儀悪いわよ。」
「おいひ!」
「それなら良かったです。」
普段、優や風凪とは違う雰囲気を漂わせてるけど、あんな激甘お菓子を美味しそうに食べる2人を見るとやっぱり二人とも高校生なんだなと思う。
「で、俺はなんで呼び出されたんですか?」
「ああ、それなんだが...この暗号文で何を思い浮かべる?。」
そう言って差し出された1枚の紙。
『RHBこ』
そう悪筆な形で書かれていた。
「8ですかね。」
「その根拠は?」
「これは『RHBこ』じゃなくて『121-113=』なんじゃないですか?その場合、答えは8です。」
「ご明察。ではこっちはどうかな?」
『「それ」を3人でやる時、相手の合計が2なら0を出せばいい。
4なら0、5なら5、7なら2、10なら2
を出せばいい。では、相手の合計が0なら何を出せばいいだろうか?』
「なんですかこの暗号文。」
「3年のクイズ出すクラスから出された最難関の問題よ。生徒会への挑戦状として来たんだけど中々に難しいのよ。」
「それで、知る人ぞ知る名探偵の青砥に来てもらったんだ。」
「人を煽てるならもう少し言葉を選んだ方がいいですよ。ベタすぎです。」
さて、この暗号文だがヒントはこの数字達だ。
2なら0、4なら0、5なら5、7なら2、10なら2。
これらがヒントになるはずだ。
3にんでやるもので数字が関係するもの。
「私たちの見解はトランプの類じゃないか。という結論に至った。2人でできるトランプは限りれるけど3人なら少し増えるかなって。」
「なら、この数字達の説明はどうするんです?」
「それが謎なのよ。ポーカーかとも思ったのだけどそれだと7と10という数字が出てくるのはおかしいのよ。」
確かに、ポーカーの手札は全部で5枚。
5以上の数字が出てくることはありえない。
それに、ポーカーに置いて0ということは、ノーペア、最弱の手札のことを指す。
4の手札に勝つにはフルハウス...5、でなければならない。
4に対して0だと勝つことは出来ない。
「?勝つことは出来ないってどういう意味?これは3人の勝負なの?」
「そうです。たった今解けたところですがね。多分合ってると思います。」
「答えを聞こうかしら。」
「これは『ジャンケン』ですよ。」
「じゃんけん?」
「2人の合計が2ということは1人はグー、1人はチョキ。ということになります。他も同様に足し算です。
そして、相手の合計が0、ということは2人ともグーを出していることになります。」
「なら、2人に勝てるパーを出せばいい。この暗号文の答えは5です。」
「なるほど、流石青砥ね。私達じゃあさっぱりだったわ。」
「可愛い後輩だなーもう!」
「あまり頭を撫でないでください。髪が乱れます。」
「ありがとうなー!これでクイズ出してるクラスにドヤ顔で乗り込める。」
「そんなこと考えてたんですか...」
やることが野蛮というか野性的というか...
まあ、それも含め加奈先輩だ。
先輩達に解放されたのは放課後になってからだ。
まあ、謎に割く時間より演劇とかお菓子作りに割く時間の方が長いから当たり前ちゃそうなんだけど。
俺はバックを持って校門に向かう。
そこには既に風凪がいた。
「悪い、また生徒会長に捕まった。」
「大丈夫、花形君を独占する訳にはいかないから。」
感情のレッスンをすると言ってから今日まで風凪にずっと教えて貰ってる。
「風凪は放課後、俺に付き合って大丈夫なのか?」
「え?なんで?」
「いや。ほら、演劇とかお菓子作りとかずっと俺と一緒だろ?嫌にならないのかなと思っただけだ。」
「花形君は私と一緒にいるの嫌?」
「そんなことはないぞ。」
「なら、私も同じかな。」
なんか上手く流された感凄いけどまあ本人が嫌じゃないならいっか。
実際に感情の出し方に苦労してるのは事実だ。
「今日はなにするんだ?」
「えっと、今日は買い物をしようかなって。」
「なんで?買い物するシーンってあったっけ?」
「その...私もミミちゃんの感情ってよく分からないから掴んでいきたいんだ。」
風凪でも困る感情なんてあったのか。
演劇の練習でも風凪がNGを出したことはない。
止まる理由は主に俺。
ほんとに申し訳ない。
「あの『ナイトを好きになる』っていう指示がまだ掴めてなくて。」
「あーまあ、好きでもない男が相手だから仕方ないか。俺が相手でホントごめん。」
「ああ...えっと...そうじゃなくて...」
「違うのか?」
「と、取り敢えず行こ!あまりゆっくりしてるとゆっくり買い物出来ないから!」
そう言って風凪は早足で歩き出した。
俺はゆっくりとそのあとを歩いていった。
あの反応はなんだったのだろうか?
なんか、本当は言いたいことが違った。みたいな反応だった。
最近の女子高生ってほんと分かんね。




